事業承継

特例承継計画の提出期限はいつ?メリット特徴についても徹底解説!

自社株式を後継者へ承継する際の贈与税(相続税)の税制上の優遇措置の一つとして、特例事業承継税制があります。本コラムでは、特例事業承継税制の基本的な内容から、その適用に不可欠となる「特例承継計画」について解説します。

特例事業承継税制とは?

中小企業の円滑な事業承継を税制面から支援するため、令和9年12月31日までの自社株式の贈与・相続を対象とした時限的な制度(特例措置)です。これは、従来からあった事業承継税制の「一般措置」を大幅に拡充したもので、後継者が先代経営者から非上場株式等を承継した際の贈与税や相続税の納税が猶予され、最終的には免除される可能性がある点が大きな特徴です。

特例事業承継のメリットと特徴

1. 実質的な税負担ゼロの実現

特例措置では、対象となる非上場株式の全てについて、承継時の贈与税・相続税の100%の納税が猶予されます。後継者がさらに次の後継者に株式を承継した場合など、一定の条件を満たすと猶予された贈与税・相続税が免除され、実質的に事業承継時の税負担をゼロにできる可能性があります。

2. 対象者の大幅な拡大

先代経営者1人から後継者1人だけでなく、複数の株主から最大3人の後継者への贈与・相続も対象となりました。これにより、共同経営の形で事業承継を進めやすくなっています。

3. 雇用要件の緩和

一般措置で厳格だった雇用維持要件(承継後5年間平均で、雇用の8割を維持)が大幅に緩和されました。特例措置では、雇用が8割を下回った場合でも、経済産業大臣の認定を受けた「認定経営革新等支援機関」の指導・助言を受け、その理由を報告することで、納税猶予は打ち切りされず、継続されます。

4. 将来的な売却・廃業時の税負担軽減

事業承継後に経営環境が変化し、株式を売却・廃業等せざるを得なくなった際に、その時点の株価を基に納税額を再計算し、当初猶予された税額との差額を減免する仕組みが導入され、将来の不安が軽減されました。

 

一般措置

特例措置

対象株数

議決権総数の3分の2に達するまでの株式

全株式

納税猶予割合

贈与税は100%、相続税は80%

贈与税・相続税ともに100%

猶予継続中の雇用要件

5年間平均で承継時の8割以上の雇用数の維持ができなければ、納税猶予を打切り(納税)

左記未達成でも、納税猶予が打ち切られることなく、継続されます

納税猶予対象者の拡大

複数の株主から代表権を有する1人の後継者のみ

複数の株主から代表権を有する最大3名までの後継者への株式承継も制度の対象

新たな

減免制度

売却・廃業等による納税に際し、承継時の株価を基に課税

売却額や廃業時の評価額を基に再計算し、左記金額との差額を

減免

 

特例事業承継税制を利用するために前提となる手続き

特例措置の適用を受けるためには、後継者が事業を承継し、その後も企業を持続的に発展させていくための具体的な経営戦略を明確にすることを目的とし、認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けて「特例承継計画」を作成し、令和8年3月31日までに都道府県知事に提出して確認を受ける必要があります。

(「特例承継計画」の主な記載事項)

項目記載内容の概要
会社等に関する事項
会社の基本情報、特例代表者(先代経営者)、特例後継者(最大3人)の氏名など。
承継時までの経営の計画
株式等を後継者が取得するまでの期間(準備期間)における経営上の課題とその対応内容。
承継後5年間の経営計画
後継者が株式を承継した後の5年間の具体的な事業計画。事業を持続・発展させるための具体的な取組内容を記載します。売上や利益の目標数値の記載は必須ではありませんが、具体的な行動内容が必要となります。
認定支援機関による所見
指導・助言を行った認定経営革新等支援機関の名称、指導・助言の内容など。

特例承継計画作成上の留意点

1.提出期限の厳守

令和8年3月31日の期限は、特例事業承継税制の期限(令和9年12月31日)とは異なり、この計画の提出が遅れると特例措置の適用を受けられなくなります。

2.認定支援機関の関与

計画の作成には、認定経営革新等支援機関による指導・助言が必須です。

3.経営の具体性

承継後の5年間で会社をどう成長させるかという具体的な戦略(事業の「見える化」と「磨き上げ」)を伴う計画でなければなりません。

4.後継者の確定

計画書に記載された後継者でなければ、特例措置の認定を受けることができません。計画提出後に後継者を変更する場合は、変更手続きが必要です。


船井総研ではオーナー経営者様に寄り添って、総合的な経営判断としてセカンドオピニオンサービスも行っております。組織再編やM&A、事業承継全般に長けたM&Aコンサルタントが対応させていただきます。まずはお気軽にご相談ください。

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事業承継・M&Aに関する基礎知識関連情報は、下記の記事をご参照ください。

1.M&A用語集
2.M&Aと税金
3.株式譲渡
4.株式交換
5.第3者割当増資
6.合併
7.M&A後の譲渡企業
8.M&Aの流れとスキームの種類
9.会社分割
10.事業譲渡

石ケ森 英俊

(株)船井総研あがたFAS 公認会計士

公認会計士 日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)

アーサー・アンダーセン監査部門(朝日監査法人)及びコーポレートファイナンス部門、KPMG FAS、あがたグローバルコンサルティング、独立系投資銀行、自己資金投資会社 等を経て、2025年、船井総研あがたFASに参画。法定監査、IPO支援業務等に11年間従事した後、約25年間に亘り、M&Aアドバイザリー(FA業務)、事業再生アドバイザリー業務、中期事業計画策定等の財務コンサルティング、企業内研修講師業務 等に従事。

石ケ森 英俊

(株)船井総研あがたFAS 公認会計士

公認会計士 日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)

アーサー・アンダーセン監査部門(朝日監査法人)及びコーポレートファイナンス部門、KPMG FAS、あがたグローバルコンサルティング、独立系投資銀行、自己資金投資会社 等を経て、2025年、船井総研あがたFASに参画。法定監査、IPO支援業務等に11年間従事した後、約25年間に亘り、M&Aアドバイザリー(FA業務)、事業再生アドバイザリー業務、中期事業計画策定等の財務コンサルティング、企業内研修講師業務 等に従事。