旅館M&A譲渡対価の相場観vol1

一般的にM&Aという取引において、一般的に譲渡企業様が未経験というケースが多く、交渉過程においては判断業務に悩む企業様が多くいらっしゃいます。逆に、譲受企業様は、どちらかというと経験豊富な企業様が多いです。「(譲受企業様に)上手く言いくるめられているのでは?いつの間にか不利な条件を飲まされているのでは?」と、譲渡企業様が不安になるお気持ちを抱くのは当然のことと思います。
そんな譲渡企業様の不安なお気持ちに少しでも寄り添えることができればと思い、「譲渡企業様が留意すべき注意点」と題し、情報整理をさせていただければと思います。一般的には、仲介業務を担うコンサルタントは譲渡企業様に寄り添う立場なので、その仲介コンサルタントを信頼しながら、下記の留意点を気に留めていただければとも思います。
譲渡企業様にはシビアな評価が下されることが多い項目
旅館業という業種特性も踏まえると、下記の項目は十分にご留意いただき、譲渡企業様ご自身においてもシビアな自己評価をもとに交渉過程に臨むべきと思います。
築年数経過に伴う老朽化問題。そして、給排水の状況
特に水回り(温泉の配管等)の修繕費用が大きくのしかかる旅館業の場合、その修繕費用はシビアに自己評価されるべきと思います。特に、温泉の成分が特徴的な施設の場合、一般的な施設よりも修繕費が発生してしまうので、譲受企業様はシビアに判断せざるを得ないのです。過去の修繕履歴や大規模修繕の実績を開示することが求められるのは仕方ないことです。譲受企業様としては意向表明提出までに建物デューデリジェンス(建物修繕に関する御見積等)を行う希望が出てくるのは一般的なこととお考えいただければと思います。
加えて、給水は井戸水なのか?排水は浄化槽設備があるのか?など、水道光熱費に関する諸条件の開示が求められるのも一般的なことです。逆に、それらの項目を序盤で確認をしてこない譲受企業様は、気を付けた方がいいと思います。後半で減額要求をしてきたり、意向表明後取り下げをする可能性があるからです。
人件費の負担について
増築を繰り返している老舗旅館や、本館、別館、離れ・・など建物が多岐に渡る施設においては、人件費の負担が譲受企業様の足枷になってしまいます。譲受企業様からは「(例えば)離れの建物を閉鎖することで省人化を実現したい」「省人化システムを導入することで販管費のスリム化を図りたい」というご要望が出ることは一般的です。そのため、既存従業員全員の引継ぎ希望という条件に難色を示す譲受企業様があることは想定しておくべきです。
潜在価値が期待できる評価項目
また、逆に譲受企業様がプラス評価をする項目は下記となります。譲渡企業様としては、できれば、潜在価値を評価いただける譲受企業様に出会えることがベストです。
客単価アップ見込みや部屋数増設の余地がある
特にアフターコロナとなり、総じて客単価アップの時流となっている中、その改善に未着手な譲渡企業様の場合、潜在価値があると見込むことができます。その価値に関しては、仲介コンサルタントに客観的なアドバイスを得ながら把握すべきです。また、敷地が広く、部屋数増設の余地がある施設の場合においても、譲渡企業様は仲介コンサルタントに客観的なアドバイスを求めるべきです。
省人化推進による利益率向上
無人チェックインシステムを導入するなど、オペレーションの改善余地がある点と改善余地のよるコスト削減効果に関しても譲渡企業様は数値で把握すべき要素です。こちらも仲介コンサルタントに客観的なアドバイスを得ながら把握すべきと思います。
稼働率改善余地について
そして、もちろん、稼働率改善余地に関しても譲渡企業様は数値で把握すべきです。譲受希望企業様には、具体的にどのような手を打って稼働率改善を図るのか?等をヒアリングします。仮に破談となった際においても、自社の改善余地として活かすべきです。
買い叩かれない交渉の進め方
重ねてになりますが、譲渡企業様は未経験な企業様が多いこともあり、総じて譲受企業様に買い叩かれるような錯覚に陥りがちです。そして、実際に、買い叩かれることに不信感を抱く譲渡企業様もいらっしゃると思います。譲渡企業様が主導権を握りながら交渉を進めるためには、やはり、下記の要素が重要です。
現時点での営業利益が黒字なのか?赤字なのか?
最大のポイントはやはり現時点での営業利益実績です。赤字施設の場合、総じてシビアな評価を受けることが一般的で、譲受企業様が消極的にならざるを得ない条件にもなります。天と地の差があるといっても過言ではないのが現時点での営業利益実績です。譲渡企業様としては、とにもかくにも黒字化することに全力を尽くす。それが叶わないならば、買い叩かれるのもやむなしと考えて交渉に臨むのが無難と思います。
譲受企業が抱く不動産取得リスクを回避する
特に築年数が古い施設の場合、譲受企業としては、不動産所有のリスクが最大の足かせとなるといっても過言ではない。M&Aの交渉成立を望む譲渡企業様としては、不動産譲渡に固執せず、「土地・建物は賃貸。営業権と造作は譲渡対象」と譲渡成立の諸条件をアレンジするような発想を持つことが肝要です。
重ねてになりますが、上記に記載した内容においては、仲介担当のコンサルタントに相談したら客観的な回答が得られるはずです。譲渡企業様は、信頼できる仲介担当コンサルタントとの二人三脚で譲受企業様とのご縁を引き寄せていただければと思います。
旅館のM&Aに関する詳細な情報は、こちらをご参照ください。
1.旅館M&AのTOPページへ
2.2024年の旅館業界M&A振り返り
3.旅館業M&Aのメリット・デメリット
4.旅館業M&Aの特徴
5.旅館M&A譲渡対価の相場観vol1
6.旅館M&A譲渡対価の相場観vol2
7.旅館M&Aの注意点

奥野 倫充
(株)船井総研あがたFAS ディレクター
1996年に船井総合研究所に入社。1998年よりパチンコ業界のコンサルティングに従事している。2019年にパチンコ法人のM&A仲介案件を経験。その後、レジャー産業事業者向けM&Aコンサルティングに従事している。

奥野 倫充
(株)船井総研あがたFAS ディレクター
1996年に船井総合研究所に入社。1998年よりパチンコ業界のコンサルティングに従事している。2019年にパチンコ法人のM&A仲介案件を経験。その後、レジャー産業事業者向けM&Aコンサルティングに従事している。