地域密着の葬儀社が過去最高の業績でもM&Aを決意した理由
- 葬祭業
元 株式会社花駒 取締役会長 小林 利弘 氏(写真左)船井総研 宇都宮 勉(写真右)
京都府南部を中心に「大切な方の終局を、送られし方の立場に立ってお手伝いする」ことを企業理念に掲げて創業当時から地域に愛されてきた株式会社花駒。京都エリアにおける葬儀業の変遷を受け、M&Aを通じて譲渡企業になることを決意されます。事業の存続と葬儀業の変革を軸にM&Aを進めた元取締役会長である小林利弘氏に話を伺いました。
― まずは株式会社花駒について教えてください。
小林氏:はい。株式会社花駒は昭和39年に京都の相楽郡という人口わずか3万人の町で私の義理の叔父(叔母の旦那)が創業した葬儀社です。地域密着の葬儀社として50年以上経営をしてきました。業績も順調に伸び、今では葬儀の施行件数が500件以上にまでなりました。
― 地域密着の葬儀社として体現され、シェアの拡大、業績も過去最高の実績を残したにもかかわらず、なぜM&Aをすることになったのでしょうか。
小林氏:一つのきっかけには、京都エリアで多店舗化を進めている大手葬儀社が自社の隣接する立地に進出してきたことです。我々は特に京都南部エリアを中心にシェアを伸ばして経営をしてきましたが、それ以上のスピードで大手葬儀社がシェアの獲得に乗り出している状況に脅威を感じましたね。
― それは脅威ですね。それ以外にも今、葬儀のポータルサイトの拡大も進んでいますね。
小林氏:そうなんです。3年ほど前からネット葬儀が台頭し始めました。ネット葬儀を経由した案件ですと紹介料が約20〜30%発生します。つまり、当社に直接お問い合わせをいただいた際に見込んでいる粗利がそのままネット葬儀側に支払うことになるため、利益の部分で影響を受けましたね。また、価格競争を助長させる大きな要因にもなっていました。我々だけでなく京都エリアの葬儀社にとって大きな影響をもたらしています。
ネット葬儀の拡大を受けて、私は今後ますます葬儀業界は大手葬儀社の寡占化が進むと考えました。中小の葬儀社は、縮小するか大手を目指す道しか残されていないと感じました。
― 貴社自身が、過去にM&Aで買収された経験をお持ちですが、もっと資本力が必要ということでしょうか。
小林氏:まさにその通りです。年々寡占化のスピードが加速していると肌で感じています。だからこそ従業員の雇用を守り、事業を存続させていくための一つの手段としてM&Aを選択しました。
― 今回譲渡することを決意されましたが、M&Aをする上での狙いなどはあったのでしょうか。
小林氏:現在、大手葬儀社の2社が京都エリアの確固たる地位を確立しています。そのような状況に私も反骨心がありまして。「葬儀社はその2社だけじゃないよ」と市場に訴えかけることで、京都の葬儀マーケットに変革を起こしたいという強い思いがありました。実際に今回のM&Aの譲受企業には、京都の空白マーケットを攻め込むような積極性のある企業を探していました。
― 今回、船井総研から譲受企業をご紹介させて頂きましたが、実際M&Aを進める中で譲受企業に対する印象はいかがでしたか。
小林氏:ひと言でいうと、積極的でしたね。「これからどうしていきたい?今に満足している?」など上昇気流の質問をたくさん受けました。また、私の葬儀業界を変えたいという部分と、譲受企業が京都、さらには関西に進出していく方向性の考えがマッチングし、譲受企業の資本をもってすれば京都の葬儀市場に変革をもたらせてくれる期待が高まりました。
― その中で売る側として気をつけたことはありますか。
小林氏:M&Aは最終的には金額部分の話になります。買い手側としては安く買いたい、そして売り手側は高く買いたいのが本音です。その中で交渉を繰り返していくわけですが、大切なのは嘘をつかずありのままの自社をさらけ出すことが大切ですね。そして譲受企業側も花駒が培ってきたノウハウに興味を示してくれたことで、お互いのノウハウを組み合わせたシナジーの効果に期待しています。
― 今回のM&Aで、顧客への影響はありそうでしょうか。
小林氏:企業はお客様のために存在するものです。葬儀社の場合、一度葬儀をさせていただいたお客様への責任はその後の10年後にも存在し続けることだと考えています。今回のM&Aによって経営陣も変わりませんし、過去に対応させていただいた社員も残ります。花駒の遺伝子を受け継いだ会社が永続的に存続することが何よりも大切だと思っています。
― なるほど。M&Aはデューデリジェンスといった細かい調査も発生しますが、大変だと思った部分を教えてください。
小林氏:すべてが大変でしたね。実際に200以上の質問状や書類の多さにはびっくりしました。あとは法務に関する調査ですね。株式分割における株の処理の仕方など長年経営してきた私でも知りませんでしたし、株券の発行、株主総会の収集などの法務部分は手薄だったため苦労しました。財務に関しては、日頃から数値情報を蓄積していましたが、部門別のP/Lデータを過去5年まで遡る必要がありました。中小企業であっても財務情報のデータベース化を仕組み化し、日頃から自己分析できる環境を整備しておくことの必要性を学びました。
― 葬儀業界に限らず、インターネットによる猛威や大手企業への対応を日々試行錯誤している経営者も多いと思います。今回M&Aという選択をされたわけですが、M&Aの経験からアドバイスできることがあれば教えてください。
小林氏:売る売らないは別として、まずは話を聞いてみることですね。特に売り手側は買い手が見つからないことが一番の不安なので、買い手企業は、興味があれば売り手側にすぐ会うようにすること。そしてM&Aは客観的な評価を受けることにもなりますので、これまでの価値観をいい意味で壊すことにもつながります。葬儀業界に限らず市場の変化が著しい中で、自社を客観的に知るということはM&Aに限らず経営者にとって有効と考えます。
船井総研担当コンサルタントより
光田卓司
株式会社 船井総合研究所 FA支援部マネジメントディレクター
(花駒様のM&Aを担当)
花駒様の業績アップのコンサルティングをさせて頂いている中で、過去最高業績にも関わらず、小林会長からM&A(譲渡)のご相談を頂いた時は、正直なところ驚きました。
現在もコンサルティングを継続させて頂いていますが、グループインされた後も経営者として、更に業績を伸ばされているご様子を見て、あの時の小林会長の判断は凄かったと感じています。