この記事では、不動産会社の「譲受(買収)」を検討している経営者に向けて、業界特有のM&Aの実務、相場の決まり方、絶対に避けるべき失敗リスクについて解説します。読了後には、自社の価値を正しく把握し、譲渡企業の社員や取引先を守りながら円滑に事業承継を行うための具体的な道筋が理解可能です。
経営の正解は、一つではありません。 まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、 次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。 プロの目利きで自社の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。
【不動産業界専門コンサルタントが担当】「出口戦略」診断で自社の価値を正しく守る。ベストな承継を実現するための第一歩。

不動産業界のM&Aについての全体像を知りたい方はこちらもご覧ください。
1. 不動産会社M&Aの現状|なぜ今「M&A(第三者承継)」が増えているのか?
近年、不動産業界におけるM&Aは急増しています。その背景には、経営者の高齢化に伴う「後継者問題」と、生き残りをかけた企業の「規模拡大意欲」が強く結びついている現状があります。
後継者不足と「2025年問題」による廃業リスクの回避
多くの地方や中小規模の不動産会社では、創業社長が高齢を迎え、引退の時期が迫っています。
しかし、親族に後継者がいなかったり、子供がいても「苦労をかけたくない」と承継を断念したりするケースが後を絶ちません。
黒字経営でありながら、後継者不在を理由に廃業を選択するのは、地域のオーナー様や長年働いてくれた社員にとって大きな損失です。
M&Aは、こうした「黒字廃業」を回避し、会社の存続を図るための現実的な選択肢です。
買い手市場の加熱|異業種参入とシェア拡大の好機
一方で、譲受側の需要は非常に旺盛です。
特に、建設会社やリフォーム会社が「ストック収益(毎月の管理料)」や「顧客基盤」を求めて不動産管理会社を譲り受ける異業種参入が増えています。
また、同業他社にとっても、ゼロから管理物件を開拓するより、すでにある基盤を引き継いだほうが圧倒的に効率的です。
この需給バランスにより、優良な不動産会社は「売り手市場」の傾向にあります。

廃業よりもM&Aを選ぶべき「金銭的・感情的」メリット
廃業を選ぶと、店舗の原状回復や社員の解雇手当など、多額のコストがかかります。
手元に残る資産も大幅に目減りします。対してM&Aで譲渡できれば、創業者には「譲渡益」という老後資金が残り、社員は雇用が継続され、屋号も残ります。
経済的なメリットだけでなく、「愛着ある会社を潰さずに済んだ」という感情的な充足感も、M&Aを選ぶ大きな理由です。
不動産会社を譲受するメリットについて詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
2.不動産会社を譲受(買収)する際の「相場」と「評価基準」
不動産会社の価値は、単なる売上や利益だけでは決まりません。
現場のプロは、管理戸数や物件の質など、業界特有の指標を重視して評価を行います。
管理戸数「500戸」が分かれ目?プロが見る評価のボーダーライン
実務の現場では、管理戸数が一つの目安となります。
例えば、【管理戸数500戸】程度あると、譲受企業にとってはスケールメリットが出しやすく、非常に扱いやすい案件として評価が高まります。
もちろん、300戸程度であっても、譲受企業の既存エリアに近いなどの理由があれば十分な価値がつきますが、一定の規模感は高値譲渡の重要な要素です。
「管理物件の質」で決まる|ワンルームか地主系かで変わる価値
戸数と同じくらい重要なのが「質」です。
例えば、投資用ワンルームマンションの管理が500戸ある場合と、地主系オーナーが一棟アパートや駐車場などを複数所有している場合では、評価が異なります。
後者の方が、建て替えやリフォーム、相続対策などの周辺ビジネス(クロスセル)につながる可能性が高く、【質の高い管理基盤】として高く評価される傾向にあります。
エリアと家賃相場がもたらす「1億円以上」の価格差

管理物件が所在するエリアも評価に直結します。
東京都心部と地方都市では、同じ500戸の管理でも家賃単価が異なるため、毎月入ってくる管理手数料の総額が大きく変わります。
実際、都内の好立地で高家賃帯の物件を多く管理している会社の場合、地方の同規模の会社と比較して、譲渡価格が【1億円以上上振れする】ケースもあります。
収益性の高さは、そのまま企業価値(株価)に反映されます。
不動産会社の譲受相場について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
3. 【実録】不動産会社のM&Aで起こりうる「3つの失敗リスク」
不動産M&Aには、特有の落とし穴があります。
これらを知らずに進めると、成約直前で破談になったり、譲渡後にトラブルになったりする可能性があります。
社員の離反リスク|「発表翌日に顔面蒼白」にならないために
最も避けるべきは、M&Aの発表と同時に社員が動揺し、退職してしまうことです。
過去には、譲渡完了後に社長が「会社を譲渡したぞ!」と不用意に発表した結果、社員がショックを受け、社内が混乱した事例もあります。
特に、地域密着で家族経営的な会社ほど、社員の心情への配慮が不可欠です。
宅建士の確保は最優先|資格手当と残留ボーナス
不動産業において、【宅地建物取引士(宅建士)】の確保は死活問題といえます。
宅建業法では、事務所の「業務に従事する者」5人に1人以上の割合で、専任の宅建士を設置することが義務付けられています。
ここで注意すべきは、営業職だけでなく、総務や人事などの一般管理部門の職員も「従業者」に含まれる点です。
例えば、事務所の全従業者が6名の場合、専任の宅建士は2名以上必要となります。
もし退職などでこの設置義務を欠いた場合、2週間以内に補充等の是正措置を講じなければなりません。
この期限を過ぎても適合させることができない場合、業務停止処分などの厳しい行政処分を受けるリスクがあります。
M&Aの際は、資格手当の増額や、一定期間の在籍を条件とした特別ボーナスの提示など、人材流出を防ぐための具体的な対策を早期に打つことが鉄則です。

オーナー契約の解除|挨拶回りで「契約を切られる」瞬間
管理会社が変わるタイミングは、オーナー様にとっても「契約を見直すきっかけ」になります。
特に、先代社長との個人的な信頼関係で契約していた地主系オーナーの場合、「社長が退職するなら、他管理会社へ契約を変更する」と言われるリスクがあります。
これを防ぐためには、新旧社長が揃って挨拶に伺い、「体制は変わってもサービスは変わらない(むしろ良くなる)」ことを丁寧に説明する必要があります。
契約書の不備は致命傷|口約束を可視化する事前準備
中小の不動産会社では、オーナー様との管理契約を書面で交わさず、長年の「口約束」で済ませているケースが散見されます。
しかし、M&Aにおいて契約書の不備は、将来の収益が保証されないリスクとみなされ、譲渡価格の減額要因になります。
M&Aを検討し始めた段階で、契約書の締結や巻き直しを行い、【権利関係の見える化】を進めておくことが鉄則です。
簿外債務と着服の痕跡|デューデリジェンスで見抜くべき「預り金」
買収監査(デューデリジェンス)で特に厳しくチェックされるのがお金の流れです。
特に不動産会社は、顧客基盤からの家賃や敷金を一時的に預かるため、会社の運転資金と混同しやすい性質があります。
敷金・更新料の使い込みリスクと分別管理の徹底
過去には、オーナー様から預かっているはずの敷金を会社の運転資金に流用し、帳簿上の預り金残高と実際の現預金が合わないという事例もありました。
こうした管理体制の不備は、M&Aにおける買収監査(デューデリジェンス)で必ず露呈し、譲渡価格の暴落や破談に直結します。
2021年に全面施行された【賃貸住宅管理業法】により、200戸以上の管理を行う業者には国土交通省への登録が義務付けられ、オーナー様から預かる家賃や敷金の【分別管理】が厳格に定められました。
具体的には「管理受託した金銭専用の口座で管理する」、あるいは「自社の金銭と明確に判別できる状態で帳簿管理する」といった、厳格な仕分けが求められます。
法遵守は当然ながら、将来的な譲渡を検討しているのであれば、預り金が1円の狂いもなく管理されているか、今一度社内のガバナンスを確認してください。

4. 不動産M&Aのスキーム解説|株式譲渡・事業譲渡・会社分割
M&Aにはいくつかの手法(スキーム)があり、自社の状況や目的に合わせて最適なものを選ぶ必要があります。
株式譲渡|オーナーの手取りを最大化し、許認可を引き継ぐ
最も一般的なのが「株式譲渡」です。
会社を丸ごと譲渡するため、宅建業免許や賃貸管理業の登録、社員の雇用契約などをそのまま引き継ぐことができます。
また、売り手(個人株主)にかかる税金は約20%の分離課税で済むため、【手取り額を最大化しやすい】メリットがあります。
会社全体を譲渡したい場合は、まずこの手法を検討します。
事業譲渡|「必要な事業だけ」を切り出し、簿外債務を遮断する
「事業譲渡」は、会社の中の特定の事業(例:賃貸管理部門のみ)を譲渡する手法です。
譲受側にとっては、不要な資産や、将来の訴訟リスク(簿外債務)を引き継がなくて済むメリットがあります。
ただし、社員の再雇用手続きや、オーナー様との契約巻き直しが必要になるため、事務手続きは煩雑になります。
会社分割|複数事業を持つ会社が「不動産部門」だけを譲渡する方法
「会社分割」は、事業譲渡と似ていますが、組織再編行為として会社を分ける手法です。
例えば、建築業と不動産業を行っている会社が、不動産部門だけを別会社として切り出し、その会社の株式を譲渡する場合などに使われます。
事業譲渡よりも契約関係の引継ぎがスムーズな場合がありますが、税務や法務の手続きは専門的で複雑になります。
5. 成功事例から学ぶ|不動産会社M&Aの「勝ちパターン」
実際にM&Aを行い、成功した事例には共通点があります。
【成功事例①】地域密着の管理会社が大手傘下で成長したケース
関東のある管理会社(管理戸数約500戸)は、後継者不在のためM&Aを決断しました。
譲受先は近隣エリアへの拡大を狙う中堅不動産会社でした。
両社の商圏が隣接していたため、管理効率が向上し、スケールメリットが生まれました。
また、創業者が一定期間顧問として残り、オーナー様への引継ぎを丁寧に行ったことで、管理物件の解約もほとんどなく、円満なバトンタッチが実現しました。
【成功事例②】建設会社が不動産部門を引き継ぎ、収益を安定化
建築をメインとしていた会社が、経営安定化のために賃貸管理会社を譲り受けた事例です。
建築(フロー収益)に加え、毎月の管理料(ストック収益)が入るようになり、経営基盤が盤石になりました。
さらに、管理物件のリフォームや建て替え需要を自社で取り込むことで、相乗効果(シナジー)が生まれ、業績を大きく伸ばしています。
スムーズな統合(PMI)の鍵は「リスペクト」と「給与維持」
成功するM&Aに共通しているのは、譲受企業が譲渡企業に対して【リスペクト(敬意)】を持っていることです。
譲受後すぐに自社のやり方を押し付けるのではなく、相手の良いところは残し、給与や待遇も維持(または向上)させる。
こうした姿勢が社員の安心感を生み、組織の崩壊を防ぎます。
その他昨今のM&A事例を解説している記事もございます。こちらをご覧ください。
6. 【まとめ】不動産会社の譲受・譲渡は「準備」が9割
不動産会社のM&Aは、単なる物件売買とは全く異なります。
人の想い、契約の束、そして法律が複雑に絡み合う、非常に繊細なプロジェクトです。
成功の鍵は、早期の「準備」にあります。
契約書の整備、分別管理の徹底、社員への配慮など、事前の磨き上げを行うことで、会社の価値は大きく変わります。
もし、少しでも会社の将来や事業承継についてお悩みであれば、独断で進める前に専門家に相談することをお勧めします。
M&Aは「相手」があることですが、良い相手と巡り合うためには、まず自社が良い状態でなければなりません。
その分野(テーマ)については弁護士、税理士、司法書士、行政書士のうち、どの専門家に相談すべきか迷う場合は、まずはM&A実務に精通したM&A専門のコンサルティング会社(仲介会社やFA)に相談するのが近道です。
彼らは各専門家と連携しており、全体最適の視点でアドバイスをくれます。
知識を得るだけでは、未来は変わりません。 激変する環境下で、貴社の選択肢が狭まってしまう前に『攻めの出口戦略』を。
独自のノウハウを凝縮した出口戦略診断ツールをダウンロードし、 その上で、プロの目利きで『自社の真価』を直接確かめる。
経営者としての集大成を、最も価値ある形で次へ繋ぐ準備は、今、ここから始まります。
【主導権を握れるうちに、一度プロの視点で「最良の出口」を可視化しませんか?】

不動産会社の譲受(買収)でよくあるご質問
Q1. M&Aを行うと、宅建免許は引き継げますか?
A. 「株式譲渡」であれば引き継げます。会社そのものの所有者が変わるだけなので、免許番号も更新回数もそのまま維持できます。一方、「事業譲渡」の場合は免許の引継ぎができず、買い手側での新規取得が必要になります。
Q2. 従業員に知られずにM&Aを進めることはできますか?
A. 可能です。M&Aの検討段階では、経営陣の一部と専門家のみで進め、秘密保持契約(NDA)を結んで情報漏洩を防ぎます。従業員への開示(ディスクローズ)は、最終契約の直前または直後に行うのが一般的です。
Q3. 不動産会社の買収相場はどのように決まりますか?
A. 一般的には「時価純資産 + 営業権(実質営業利益の2~5年分)」で算出されます。ただし、管理戸数の質や契約継続率、エリアの希少性などにより、営業権(のれん代)は大きく変動します。
Q4. 個人でも不動産会社を買収することはできますか?
A. 可能です。脱サラや独立開業の手段としてM&Aを活用するケースが増えています。ただし、個人の場合は資金調達(融資)のハードルが高いため、十分な自己資金や事業計画の準備が必要です。