M&A譲受後の社長・従業員はどうなる?社長・従業員の各観点からM&Aのメリット・デメリットを解説
- M&Aコンサルティングレポート
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M&A実施後の社長の扱い
「株式を譲渡(会社を売却)したら社長ではなくなる」と思われている方も多くのではないかと思います。
実はこれはケースバイケースです。
我々がM&Aの現場でご支援をさせていただいているケースから見ると、売主側が「社長として残りたい」と意思表示を示せば、社長として残ることができる可能性は高くなります。
一方で、「譲渡して引退したい」や「次の事業を行いたい」と意思表示を示せば、その意思を実現する可能性は高くなります。
つまり、M&Aにおいて株式を譲渡した際の現経営者の立ち位置は、自分たちの意思である程度は決めることができます。
ただし、株主が別の方になりますので、M&A後、取締役の任期ごとに選任される中で、選任されないというケースは稀にあります。
また、役員報酬に関しては、譲り受け企業側の役員報酬との兼ね合いもありますので下がる場合もあります。ただし、下がる場合は、その分を株価に反映させ、譲渡金額を高めることができます。
譲渡をすることで創業者利益(譲渡益)を得ることができ、かつ、その後は役員報酬をもらいながら今まで通りの生活を過ごすことができるということは一つのメリットとも言えます。
※社長継続を望まない場合は、譲渡益を得て役員を退任するという形になります
社長として残った場合のデメリットとしては、今までオーナー経営者として接待交際費等の経費を自分の考えで使用できていたものが制限されてしまうという場合はあります。
我々のご支援先で譲渡後、経営者を継続している社長にヒアリングしたところ、
「『企業が成長するということを目的に譲渡した』と考えれば、接待交際費の制限があることは仕方ないよね。その分、譲渡対価をもらっているわけだから」との返答もありました。
上記のようにオーナー経営者ではなくなるわけですから、今まで通りすべてが一人で決められるといった自由度は少なくなるかもしれません。
その引き換えに、責任という面では軽くなる点も多く、また個人保証が外れる等のメリットもあります。
M&A実施後の譲渡側の従業員の扱い
株式譲渡後の事業主様はどのようになるかを見ていきましょう。
オーナーが変わるので、最初は非常に驚くとともに、「自分たちの仕事・生活はどうなるのだろうか?」と不安に感じられることも多々あります。
雇用条件などを突如変更し、従業員様の待遇が大きく変わるということはありません。労働条件の不利益変更となるようなことに関しては法律で禁じられているので、その点は安心していただければと思います。
一方、オペレーション等は変更をしなければならない場合もありますし、しなくても良い場合もあります。こちらに関しても譲り受け企業次第とはなるのですが、より企業が成長していくために何を行うべきかという点に関しては、親会社となる企業からのノウハウが注入されるケースも多くあります。
M&A実行後にうまく引継ぎができ、従業員様がそのまま継続的に働いていただけるかどうかのポイントは、元のオーナー経営者がうまく引継ぎを行っていけるかで大きく変わると言っても過言ではありません。
多くのM&Aをお手伝いさせていただいている中で、雇用関係がうまく継続できているケースは、元オーナー経営者が最低でも2年~3年は会社に残り親会社となる企業と従業員様の間を取り持って調整していくケースです。
譲渡後すぐに退任してしまうケースにおいては、譲り受け側が継続雇用を希望していても、従業員様側から退職希望が出てしまう確率が高まります。
従業員様の生活で大きく変わる点は、上場企業などが譲り受け企業の場合は、住宅ローンが通りやすくなったり、金利を下げることができる場合もあり、プライベートにおけるメリットは少なからずあります。
【社長から見た】、M&Aのメリット・デメリット
次にオーナー社長にとってM&Aで株式を譲渡するメリット・デメリットを見ていきましょう。
メリット
譲渡対価を受け取ることができる
非上場企業の株式は市場での売買がなされないため、現金化する手法は限られてまいります。親族内に承継する場合は、通常は贈与や相続という手法になるため、対価を得れるどころか引き受け手が税金を支払わなければならないというのが通常です。
親族外の経営陣、従業員様が引き継ぐとなれば、株を引き受けるために銀行から借り入れを起こす必要がありますが、なかなか融資が実行されないというケースもあります。また、融資実行がされたとしても、一般的なM&Aでの売却価格よりも低めの価格での譲渡となるケースがほとんどです。
第三者への株式譲渡となると、1社だけでなく、複数社と交渉し価格提示をいただくことが一般的になるため、自社の市場での評価額で取引を行うことができます。つまり、前述の2つの手法よりも、譲渡対価が高くなり、オーナー経営者の手残りは増えるのが一般的です。
個人保証が外れる
銀行からの融資を受ける際、個人保証を入れているオーナー経営者は多いのではないでしょうか?
M&Aで株式を譲渡した際には個人保証が外れることが一般的です。個人保証が外れることで肩の荷が下りたとおっしゃる経営者は多くいらっしゃいます。
後継者問題に悩まなくて済む
自分の後に経営者を誰にするか、というのも悩みの種であると言われる方も多くいらっしゃいます。ご子息の中や従業員様の中で適任者がいれば、そこに越したことはありません。
しかし、適任者がいない場合は頭を悩ませる種の一つとなります。
株式の譲渡後、適任者がいない場合は、引き受け手から、現経営者から引き継げる人財を送り出してくれる場合もあります。
今まで頭を悩ましていた後継者問題をクリアすることができるのもM&Aで株式を譲渡をするメリットとなります。
デメリット
経営の自由度は少なくなる
前述しましたが、オーナー経営者であった場合と比較すると経営の自由度は少なくなります。
100万円以上経費を使う場合は社長であっても稟議が必要になったり、接待交際費に関しても規定が設けられたりと、今までにないルールが出来上がるケースがあります。
親会社としてはガバナンスをきかせてM&A実行時よりも企業を成長させなければ、大きな投資を伴ってM&Aをする意味がなくなってしまいます。
ただし、あくまでもガバナンスという意味で決まりができるという意味であって、経営者としての立ち位置は変わるものではありません。
社内の反発・ハレーションを調整しなければならない
株式譲渡実行後は社内の中で、「なんであの会社に譲渡するんだ」「社長だけ良い思いをしてずるい」などの反発が生まれる可能性はゼロではありません。
そのような反発が起きた際に、しっかりと「なぜあの会社と資本提携したのか」「株式譲渡は社員様の未来のためだ」ということを伝えていかなければなりません。
実際に実行した会社様の状況を見ていると経営者様が丁寧に説明をしている企業においては、1か月~2か月程度で社員様も納得し、前向きに理解してくれるようになる傾向にあります。
【従業員から見た】、M&Aのメリット・デメリット
メリット
雇用が維持される
譲渡をした場合の従業員様のメリットの一番は雇用が維持されることです。もし、後継者が見当たらず廃業という選択肢を取った場合は雇用を維持することができなくなります。
もちろんM&Aでの第三者への承継だけでなく、現経営陣や従業員様への承継の場合も、雇用の維持をすることができます。
待遇がプラスになる場合がある
譲り受ける企業様は、基本的には自社よりも大きな会社になる可能性が高く、待遇面や福利厚生面で現状よりも充実する場合があります。
また、ケースバイケースになりますが、労働環境も譲り受け企業様の基準に合わせることで、より働きやすい環境になる場合もあります。
ただ、ケースバイケースであることは間違いないのので、トップ面談時に譲り受け企業の従業員様がどのような待遇になるのか、譲り受け企業様の従業員様はどのような働きをしているのか、などを確認しておくことは大切です。
住宅ローンが借りやすくなることもある
譲り受け企業様が上場企業であったり、倒産リスクが低い企業様の場合、住宅ローンが組みやすくなるといった副次的なメリットも出てまいります。
ただし、こちらも譲り受け企業の市場評価の問題が大きく影響しますので、全てのM&Aで当てはまるわけではございません。
デメリット
オペレーションの変革を求められることがある
従業員様にとって一番ストレスに感じる部分は、今までの業務の流れを変えなければならないことです。すべてのM&Aで必ずオペレーションが変わるわけではありませんが、譲り受け企業は、現状維持で良いというわけではなく、さらなる成長を期待する傾向にありますので、新たなチャレンジを指示されることは多くなります。
また、会計基準を譲り受け企業と統一する、システム周りを譲り受け企業と統一する、などバックオフィス業務でも変革を求められることがございます。
企業が成長を続けていくうえで、常に変革をしていくことは必要不可欠になりますが、M&Aを通してより明確にドラスティックに変革が求められるケースもあります。
今まで長年やっていたことを変更するということは、少なからずストレスとなることはございます。
今までと違う業務をしなければならなくなることがある
バックオフィス業務と通ずるものがありますが、稟議の流れを変更したり、ホウレンソウの仕方の変更を求められたり、と業務内容を変更していかなければならないケースも多くあります。
【会社全体から見た】、M&Aのメリット・デメリット
メリット
企業文化やアイデンティティを守ることができる
譲渡すると企業文化がゼロになってしまうのではないかと不安に思われるケースも多くありますが、企業文化・アイデンティティを大切にし、長所を伸ばすことを価値と感じて譲り受けるという企業様もあります。
ただし、あくまでも業績が伸びていく、成長していくことが前提とはなります。譲渡後、業績が下がっていってしまっている状況では何かしらの変革を求められる場合もあります。
逆に言えば、事業が伸びているタイミングで譲渡をすると決断した場合は、企業文化やアイデンティティを保ちやすくなるとも言えます。
社名や屋号を守ることができる
株式を譲渡すると社名や屋号を変えなければならないと思っている企業様もいらっしゃいますが、社名や屋号を維持することも可能となります。
M&Aといっても様々なスキームがあり、一般的な株式譲渡の場合であれば、社名は継続されます。吸収合併などのスキームを選択した場合は社名が消滅してしまう場合もありますが、中小企業のM&Aの場合は株式譲渡や会社分割といったスキームが一般的となります。
株式譲渡や会社分割といった形で企業を譲渡する際は社名や屋号は残る傾向にあります。
投資できる資金が多くなる
譲り受け企業が大手資本に代わることで、借入の枠が大きくなったり、親会社から資金注入をすることによって、投資予算を大きくとることができるようになります。
今まで投資をしたくても中々投資ができなかった、という状態だった企業であっても、投資を積極的にすることで成長軌道に乗せることができます。
デメリット
従業員が離散する場合がある
オーナー(株主)が変わることで、一番のデメリット・リスクとして考えられるのは、従業員様が退職をしてしまうというケースです。
前述のように、変化が伴うことを嫌う方も一定数いらっしゃいますので、100%の方が会社に残ってくれると断言はなかなかできません。
譲渡したことをプラスに捉えることができる従業員様もいれば、マイナスに捉える従業員様もいますので、丁寧に説明しながら極力、従業員の皆様が残ってくれるよう努めていくことが大切になります。
従業員の離散が起こる特徴としては、オーナー社長が株式を譲渡後、全く経営から離れてしまうというケースです。顧問や代表、役員として残る場合は離散を最小限に食い止めることができます。
任期を迎えると退任しなければならない場合もある
経営者として残留したものの、譲り受け企業の期待していたような結果が残せない場合は、退任を求められる場合もあります。
譲渡のタイミングでは契約書に、「何年間は経営者として残る」という条件を盛り込むことがあります。(こちらのことをM&A用語でロックアップと言います)
ただし、この期間が終えた後は、企業が定めている取締役の任期で選任されるか、されないか、ということになりますので、株主総会にて決定することとなります。
株主が他社ですので、自分の意思に反して退任を要求される場合もあります。
船井総研では、50年以上にわたる業種別コンサルティングの経験を活かした、M&A 成立後の業績向上・企業の発展にコミットするM&Aを目指しております。業種専門の経営コンサルタントとM&A専門のコンサルタントがタッグを組み、最適な成長戦略を描きます。