賃貸管理業界のM&Aとは? 現状やM&Aの特徴、重視すべきポイントを解説します。
- 不動産賃貸管理 M&Aレポート
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1.不動産賃貸管理会社とは?
賃貸管理会社とはオーナーに代わって、マンション・アパートなどの賃貸物件の管理を行う企業のことです。不動産管理業務は建物のメンテナンス管理や契約者・テナントに対する管理業務など、多岐にわたるため、すべてをオーナーが行うことは現実的でない場合もあります。そこで、オーナーは手数料を払うことで、賃貸管理会社に管理を委託します。もちろん、不動産を所有するオーナー自身が管理を行うケースもありますが、所有する不動産が複数ある、又は遠方にあるといった事情で、管理を委託するオーナーは少なくありません。
2.不動産賃貸管理業界の現状
1.人口減少に伴う市場縮小
賃貸管理業界の課題の一つに人口減少に伴う市場縮小があげられます。実際に日本人の総人口は2008年で1億2,808万人とピークを迎えた後、2015年には1億2,709万人、2023年には1億2330万人と減少し続けております。また、厚生労働省のデータ「将来推計人口(令和5年推計)の概要」によると、日本の総人口は2040年には1億1,284万人、2070年には8,700万人まで減少すると予測されております。
人口が減少することで、国内市場も縮小することが予想され、減少する顧客を他社との競争によって取り合うことになります。その中で、生き残るためには他社と比較した際の差別化要素が非常に重要になります。
2.単身入居者の高齢化
人口減少とともに進んでいるのが高齢化です。2020年時点で人口における高齢者の割合は約3割となっております。加えて、令和5年度版高齢者白書によると、一人暮らしの人口における65歳以上の割合は年々増加傾向にあり、2020年には22.1%とおよそ5人に1人が一人暮らしという結果でした。また、この数字は2040年には24.5%にまで増加すると予想されております。原因としては世帯の核家族化があげられます。親族世帯の中でも核家族世帯数は増加しており、2020年では86%となっております。こうした原因から賃貸住宅の単身高齢入居者が増えているのが現状です。
単身高齢入居者の中には、親族がいない・頼れない等の事情で連帯保証人がいない、もしくは連帯保証人も高齢で保証人となれないといったケースも増えております。こういった入居者を受け入れることはリスクが高くなるため、賃貸管理会社の需要が高まっています。しかし、それに対する供給が追い付いていないのが現状です。
3.デジタル化の推進
賃貸管理業界はビジネスモデルの特徴からサービスの差別化が難しいとされてきましたが、近年では業務にAIやIoTを導入する企業も出てきました。賃貸管理会社は顧客のターゲット層に合った空室対策、物件再生が主要業務になり、入居率・物件価値向上できる賃貸管理会社が売上・利益を伸ばす傾向にあります。しかし、全国での賃貸住宅の管理委託率が約70%にまで上がり、他社との競争がますます苛烈なものになっていきます。こうした事情から、賃貸管理会社はサービスの多様化、専門性の推進が求められます。そのため、必要に応じてAIやIoTを導入し、多岐にわたる社内業務の効率化をすることが不可欠となります。
3.不動産賃貸管理業界のM&A
1.M&Aの特徴
賃貸管理業務は入居者やオーナー等、固定客からの安定収入があり、管理委託戸数を維持すれば、安定して売り上げを確保することができるビジネスモデルです。また、管理委託戸数を一気に増やすことが難しい一方で、一気に減ることもないという特徴から、不動産関連業界や異業種からM&Aに対する需要が高まっております。
賃貸管理会社のM&Aは基本的に、賃貸管理、不動産仲介、住宅建築といった業界の大手企業が主な買い手となります。この場合、賃貸管理会社が買い手企業グループにグループインすることになります。
2.M&Aで重視されるポイント
①属人性の度合い
賃貸管理業界の、特に中小企業ではオーナー社長がワンマンで経営しており、属人性が強い傾向にあります。M&Aにおいて、独自の受注経路やノウハウを持つ人材を獲得できるという点は、買い手にとって大きなメリットになります。しかし、賃貸管理業界では顧客だけでなく、経営者の高齢化も進行しております。そのため、以下のようなケースが起こり得ます。
A賃貸管理会社は社長が一人で案件を受注し、社内のマネジメントも社長一人が行っているとします。そうなると、その会社の実績は社長に依存することになり、従業員もマネジメント能力のある人材が育ちづらくなります。そのため、仮にA賃貸管理会社をM&Aで取得したとしても、社長が定年退職してしまえば、今後の価値向上は難しくなることがわかります。
M&Aにおいて、買い手企業に好印象を与えるには、人に頼らない受注経路と組織体制が重要になります。前述の通り、賃貸管理には多種多様な業務があります。それらをすべて人が行うとなると、かなりの工数と人件費がかかることが考えられます。そのため、業務のデジタル化により、生産性を向上させることが重要な差別化ポイントになります。また、受注経路に関しても、一社のみというより、複数社候補があると望ましいでしょう。複数社を比較検討し、入札式で選択することで、粗利の最大化を図ることができることに加え、買い手にも営業技術の高さがアピールできます。
②管理している戸数
M&Aによって買い手は、その会社の持つ権利や人材、受注経路を取得することができます。賃貸管理会社のM&Aにおいて特に重要になるのが、管理物件の戸数です。買い手企業は賃貸管理会社のM&Aによって買収企業の持つ管理権限と顧客情報を取得します。つまり、入居者の次のステップを把握することができます。例えば、入居者が引っ越しを考えたとしたら、不動産賃貸仲介、不動産売買などの関連サービスの提供ができます。管理業務は不動産ビジネスの玄関口であり、管理戸数が増えるほど、それだけビジネスチャンスも増えることになります。実際のM&A取引においても、売り手の管理戸数次第で、代金が変わってきます。
4.まとめ
賃貸会社は買収希望が比較的多いため、M&Aの相場金額は高くなる傾向があります。理由としては、通常、不動産管理会社は年間営業利益の3倍~4倍ほどで売却されることに加えて、多少割高なのれん代を上乗せしてでも買収を希望されるケースが多いためです。
賃貸管理会社は買収希望が多く競争率が高いことから、複数の買い手候補から自社にとって理想的な買い手を選択することになります。そのためには、他社との差別化要素や買い手が求めるものをしっかり把握し、双方が納得のいく合意を行うことが重要といえるでしょう。
船井総研では、50年以上にわたる業種別コンサルティングの経験を活かした、M&A 成立後の業績向上・企業の発展にコミットするM&Aを目指しております。業種専門の経営コンサルタントとM&A専門のコンサルタントがタッグを組み、最適な成長戦略を描きます。