M&AにおけるEBITDAとは
- M&Aコンサルティングレポート
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1. EBITDAとは
EBITDA(イービットディーエー、またはイービッダー)とは、Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortizationの略語で、利払前・税引前・償却前利益の事です。会社の収益力を示す指標の一つであり、キャッシュベースに近い本業の儲けを示す指標となります。決算書のPLに沿って考えると、償却前営業利益ですので、1年間に事業が稼ぎ出す資金の額という概念の指標です。
※設備投資や運転資金の増減は加味されていませんので、フリーキャッシュフローとは異なります。
また、M&Aにおいて、企業の財務面の評価における重要な指標の1つとして、EV/EBITDA倍率があります。EV/EBITDA倍率は、事業価値EV(Enterprise Value)と償却前営業利益EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization)の比率を示したものであり、価格帯決定や財務評価の重要な指標として使用されます。
M&Aにおいて最も多い使われ方は、上記のEV/EBITDA として、EV=事業価値が、EBITDA=償却前営業利益=1年間に事業が稼ぐ資金の何倍か(少ない方が割安で、高い方が割高。EVが7億円でEBITDAが1億円の場合は7倍≒投資回収7年)という見方に使用する事かと思います。
本コラムでは、EBITDAについて、中小企業M&Aでの取り扱いを主軸に、多少粗っぽくも、実務経験者の肌感を交えて、大まかにつかんでいただく事を目的に、解説していきます。
2. EBITDAの計算式
簡単で良く使われる計算式は、
【営業利益+減価償却費】です。
ほぼ言い換えで、細かくすると、
【当期利益+法人税等+特別損益+支払利息+減価償却費】です。
実務上は、更に、個社ごとの決算処理にあわせ、以下の概念を理解した上で、適切な算定・捉え方がされます。
当期利益:ベースとなる利益(計算の出発点)
+法人税等:国や会社規模、繰越欠損金の有無等による差異を排除するよう加算される
+特別損益:一過性の損益の影響を排除するよう計算される
+支払利息:企業の調達力により異なる部分を排除するよう計算される
+減価償却費:キャッシュアウトしない費用を加算している
実務上の上記計算式以外の調整とは、例えば、退職金等を支払っている場合、どの勘定科目に計上しているのか(販管費or特別損失等)により、上記計算式以外の調整が必要となることがあります。販管費計上であれば、当該退職金は+別途加算すべき場合もありますし、特別損失への計上であれば、上記計算の中で、適正に計算される事もあります(営業外損失計上であれば、上記2種の計算:簡単or正しく、では、どちらの計算式を使用するかにより、異なります)。他の留意点もございますので、この辺りは、アドバイザーや税理士・会計士等の専門家とのご相談を推奨いたします。
3.EBITDAとは、どのように考えれば良い指標か
身も蓋もない記載となりますが、中小企業のM&Aにおいては、EBITDAを価格判断の主軸指標に置くと、往々にして良くない結果になります。これは、高い企業価値(バリュエーション)を提示するアドバイザーに譲渡を依頼しやすい、という構造における受注競争の中で、間違った認識がされてきた事が背景にあります。以下、ご興味がある方はご確認下さい。
EBITDAには、株価算定・事業価値算定の概算(バリュエーション)に使われる材料の一つとしての意味が大きく存在します。価格算定(バリュエーション)には、①時価純資産法:純資産+実態利益×〇倍、②類似会社比準法(マルチプル法):ネットキャッシュ+EBITDA×EV/EBITDA 倍率等、③その他(DCF法等)様々な種類がありますが、これらは基本的に、
資産負債状況(土台の価値:貸借対照表から算定)+利益×〇倍(事業の価値を利益から推し量る:損益計算書から算定)
という概念で計算されるものです。
良くミスリードを引き起こしやすい計算方法に、純資産+EBITDA×〇倍というものがあり、往々にして実勢相場より高い評価額となります。
中小企業のM&Aにおいては、EBITDAを価格判断の主軸に置く事はおすすめいたしません。EBITDAが注目される指標となっている背景として理解しておくべきなのは、グローバルに案件検討を行うための指標という側面を持っている事です。M&Aもグローバル化が進む中で、海外案件とも基準をそろえた会計基準の収益力に関する指標が、大規模になる程求められるという状況があります。これは、主に、減価償却費の取り扱いが日本と海外では異なるためで、案件比較をする上でその基準の差異の影響を受けない指標が必要となるためです(営業利益ではグローバルに考えると比較基準が揃わない)。ここに、近年のM&A業者の乱立・譲渡案件の受託競争の過熱化が進んでいる環境があり、高い価格概算値を提示するアドバイザーに受託が集まりやすいという傾向や、低い金額提示をして反感を買わないように高い金額となるようなお話でお茶を濁して提示したまま、追加説明をしないという事パターンの増加が相まって、間違った使われ方が独り歩きを始めています。もちろん、EBITDAは重要な指標で、適正な使用方法はあるのですが、現環境下においては、適正な使用方法がやや置き去りにされている印象がいなめません。
正しい使用方法は、基本的に、
①類似会社比準法(マルチプル法)=ネットキャッシュ+EBITDA×EV/EBITDA 倍率
における使用ですので、【ネットキャッシュ+EBITDA×〇倍】による価格算定です。
※ネットキャッシュ(ネットデット)とは、現金同等物―有利子負債の事です。
②価格算定とは別に、資金繰り・キャッシュフロー等、銀行交渉等の検討上での、重要な指標となります。
詳細は割愛しますが、純資産+EBITDAの〇倍という計算では、建物等有形固定資産の価値と、減価償却費が上乗せする価値とが2重計上の状態になります(設備投資すれば減価償却費が上がり、机上の価格算定値が上がりますが、そんな現実は時価で購入する場合にはありません)。当然、投資回収を考える譲受主の思考とは折り合う事がありません。稀に折り合う場合は、全く別のロジックで譲受主が許容したか、買手が勘違いしたまま実行し、こんなはずではなかった、という事態に陥ります。譲渡オーナーの価値観にもよりますが、例えば、従業員の安心のためにも譲渡したはずが、投資回収の見込みの外れた譲受主に、残された従業員が追い込まれ、それこそ高値で売り逃げしたオーナーという汚名を、意図せず着せられる事態にもなります。
また、そもそも類似会社比準法(同業上場企業の時価総額・株価が、何がしかの指標の何倍であるかを元に、当該倍率を対象譲渡企業の当該指標に掛ける事で、当該譲渡企業の株価を概算する方法)の概念も、ピンときにくいものですから、あまりEBITDAに縛られる事は推奨いたしません。
実務上で言えば、EBITDAは、あくまで譲受側の資金調達における銀行相談に使う指標(返済と返済財源)等、資金繰り・投資回収期間の検討材料としての意味合いが強いものかと思います。もしくは、大規模なM&Aにおいて、海外含めて、収益力基準を統一して比較検討するための重要指標となります。
4.まとめ
・EBITDA=営業利益+減価償却費
=当期利益+法人税等+特別損益+支払利息+減価償却費 等
※個社ごとの事情に応じた調整が必要
・意味は、1年間に事業が稼ぎ出す資金の事
・安易にEBITDAの〇倍という考えに縛られてはいけない。
株価算定(バリュエーション)での使用は、正しく理解しなければ、ミスリードとなる
・株価概算で使用する場合は、ネットキャッシュ+EBITDA×〇倍
いかがでしたでしょうか?EBITDAは、勘違いのしやすさを内包しながら、独り歩きが進んでいる指標かと思います。重要な指標である事は間違い無いのですが、安易な理解で認識されていると、何の未来にもつながらない程の大きなミスリードが引き起こされている可能性があります。しっかりと理解していただければという思いもある一方で、M&Aの検討は表面の単発知識でバランスが取れるものではないという事もございますので、経験値が高く、良きも悪きも納得できる話をする、そんなアドバイザーとの出会いを応援いたします。
2008年銀行に新卒で入行。与信管理・調査部門を4年半程度経験後、21012年頃より、銀行にてM&Aアドバイザリー業務に従事。その後、2019年船井総研に参画後も、引き続きM&Aアドバイザリー業務に従事。
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