旅館業M&Aのメリット・デメリット

事業承継を語ることについて
弊社(船井総研HD)の三代目社長だった小山政彦は、実家がディスカウント事業を営む経営者の二代目でした。実家が商売を営んでいたという環境で育ち、そして、父親である社長と一緒に実家の事業を営んでいた小山政彦は、その経験をもとにしたアドバイスが豊富です。
そんな小山政彦が、弊社の新入社員(実家が商売をしているご子息)にした非常に印象的なアドバイスがあります。それは、「早く結婚して子供を設けなさい」というアドバイスです。当時、船井総研HDの経営者が、その新入社員にどのようなアドバイスをするのか?と思いながら聞く耳を立てていた私としては、少々面食らうような内容でした。
ただ、小山政彦自身、事業承継という経営課題は、業績を伸ばすということや、経営コンサルタントとして成功するよりも非常に難しいこと。そして、時間をかけて準備すべきだということを理解していたからこそのアドバイスだったと感じます。ちなみに、サラリーマンの父親を持つ私には到底できないアドバイスです。
ただ、事業承継という経営課題解決においては、琴線に触れる非常に重要なアドバイスとも思います。また、長年、弊社にて専務取締役を務めた大野潔という者は、クライアントの新社長就任パーティに招かれ、来賓のあいさつをする際、必ず「新社長、辞める時のことを考えてますか?」と問いかけると言っておりました。新社長就任時というお祝いの場になんと不謹慎な・・・と思われる方も多いと思うのでしょうが、大野潔は至って真剣。大野潔としては、社長として活躍すること以上に事業承継のことを考えるのが大事だということを新社長及びその組織に伝えたかったのだと思います。それくらい、事業承継というのは時間をかけて準備すべき事項で、そして、難しいことといえます。
事業承継は時間をかけて準備して・・というのは、多くの経営者が理解していることと思います。ただ、時間をかけて周到に準備しても思い通りにいかないのも事業承継という経営課題の難しいところと思います。そんな諸事情を踏まえた中で、旅館業M&Aのメリット・デメリットを整理させていただければと思います。
1.旅館業M&Aのメリット
M&A成立における最大のメリットは、譲渡企業の経営者ご自身が、ご自身のタイミングで経営者という重圧から晴れて卒業できることに尽きると思います。従業員やその家族。自社を利用されているお客様。取引先各社にご迷惑をかけることなく、経営者を引退することができる。M&Aにて事業承継を成立させた経営者の多くは「55~60歳を超えたら経営判断能力や体力が衰える」とお考えで、60歳前後を境に譲渡を検討されています。承継者候補が育つまで待つというお考えも一案ながら、ただ、経営者ご自身の能力が衰えているにも関わらず、経営の最前線に留まり続けなければならないというのは辛い一面もあります。経営者ご自身のタイミングで事業承継を考えることができるというのがM&A成立における最大のメリットです。
そして、譲渡企業様に主導権があるほど、譲受企業様を選べるというメリットもあります。繰り返しになりますが、様々なステークホルダーにも迷惑をかけず、むしろ、その方々にも成果を享受いただけるようなM&A成立を模索できるのです。M&Aのメリットを最大限享受するには、譲渡企業様に主導権を握れる状況を作ることに尽きるかと思います。
2.旅館業M&Aのデメリット
逆に最大のデメリットは、ご自身が望むような事業承継が成立しない可能性があるということです。できることならば、自分の事業を継いでくれるご子息やご息女に円満引継ぎがしたい。もしくは、長年仕事をしてきた従業員に継いで欲しい。親族内承継や従業員承継に比べて、我が子のように慈しみ、育ててきた事業が他人の手に渡ってしまうというのは何とも言えない辛いお気持ちを抱く方もいらっしゃると思います。ご自身のお考えや今までの事業の実績をリスペクトして引き継いでくださる譲受企業様と出会えたならば、それは素晴らしいことで稀有なこととも考えるべき。ただ、そんな貴重な出会いやご縁に気付けるのも、時間をかけて準備し、ご自身の環境を冷静に俯瞰することができていればこそと思います。
重ねてですが、経営者ご自身が希望するM&Aの成立においては、どれくらい主導権が握れるか?が最も大事です。主導権とは、例えば、「相応しい候補社と出会えなかったら自分自身で事業を継続する」と考えられるようなタイミングで決断する。逆に、「M&Aしか選択肢がない・・。急がないと」という状況だと、主導権はどうしても握りにくくなってしまいます。加えて、業績が良い企業や伸びしろが満載な状況であれば、譲受企業様のオファーは引く手あまた。譲渡企業様が主導権をもって譲受企業様を選択できる状況になります。しかし、例えば、赤字であったりすると、譲受企業様を探すのも難しい状況になります。このように譲渡企業様は主導権を握れる状況でM&A成立を模索することこそ、デメリットに陥らないポイントです。
事業承継という経営課題は、M&Aに限らず、親族内承継や従業員承継等、多くの選択肢があります。そして、時間をかけて準備し、多面的に検討して経営判断をしていくべき最重要事項です。とはいえ、真剣に考え始めた時がスタートで大丈夫。いずれにしても急いて結論を急がず、弊社のような事業承継コンサルティング会社や信頼のおける方々に相談をしながら、ご自身の心境整理をすることが最重要と思います。
旅館のM&Aに関する詳細な情報は、こちらをご参照ください。
1.旅館M&AのTOPページへ
2.2024年の旅館業界M&A振り返り
3.旅館業M&Aのメリット・デメリット
4.旅館業M&Aの特徴
5.旅館M&A譲渡対価の相場観vol1
6.旅館M&A譲渡対価の相場観vol2
7.旅館M&Aの注意点

奥野 倫充
(株)船井総研あがたFAS ディレクター
1996年に船井総合研究所に入社。1998年よりパチンコ業界のコンサルティングに従事している。2019年にパチンコ法人のM&A仲介案件を経験。その後、レジャー産業事業者向けM&Aコンサルティングに従事している。

奥野 倫充
(株)船井総研あがたFAS ディレクター
1996年に船井総合研究所に入社。1998年よりパチンコ業界のコンサルティングに従事している。2019年にパチンコ法人のM&A仲介案件を経験。その後、レジャー産業事業者向けM&Aコンサルティングに従事している。