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OA機器販売のM&A|小さな会社でも従業員を守れる理由と進め方

この記事では、後継者不在に悩むOA機器販売会社の経営者様に向けて、従業員の雇用を守り、会社を存続させるためのM&Aの基礎知識と具体的な進め方を、OA業界特有の視点で解説いたします。

後継者不在のOA機器販売店オーナー様へ。従業員を守るM&Aという選択肢

経営者様が抱える「後継者がいない」「従業員をどうするか」という深い悩みに対し、M&Aが単なる売却ではなく、想いを繋ぐ解決策になることをお伝えできればと思います。

「後継者がいない」「従業員の将来が心配」「こんな小さな会社でも…」

長年、地域のお客様に支えられ、共に汗を流してきた従業員と会社を守り続けてこられたことと思います。しかし、ご自身の年齢を重ねるにつれ、「自分が倒れたら、従業員や家族はどうなるのか」「お客様のメンテナンスは誰が引き継ぐのか」という不安は年を取るにつれ大きくなっているのではないでしょうか。

特にOA業界では、営業力のある従業員や、お客様との信頼関係で成り立つ商売であるため、単に数字上の利益が出ているだけでは安心できないという悩みもあります。「うちのような小さな会社を引き継いでくれる相手がいるのか」という声も少なくありません。その悩みは、決してあなただけのものではありません。

M&Aは「会社を売る」ことではなく、大切な従業員と事業を「未来へ繋ぐ」手段です

「M&A」という言葉を聞くと、「会社を身売りする」「乗っ取られる」といったネガティブなイメージを持たれるかもしれません。しかし、現在の中小企業におけるM&Aは、まったく異なる意味合いを持っています。

それは、後継者がいない場合に、意欲ある第三者の企業にバトンを渡し、「従業員の雇用を守り」「お客様へのサービスを継続し」「会社を存続させる」ための、極めて前向きな経営判断です。廃業を選べば、従業員は職を失い、お客様はメンテナンス難民になってしまうかもしれません。M&Aは、あなたが大切にしてきた「人」と「想い」を未来へ繋ぐための、有効な選択肢の一つです。

※M&Aを行うことのメリット・デメリットについてより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

なぜ今、OA機器販売業界でM&A(事業承継)が増えているのか

個別の問題ではなく、OA機器販売業界全体で事業承継M&Aが増加している背景にある、 課題と市場の変化について解説します。

後継者不足は業界共通の深刻な課題

日本の中小企業全体で後継者不足が叫ばれていますが、OA機器販売業界も例外ではありません。親族内承継が難しくなっているだけでなく、社員への承継も、個人保証の引き継ぎや株式取得資金の問題でハードルが高くなっています。

そのため、親族や社内にこだわらず、外部の企業に引き継ぐ「第三者承継(M&A)」を選択する経営者が急増しています。これは、「会社を畳む」という最悪のシナリオを避け、地域に必要なサービスを残すための現実的な解決策として定着しつつあります。

ペーパーレス化・DX化の波と、生き残りをかけた業界再編

OA業界を取り巻く環境は、ペーパーレス化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展で、大きく変化しています。複合機のカウンター料金収入だけに依存したビジネスモデルからの脱却が求められる中で、単独での生き残りに限界を感じるケースも増えています。

こうした中で、ITソリューションに強い企業や、エリア拡大を目指す同業他社と手を組む(グループインする)ことで、新たな商材やノウハウを取り入れ、事業を安定・成長させようとする戦略的なM&Aが活発化しています。

買い手が強く評価する「ストック収益(メンテナンス契約)」と「地域密着の顧客基盤」

OA機器販売事業の最大の魅力は、販売後の「ストック収益」にあります。新規顧客獲得の難しさが指摘される一方で、複合機を販売することで発生する消耗品や機器の保守料などは、安定したキャッシュフローを生み出すメンテナンス契約という形で蓄積されます。また、地域に深く根差したOA業者様が持つ「地域密着の顧客基盤」は、エリア拡大を目指す買い手企業にとって、ゼロからの開拓では得難い、極めて高い価値として評価されます。

小規模OA機器販売会社がM&Aを行う3つのメリット

廃業ではなくM&Aを選択することで得られる、「従業員の雇用維持」「取引先への責任」「創業者利益」という3つの大きなメリットについて解説します。

メリット1:従業員の雇用と生活を第一に守れる

廃業を選択した場合、従業員は解雇となり、再就職活動を余儀なくされます。特に中高年の従業員にとっては厳しい現実が待っています。

一方、M&Aであれば、原則として従業員の雇用契約はそのまま引き継がれます。 買い手企業にとっても、OA業界の経験豊富な人材は喉から手が出るほど欲しい存在です。より規模の大きな企業のグループに入ることで、福利厚生が充実したり、キャリアアップの機会が増えたりと、従業員にとってもプラスになるケースが多くあります。

M&A後の社長や従業員への影響についてより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

メリット2:取引先(お客様)に迷惑をかけずに事業を引き継げる

OA機器販売会社にとって、お客様とのメンテナンス契約や消耗品の供給責任は非常に重要です。ある日突然廃業してしまえば、お客様は業務に支障をきたし、大きな迷惑をかけてしまう可能性があります。

M&Aによって事業を承継すれば、サービス体制を維持したまま、お客様に切れ目なくサポートを提供し続けることができます。 「〇〇さんの会社に任せておけば安心だ」というお客様からの信頼を裏切ることなく、経営者としての責任を全うできます。

メリット3:経営者自身が引退後の生活資金(売却益)を得られる

廃業をするには、在庫の処分や事務所の原状回復、従業員への退職金支払いなど、多額のコストがかかります。手元に資産がほとんど残らないことも珍しくありません。

M&Aで株式を譲渡すれば、会社の資産と将来の収益力(のれん代)が評価され、創業者利益(株式譲渡益)を現金で受け取ることができます。 これは、長年会社を支えてきた経営者様への退職金代わりとなり、引退後のゆとりある生活資金や、新たな挑戦への原資となります。

「うちのような小さな会社でも売れる?」M&Aの現実と買い手の本音

小規模だからといって諦める必要はありません。買い手企業が実務レベルで何を評価しているのか、その本音と現実的な可能性について解説いたします。

結論:規模の大小よりも「事業の強み」が重要

「売上規模が小さいから相手にされないのではないか」と心配される経営者様は多いですが、M&Aにおいて最も重要なのは規模ではありません。「その会社が何を持っているか(強み)」です。

たとえ従業員数名の会社であっても、黒字経営を続けていたり、特定のお客様と強固な信頼関係があったりすれば、M&Aの対象として十分に魅力的です。実際に、年商数千万円規模のOA販社が、大手企業や中堅企業に譲渡されるケースは数多く存在します。

買い手(譲受企業)が小規模OA販社に求める3つの価値

買い手企業は、単に会社を大きくしたいだけではありません。小規模なOA機器販売会社が持つ、以下の「3つの資産」を求めています。

1. 安定したメンテナンス契約(ストック収益)

OA業界最大の魅力は、毎月のカウンター料金や保守料による安定したストック収益です。買い手企業にとって、買収直後から確実なキャッシュフローが見込めるメンテナンス契約の束は、非常に価値が高い資産です。

2. 優秀なサービスエンジニア(技術者)の確保

少子高齢化により、技術者の採用は年々難しくなっています。地域でお客様の機械を熟知し、トラブルに即座に対応できる熟練のサービスエンジニアが在籍していることは、それだけで大きな買収動機になります。

3. 特定エリアでの顧客基盤(シェア拡大)

自社がまだ進出していないエリアや、シェアが低い地域において、すでに強固な顧客基盤を持っている会社は魅力的です。ゼロから営業所を立ち上げて開拓するよりも、時間を買って一気にシェアを獲得できるからです。

OA機器販売会社のM&A、何から始める? 簡単5ステップ

M&Aの全体像を把握していただくために、専門家への相談から最終的な引継ぎまでを5つのステップに整理し、時系列で分かりやすく解説します。

M&Aの流れについてより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください 

ステップ1:M&Aの専門家(仲介会社・アドバイザー)への相談

まずは、M&Aの専門家に相談することから始まります。この段階ではまだM&Aをすると決めていなくても構いません。「自社の現状で可能性があるか」を聞くだけでも大きな一歩です。秘密保持契約を結ぶため、情報が外部に漏れる心配はありません。

ステップ2:自社の「強み」の整理と企業価値の簡易査定

専門家と共に、決算書やメンテナンス契約一覧などを確認し、自社の強みを整理します。その上で、「自社がいくらくらいで評価されるか」という株価の簡易算定を行います。これにより、具体的な売却イメージを持つことができます。

ステップ3:買い手候補企業への打診と面談

会社名が特定されないような匿名情報(ノンネームシート)を作成し、買い手候補となる企業に打診します。興味を持った企業が現れたら、秘密保持契約を結んだ上で詳細情報を開示し、トップ面談を行います。ここで経営理念や、従業員への想いを直接相手に伝えます。

ステップ4:基本合意と詳細調査(デューデリジェンス)

条件の大枠で合意したら「基本合意契約」を締結します。その後、買い手企業による詳細な調査(デューデリジェンス)が行われます。これは、財務や法務、ビジネス内容に問題がないかを確認する作業で、資料の提出や質疑応答に対応します。

ステップ5:最終契約と従業員・取引先への引き継ぎ

全ての調査と最終条件の調整が終われば、「株式譲渡契約」を締結し、決済を行います。その後、最も重要な「従業員への説明」と「取引先への挨拶」を行います。これらが円滑に進むよう、専門家がタイミングや伝え方をサポートします。

気になる「費用」と「売却価格」の目安

不透明になりがちなM&Aの「費用」と「売却価格」について、一般的な目安と、OA業界特有の査定ポイントを交えて解説します。

事業譲渡が成立するまでの流れや金額計算について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください

M&A仲介会社に支払う費用はいつ発生するか?(成功報酬制とは)

多くのM&A仲介会社では、「着手金」「中間金」「成功報酬」といった料金体系をとっています。 最近では、相談や着手金が無料で、M&Aが成立した時のみ費用が発生する「完全成功報酬型」の会社も増えています。初期費用を抑えたい場合は、こうした料金体系の会社を選ぶと安心です。費用は一般的に、譲渡価格の数%〜数十%程度(最低報酬額の設定あり)となります。

会社の売却価格の目安:「純資産 + 営業利益の数年分」

中小企業のM&Aで一般的に用いられる価格算出の目安は、以下の通りです。

【譲渡価格の目安 = 時価純資産 + 実質営業利益 × 数年分(1〜3年程度※)】 

※ストック収益の質により評価は変動します

「時価純資産」とは、会社の資産から負債を引いた今の会社の価値。「実質営業利益 × 年数」は、将来生み出す利益(のれん代)を指します。

OA業界特有の評価ポイント:メンテナンス契約の「質」と「継続率」

OA機器販売会社の評価額は、一般的な算出方法に加え、「顧客数や複合機などの販売実績」によって変動します。特に、メインの仕入れメーカーが譲受側(買い手企業)と一致する場合、取り扱い商材が同じであるため、M&A後の事業シナジー(相乗効果)がより生まれやすくなり、高く評価される傾向にあります。

また、貴社がメーカーとの関係において一次販売店か二次販売店かという立ち位置も重要です。さらに、長年にわたる安定した取引実績(取引期間の長さ)があるかどうかも、買い手企業にとって信頼性を示す重要な評価基準となります。

従業員のために。失敗しないM&Aパートナー(専門家)選びの3箇条

M&Aの成功を左右する専門家選びにおいて、OA業界の特殊性を理解し、従業員への想いを共有できるパートナーを見極めるポイントを解説します。

1. OA業界の商習慣(特にメンテナンス)を熟知しているか

OA業界は、カウンター方式やリース契約、メーカーとの関係など、独自の商習慣があります。これらを理解していない専門家だと、自社の強み(特にストック収益の価値)を正しく評価できず、買い手に対して適切なアピールができません。業界特有のビジネスモデルに精通しているかが第一の条件です。

2. 「従業員の雇用維持」を最優先に交渉してくれるか

「とにかく高く売れればいい」という考えの専門家では、あなたの「従業員を守りたい」という想いは達成できません。 最初の相談の段階で、「条件面で譲れないのは従業員の雇用維持です」と伝えた際に、その意図を深く理解し、雇用条件を最優先に交渉を進めてくれる姿勢があるかを確認してください。

3. 経営者の不安や感情に寄り添い、難しい言葉を使わずに説明してくれるか

M&Aは経営者様にとって、人生における一大決断です。初めての経験で不安を抱えるのは当然のことであり、専門用語が飛び交うM&Aの世界は、時に恐怖心すら覚えるかもしれません。だからこそ、パートナーとなるアドバイザーは経営者様の「従業員を守りたい」「会社を存続させたい」という想い、そして「本当にこれでいいのか」という不安な気持ちに心から寄り添う姿勢が不可欠です。一つひとつのプロセスを事細かに、あなたが納得いくまで丁寧に説明してくれるか。この「信頼関係」こそが、M&Aを成功に導くための最も重要な土台となります。安易な言葉ではなく、あなたの目線に立って真摯に向き合ってくれる人物かどうかを、見極めてください。

まとめ:OA機器販売会社のM&Aは、従業員と会社を未来へ繋ぐための前向きな第一歩です


後継者がいないという現実は変えられませんが、会社の未来はあなたの決断次第で変えることができます。M&Aは決して敗北ではなく、これまで守り抜いてきた「従業員」と「お客様」を次世代へ託す、経営者としての最後の大仕事であり、愛情ある選択です。


まずは一人で悩み込まず、専門家の意見を聞いてみてください。業界に詳しい専門家であれば、あなたの会社の隠れた価値を見出し、従業員にとっても会社にとっても最良の未来を描くお手伝いができるはずです。

もし、OA業界のM&Aや事業承継について、より具体的な事例や進め方を知りたい場合は、業界の知見が豊富な船井総研あがたFASへご相談いただくか、まずは各業界に特化したM&A・事業承継に関する資料をダウンロードして、情報収集から始めてみてください。

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