日本の人口減少。そして「ライドシェア」「自動運転」が定着したタクシー業界のその後予測

1.タクシー業界の大手寡占化はこれからが本番

 タクシー業界においては上位企業においても売上非公表企業が多いため、なんとも測りかねるところがありますが、総じてタクシー業界の大手寡占化度合はまだまだ未成熟と考えられます。例えばですが、タクシー業界最大手・日本交通様における売上シェアは約7%(タクシー業界全体の市場規模に占める割合)。保有台数シェアは約3%です(筆者調べ)。

 例えば、ゲームセンター業界は上位企業10社売上が市場全体の約6割を占めます。最大手のシェアは10%程度ですが、上位企業での寡占化が完成しつつある。そんなゲームセンター業界においては、「M&Aをして事業拡大をする。もしくはM&Aをしてゲームセンター事業を売却するという経営判断しかできなくなった」とおっしゃっる元経営者もいらっしゃいました。経営改善の手段がM&Aしかなくなってしまうというのは、少し面白みに欠けるところもあるのかと思うのですが、ただ、ライフサイクルが進んだ業種の多くが辿り着くところなんだろうとも思います。

 また、大手企業の寡占化が進行しているパチンコ業界において、その引き金になったのは「自主規制撤廃」「交換率自由化」などの規制緩和策でした。業界全体で自由競争の容認を進めた結果、大手企業の寡占化が促進したとも考えられます。ただ、パチンコ業界において自由競争を進めた背景というのは、大手法人のエゴではなく、お客様のご要望やニーズに寄り添う取り組みを推進したためとも考えられます。規制緩和策≒悪と捉えるのは早計。お客様のニーズに業界全体が寄り添い、必要に応じて規制緩和策を進めないと業界全体が沈没してしまう。そんな側面もあるかと思います。

 2.「ライドシェア」「自動運転」が定着したタクシー業界で勝ち残る法人とは?

いきなり話が他業種の話に逸れてしまい、大変申し訳ございません。タクシー業界に戻したいと思います。経営コンサルタントという立場からみて、タクシー業界というのは、総じてサービス提供レベルでの圧倒的な差別化実現が比較的難しい業種とも思います。ドライバーの教育や接客に力を入れている企業様もあるでしょうし、例えば、高級車やジャンボタクシーといった配車サービス等を備えている企業様もある。様々なサービス差別化策が考えられ、それを実施されている企業様も多いと思うのですが、ただ、競合他社もレベルアップして追随してくる。「○○サービスを磨けば自社は安泰!」が見つけにくいので、圧倒的な差別化実現が難しいと思うのです。

そんなタクシー業界において、例えば「ライドシェア」「自動運転」という新たなサービスを有効活用。お客様からの支持を得る企業様は、やはり、新規参入社ではなく、既存のタクシー事業経営社だと思います。新規参入社に許認可が降りにくい業種と思いますし、そもそも素人発想ではお客様の安全を守るという大義を確保するのは難しいと思うのです。新規参入社においても、既存のタクシー事業社の経験をリスペクトし、事業提携・業務提携を行いながらサービス提供の在り方を模索することになる業種と思います。

 3.そして、30年後の勝ち組タクシー業界の法人とは?

例えば「ライドシェア」「自動運転」というのは、いわば旬の検討サービスですが、古今東西、タクシー業界に限らず、どんな業種においても旬のサービスや経営課題は出てきます。ちなみに「規制緩和」をきっかけに大手寡占化が進んだパチンコ業界にて、今も勝ち残っている法人の共通項は「経営者人材の輩出」になります。約30年前、いわゆる人手不足を解消する人材採用から一歩踏み込み、将来の幹部候補(店長以上)を戦略的に行ったパチンコ法人が多くありました。ちなみに約30年前のパチンコ業界は、いわゆる“流れ者”と言われていた人を人手として頼っていた業種。採用した翌日には居なくなっているような人材も採用しながら、人手不足の解消を図っていた業種です。そんなパチンコ業にて「自社の幹部候補として大卒社員を採用する」と一念発起。そして、それを続けたパチンコ法人が現在進行形の勝ち組共通項になります。

ちなみに、勝ち組の共通項として「大卒採用を約30年続けた」という点も重要ポイントと思います。取組当初は店長候補と見込んで採用した人材が、現在は経営者人材として頭角を現しているのがパチンコ業界勝ち組企業です。そんな勝ち組企業においては、オーナー一人が必死に踏ん張らなければならない状況ではなく、約30年前に蒔いた種が花咲き、経営者として頼りになる存在となった。資本と経営の分離が進んだことでオーナーも幸せ。経営者として活躍する人材もやりがいのある仕事を任されていて、もちろん、相応の年収も提供されている。

ただ、約30年前に始めたころは、今のような状況は想像することができるわけもなく、ただ必死に人手不足そ解消するべく、それから一歩踏み込んだ取り組みとして大卒社員の新卒採用に取り組んだ法人ばかりでした。それを続けたことで、想像を超える大輪の花が咲いた。そんな成功事例と捉えていただければと思います。

4.30年後を見据え、経営者人材の育成にチャレンジし続けた企業こそ、タクシー業界の次世代勝ち組になる

少々、他業種事例が多くて申し訳ございません。現在においては「ドライバー人材不足」に悩むタクシー業界ですが、その人材不足を解消するべく、それを一歩踏み込んで「将来の幹部候補&目の前のドライバー不足解消」という発想で大卒採用にチャレンジいただければと切に思います。なぜなら、そのチャレンジがドライバー不足という課題解消に加えて、自社の20年後、30年後・・・を支える屋台骨になるからです。人手不足解消を目指した採用活動だけなく、「人材育成を見据えた投資」という発想にてご検討いただければと思います。

ただ、大卒社員採用(高卒社員採用も含めた新卒採用)は、途中で辞めてしまうと経営者人材を輩出することはできません。というのも、新たに入社した幹部候補生の育成を通じて、先輩社員が成長する。ので、先輩社員がマネジメントの経験をする環境を作り続けることも重要になります。また、大卒採用という取り組みを通じて、自社の経営課題が浮き彫りになってきます。来て欲しいと思った人材の入社辞退や早期の退職という経験を通じ、自社の改善点に向き合う必要に迫られるのも、成長痛を感じるところです。そして、苦労して採用した人材に時には残念な気持ちになる(例えば想像もつかない裏切られ方をする等)ことも起こるでしょう。ただ、そんな困難を乗り越えて経営者人材を輩出できた企業様というのは、次世代の勝ち組になるのは間違いないと思います。

奥野 倫充

(株)船井総研あがたFAS ディレクター

1996年に船井総合研究所に入社。1998年よりパチンコ業界のコンサルティングに従事している。2019年にパチンコ法人のM&A仲介案件を経験。その後、レジャー産業事業者向けM&Aコンサルティングに従事している。

奥野 倫充

(株)船井総研あがたFAS ディレクター

1996年に船井総合研究所に入社。1998年よりパチンコ業界のコンサルティングに従事している。2019年にパチンコ法人のM&A仲介案件を経験。その後、レジャー産業事業者向けM&Aコンサルティングに従事している。