本記事では、後継者不在で引退を考える所長先生に向け、小規模事務所のM&Aがなぜ最良の選択肢となるか、職員や顧問先の将来を守る方法、そして具体的な進め方までを専門用語を避け解説します。
小規模な税理士事務所・会計事務所でもM&Aは可能?後継者問題に悩む所長へ
長年、地域に根差して事務所を経営されてきた先生にとって、ご自身の引退は、事務所の終わりを意味するものではありません。特に、身近な方に継ぐ意思がないことがわかった今、「廃業」という選択肢が頭をよぎる一方で、「顧問先や職員に申し訳ない」という責任感が重くのしかかっているのではないでしょうか。しかし、ご安心ください。事務所の規模に関わらず、M&A(合併・買収)は長年の信頼と実績を未来につなぐ、非常に現実的な選択肢となっています。
M&Aは「廃業」以外の最良の選択肢である理由
廃業は、先生ご自身の引退とともに、長年培ってきた顧問先との信頼関係、そして職員の生活の場をゼロにしてしまうことを意味します。税理士事務所の価値は、単なる固定資産や預金残高ではなく、先生と職員が築き上げてきた「信頼」という無形資産にこそあります。
M&Aを選択することで、以下の三方良しの結果を実現できます
M&Aは、先生が長年築いた「長年の積み重ね」を失うことなく、次世代に引き継ぎ、先生が責任感から解放されるための最良の道筋なのです。
税理士法人ならではのM&Aの有効性
税理士法人の事業承継・事業継続を考える中では、M&Aという選択肢は非常に現実的な方法になっています。というのも、税理士法人を維持するためには2名以上の税理士が必須となります。特に2名の税理士による税理士法人の経営をされている場合、税理士資格者の引退や退職となった場合には、代わりに登録する税理士を6か月以内に見つけなくてはなりません。
元々引退時期を決めており、それに合わせて税理士資格者を探すのであればある程度の期間を持って探すことができますが、急逝されてしまった場合や急な退職などが起こった場合には短期間で見つけなくてはならないことになります。しかしながら税理士法人の社員税理士となる方は、そう簡単に選べるものではありません。
無限責任社員として税理士法人の幹部となる人材としての適性を見極め、経営に参画してもらう人材であるかを判断しなくてはなりません。親子で税理士法人を設立された場合などは、親族外の社員を経営に参画させることになり、今までの経営方針とは異なる方針に切り替えなくてはならないこともあり、短期間で進めるのは非常に難易度が高いケースも出てきます。
また、昨今の採用難の状況をみると、税理士有資格者の採用はそう簡単には進まないという現実もあります。税理士法人を維持するためにやむを得ず短期間で社員になってくれる方を探したが、実際に一緒にやり始めたら色々な不具合が出てきてしまい、短期間で解消に至ったお話しや、トラブルになってしまったお話などもお伺いします。
そのため、苦し紛れに無理やり税理士法人の維持を進めるよりかは、大手の税理士法人グループの傘下に入り、法人の経営体制を維持していく方が安全な経営を継続することができることもあるのです。このように税理士法人の事業承継を考える中では、M&Aによる体制の継続というのは現実的な選択肢となってきています。
職員の雇用や顧問先との関係はどうなる?M&Aの最大の懸念を解消
小規模事務所の先生がM&Aに対して最も心配されるのは、「職員の雇用」と「顧問先への影響」でしょう。これは、先生が長年、職員を家族のように大切にし、顧問先との信頼を第一に考えてこられた証拠です。
M&Aでは、これらの「感情面」での懸念を解消することが、実は成約の鍵となります。
職員の雇用: 譲受側(買い手)の多くは、優秀な職員の継続雇用を前提としています。税理士業界は人手不足が深刻であり、事務所のノウハウを知る職員は非常に価値が高いからです。雇用条件(給与水準や勤務地)について、事前に交渉で明確に取り決めることが可能です。
顧問先への引き継ぎ: M&A成立後、引き継ぎ期間(所長先生が一定期間、事務所に留まる期間)を設定するのが一般的です。先生ご自身が顧問先へ丁寧にM&Aの背景と、新しい事務所のメリット(専門性の強化など)を説明することで、顧問先の不安は大きく解消されます。
M&Aのプロセスを通じて、職員の安定雇用と顧問先への円滑な移行という、先生の責任感を満たす具体的な道筋をしっかりと描くことができます。
私は税理士事務所様のM&Aのご支援をメインで担当しており、その中での事例に基づいた私の経験則をご説明させていただきます。M&Aにおいて、関係者への公表タイミングと方法は成否を分ける極めて重要なポイントです。
まず従業員の皆様への告知ですが、不要な動揺や噂の流布を防ぐため、最終契約の直前、あるいは調印直後に行うのが鉄則です。噂だけがねじ曲がって広がると「自身の雇用の不安」を感じて最悪の場合離職につながるケースもあります。これは譲渡先・譲受先双方にとってデメリットでしかありません。
次に顧問先様への告知に関しては、基本的にクロージング後に行います。全件訪問は物理的に難しいため、顧問料決算料の多い重要先には譲受側マネージャークラスと同行訪問して安心感を醸成し、その他は文書通知とする等のメリハリが大切です。
また、事業譲渡に伴う契約の巻き直しは、実は採算の合わない契約を見直す(あるいは終了する)絶好の機会にもなり得ます。
顧問先からは「担当が変わるのか」「値上げされるのでは」「今まで聞いてもらっていた融通が大手だと効かなくなるのでは」といった不安の声がよく上がります。以前お手伝いさせていただいた関東の10名規模の個人事務所様でも、顧問先からこういったお声があったそうです。これに対し、「大手グループに入ることで、高度な専門案件の対応や、組織的なバックアップが可能になる」と、規模拡大によるメリットを具体的に伝えることが離脱防止の鍵です。
失敗事例として、繁忙期に準備不足のまま告知し、今後の体制について明確な回答ができず、不信感から顧問解約が相次いだケースがあります。可能であれば、決算期の区切りなど契約を切り替えやすい時期を選び、「前向きな発展的統合」であることを伝える入念な準備が不可欠です。
職員・顧問先へのM&Aの伝え方について、より具体的なノウハウを知りたい方はこちらをご覧ください。
長年の責任感から解放され、「ハッピーリタイア」を実現しながら、職員と顧問先の未来を守りたいとお考えの方は、まずはあなたの業界に特化したM&A・事業承継の資料をダウンロードするか、一度当社の業界特化のコンサルタントにご相談ください。
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税理士事務所・会計事務所の「本当の価値」はいくら?M&Aの相場観と評価の視点
「うちのような小さな事務所が売れるわけがない」と諦めている先生もいらっしゃるかもしれません。しかし、会計事務所のM&Aで評価されるのは、売上規模や設備投資額だけではありません。
小規模事務所であっても、特に評価が高くなる「隠れた価値」は以下の点です。
優良な顧問先基盤: 長年にわたる安定した顧問契約(特に優良な法人顧問先)は、将来の収益が予測しやすく、高く評価されます。
高い継続報酬率: 顧問先の離脱が少なく、毎月の安定収入が高い事務所は、その「顧問先との信頼の深さ」が評価されます。
優秀な職員の存在: 所長先生がいなくなっても業務を回せる能力を持つ職員がいる場合、その人事評価は大きく高まります。
会計事務所の譲渡価格の一般的な相場観は、「年間売上(顧問料収入)」を基準とすることが多いですが、最終的な評価額は、これらの無形資産を含めて専門家が判断します。先生の事務所の真の価値を正しく判断し、交渉で最大限に引き出すためには、税理士業界のM&Aに精通した専門家の存在が不可欠です。
税理士事務所のM&Aにおける評価方法と、より詳細な相場観について知りたい方はこちらをご覧ください。
税理士事務所・会計事務所のM&Aを成功させるための具体的な進め方
M&Aは特殊な手続きに見えますが、適切な手順を踏めば、先生の負担を最小限に抑えながら進めることができます。最初の一歩として大切なのは、「誰に相談するか」そして「いつ相談するか」です。
M&Aを検討し始めたら、まずは「情報収集」と「専門家への相談」から始めましょう。特に、体力的な衰えを感じている場合は、余裕を持って2~3年程度を準備期間と見込むのが理想的です。
税理士事務所・会計事務所の譲受先(買い手)はどのような先がベスト?選び方のポイント
譲受先となる事務所は、大きく分けて「大手税理士法人グループ」と「中堅・同規模程度の事務所」の2種類があります。先生の事務所の理念や顧問先への想いを継いでくれる、信頼できるパートナーを見極めることが成功の鍵です。
譲受先を選ぶ上での重要な視点は以下の通りです。
経営理念の一致: 顧問先への対応方針や、職員への考え方など、先生が大切にしてきた価値観に近いかを確認しましょう。
専門分野の補完: 譲受側が、先生の事務所が手薄だった分野(例えばIT化、国際税務、資産税など)に強みを持っていると、顧問先への提供価値が向上します。
職員の処遇: 雇用条件(給与、福利厚生、キャリアパス)について、具体的な計画を提示してもらい、職員が安心して働ける環境が維持されるかを確認しましょう。
譲受先は、先生の事務所の「強み」を活かし、さらに発展させてくれるパートナーであるべきです。
過去の事例に基づいて、私の経験を合わせてご説明させていただきますと、地方の先生方とかからは時々「うちの職員はアットホームな環境に慣れているから、大手の管理的な社風は合わない」と、小規模もしくは同規模程度の譲受先を希望されます。
しかし、蓋を開けてみると職員様からは「大手グループの方が将来の雇用や福利厚生が安定する」と、むしろ大手を歓迎する声が上がることが少なくありません。
一方で、本当に注意すべき「ズレ」は、規模ではなく「生活環境との両立」にあることが見受けられます。特に地域密着型の事務所では、以下のような切実な懸念が実際に上がります。
・「家から近いから就職したのに、都心への異動があるなら退職も視野に入れていく」
・「子育てを鑑みて認められていたリモートワークは継続できるのか」
・「車通勤が禁止されて電車通勤になるのは抵抗がある」
などなど、実際の声は多岐にわたります。
成功事例に共通するのは、規模の大小にかかわらず「当面は現状の労働環境(場所・働き方)を維持する」という条件を譲受先と握れている点です。
職員様への説明時には、メリットを伝えるだけでなく、「いきなり明日から何かが変わることはない」という現状維持の安心感をセットで伝えることが、離職を防ぐ最大の防波堤となります。
M&A特有の「専門用語」は気にしない!税理士事務所・会計事務所
M&A基本のスキームを平易に解説
M&Aを進めるにあたり、「事業譲渡」「法人合併」といった専門用語が出てきますが、先生ご自身がそれらを深く理解する必要はありません。大切なのは、「どの形式が、職員の雇用や顧問先との契約引き継ぎにとって最もスムーズか」という点です。これらの形式を「スキーム」と呼びます。
税理士法人をM&Aする際のスキームとは
では税理士法人をM&Aするとなった場合、具体的にはどのようなスキームを取ることができるのか?をお伝えします。現実的なスキームの選択肢としては、「事業譲渡」「法人合併」「持分譲渡」の3つのスキームが考えられます。
事業譲渡
事業譲渡とは、顧問先等のお客様との契約及び従業員との雇用契約など、現在の税理士法人で契約している内容を譲渡し、譲受先の税理士事務所・会計事務所が新たに契約をし直す形でM&Aを実行するスキームです。
税理士事務所・会計事務所のM&Aにおいてはもっとも一般的に実施されているスキームで、個人事務所の場合はほとんどの場合この事業譲渡によりM&Aが行われます。
各種契約はすべて切り直しとなるため、再契約プロセスの中で顧問先や従業員の離脱が起こる可能性があり、より慎重に進めていくことが求められます。一方で過去の税務リスクなどは直接譲受先の税理士事務所・会計事務所が引き継ぐわけでは無いため、一定のリスクヘッジを取ってM&Aを行うことができるものとなります。
法人合併
法人合併とは、2つの税理士法人が合併し1つの税理士法人となるものです。
2つの法人はそれぞれ、「存続法人」と「消滅法人」の2つに分けられ、消滅法人については解散となり、資産の清算が行われます。顧問先や従業員との契約等法的責任や義務も含めてすべて引き継ぐこととなるため、再契約時の離脱などは起こりづらいという点ではメリットがあります。
反面、デューデリジェンスでは洗いきれない過去のリスクなども含めて引き継いでしまうため、思わぬ負債を引き継いでしまう可能性もあり、その点では潜在的なリスクを抱えることにもつながります。
持分譲渡
持分譲渡とは、税理士法人の出資持分を別の税理士に譲渡する形で経営権を譲渡するスキームです。
事業会社の株式譲渡に近く、スムーズに引き継ぎができる形ではあるものの、当然ながら個人にしか譲渡できないものであること、既に別の税理士法人で出資をしている人は譲渡を受けることはできないため、活用できる状況は限られるスキームとなっています。
法人合併同様、顧問先や従業員との契約、過去の取引による債権、債務をすべて引き継ぎますので、潜在的なリスクを見落としてしまうと思わぬリスクを抱えることに繋がりかねないため注意が必要です。
スキームによる譲渡価額の違い
一般的に、どのスキームを選択したとしても譲渡価額に影響することは少なく、あくまで事務所の企業価値に沿った譲渡価額で取引は進みつつ、現代表の継続勤務の都合や役割の見直し、その他事務所の状況に合わせてスキームを選択していくことになります。そのため、スキームによる有利不利というのは少なく、譲受先の税理士事務所・会計事務所との相談の上、スキームを選択していきます。
ただし、スキームによって譲渡対価の支払い方、支払先が異なってきます。
退職金の受け取りや継続報酬による受け取り方などがあり、主には譲渡先税理士法人の代表の個人所得なども考慮し、一度に大きな税金がかからないような方法を取ることが多いです。また、継続期間によっては複数年にわたる分割払いとなることもあります。
どのようなスキームを取ることがベストか?個別事情も踏まえた方法論の選択は専門的な知識や業界でのM&A経験が非常に大事になります。
M&A交渉で「ここだけは譲れない」ポイントと注意点
M&Aの交渉は、単に「いくらで売るか」という価格交渉だけではありません。むしろ、先生が長年大切にしてきた「感情」の部分、つまり非金銭的な条件こそが、交渉における重要なポイントとなります。
特に小規模事務所の先生が交渉で守るべき「ここだけは譲れない」ポイントは以下の3点です。
職員の処遇の明確化: 全職員の雇用維持、給与水準、退職金の取り扱いなど、譲受後の具体的な処遇を契約書に明記することを求めましょう。
引退後の関わり方: 完全引退か、一定期間の業務引継ぎ協力(引継ぎ期間)を行うか。その期間や報酬、役割を明確にしておくことが、顧問先のスムーズな移行に繋がります。
顧問先への配慮: 移行期間中、顧問先への挨拶のタイミングや方法を、先生の意向を尊重する形で進めてもらうよう約束を取り付けましょう。
こうしたデリケートな非金銭的条件こそ、業界特化のコンサルタントが先生に代わって丁寧に交渉を進めることで、感情的な衝突を避け、希望通りの条件を引き出すことが可能になります。
【事例】小規模な税理士事務所・会計事務所のM&A成功パターン
後継者不在でM&Aを検討する先生の多くは、「自分の事務所が本当に売れるのだろうか?」という不安を抱えています。しかし、以下のような条件を満たした小規模事務所は、大手事務所にとって非常に魅力的なM&A対象となっています。
事例: 職員3名、年間売上4,000万円の個人事務所(所長は60代後半)。
このように、規模が小さくても顧問先との信頼と職員の質という無形資産を持つ事務所は、M&Aによって「ハッピーリタイア」と「事務所の永続」を両立させています。
私の経験をお伝えすると、ご自身では「うちはごく普通の事務所だから」と謙遜される先生こそ、実は市場で高く評価される「隠れた価値」をお持ちのケースが多々あります。
一般的に評価が高いのは、他社事例にもある「医業特化」や「毎期一定の相続案件」など(挙げればキリがないですが)を持つ事務所です。これらは参入障壁が高く、そのノウハウ自体に高値がつきます。しかし、それだけではありません。意外な高評価事例を2つご紹介します。
1. 採算性の低い顧問先が多い税理士事務所・会計事務所
一見マイナス評価に見えますが、人手不足の譲受側(大手等)にとっては宝の山です。「不採算契約を整理させていただく代わりに、優秀な職員様のリソースを、譲受側で溢れている高単価案件に充ててほしい」という、「人材・リソース確保」の観点で高値成約した事例があります。
2. クラウド会計・IT化が進んでいる税理士事務所・会計事務所
特別な専門分野がなくても、業務フローがクラウドで完結している場合、統合後のPMI(統合作業)が容易であり、即戦力の組織として非常に好まれます。「右腕となっている方が事務所のソフトを使いこなしている」「特定の業界に強い」「職員が真面目」「ITに抵抗がない」。これらは先生が思う以上に、現在の税理士事務所M&A市場では得難い資産価値を持っています。
まとめ:あなたの事務所の未来を守るために
税理士事務所・会計事務所のM&Aは、後継者不在に悩む所長先生にとって、単なる「売却」ではなく、「長年の努力と信頼を未来につなぐ」ための最良の手段です。職員の雇用を守り、顧問先へのサービスを継続しながら、先生ご自身が望む形でハッピーリタイアを実現できます。
事務所の規模が小さいからと諦める必要はありません。大切なのは、「いつ」「誰に」相談するかです。税理士・会計事務所のM&Aに精通した専門家であれば、先生の事務所の隠れた価値を正しく評価し、最適な譲受先を見つけ、非金銭的な条件も含めて先生の希望を最大限に実現するサポートが可能です。
M&Aに対する漠然とした不安(「職員はどうなる?」「顧問先に迷惑がかかる」)を解消し、「ハッピーリタイア」と「事務所の永続」を両立させるための具体的な道筋を知りたい先生は、まずは業界の知見が豊富な船井総研あがたFASへ相談いただくか、各業界に特化したM&A、事業承継に関する資料をダウンロードしてください。
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