解体工事業

解体工事業界におけるM&Aのメリット・デメリット

解体工事業界において、M&Aは企業を成長させるために有効な手段となりますが、同時にリスクも存在します。それらを正しく認知し、実行することでより確実にM&Aによる成長が見込めるでしょう。以下、譲渡側、譲受側それぞれのメリット・デメリットを解説いたします。

解体工事M&A:譲渡側(売り手)のメリット

後継者問題の解決

中小規模の解体工事業者では、後継者不足が深刻な課題となる場合があります。M&Aにより、事業を存続させ、従業員の雇用を守ることができます。従業員承継を考えている場合でも、株価が思いのほか高くなっており従業員に承継することが難しい場合が増えています。M&Aでは、そういった後継者候補の幹部を社長というポジションに据え、株式は大手に譲渡するということが可能になります。

雇用の安定化

大手企業の傘下に入ることで、従業員の雇用が安定する可能性があります。なかなか単独で採用を行っていくことが難しい中、大手のブランド力を用いて採用が活性化される場合もあります。また、採用後の研修を提携先と合同で行うケースもあり、採用だけでなく育成面の強化も期待できます。

環境対策への対応

アスベスト対策など、高度な技術や設備が必要な環境対策を、資本提携することで譲受側の経営基盤を活用し、強化することができます。また、既に対策を講じている場合はポジティブな評価がされやすくなり、幅広い譲受候補先が出てくることが期待できます。

経営基盤の安定化

大手企業の傘下に入ることで、グループファイナンスが活用でき、資金調達力や信用力も高まり、経営基盤がより安定します。資材高高騰や人件費の上昇により持続的成長を行うことがより難しくなっている今時代ですが、M&Aを選択肢に取り入れることで経営基盤が安定し、主業にも専念しやすくなり、事業の拡大にも踏み込みやすくなるでしょう。

個人保証や担保の解消

M&Aにより、経営者の個人保証や担保が解消される場合があります。中小企業の社長様は個人保証に入られているケースが多く見受けられます。しかし、M&Aで大手と資本提携することでその保証が外れ、肩の荷が降りるというお声をよくいただきます。勿論、譲渡した企業にとって提携して終わりという事ではないので、安心しきるという事は避けなければなりませんが、1つのメリットとしてそういった保証や担保の解消が挙げられます。

売却益の獲得

廃業する場合と比較して、売却益を得ることができます。株式を保有されているオーナー経営者様にとって、経営者利潤を追求することも重要です。その方法はいくつかあり、例えば役員報酬で利潤を得ていくことも可能です。

しかし、そうすると会社の内部留保は溜まりづらくなってしまう可能性もあります。M&Aで売却という選択肢を取ると、まとまったお金を享受できる可能性があり、その資金で新たな事業を始めたり第二の人生をスタートさせたりすることができます。これは経営者利潤を追求する上で大きな選択肢になってくると思います。また、売却益にかかる税率も現在では20.315%と比較的低く、役員報酬で獲得するよりも手取り額が増える場合があります。

解体工事M&A:譲受側(買い手)のメリット

事業規模の拡大と競争力強化

既存の事業に加えて、解体事業を取り込むことで、事業規模を拡大し、競争力を高めることができます。

技術やノウハウの獲得

解体工事業特有の技術やノウハウ、許認可などを取得できます。

人材の確保

熟練の職人や技術者を確保し、人材不足を解消できます。なかなか採用が難しい時代になっていますので、人材確保の観点からもM&Aをうまく活用し推進していくことも大事になってきます。

事業エリアの拡大

事業エリアを拡大できます。会社を成長させていこうと考えた時に、サービス内容を拡充していくことに合わせて、事業エリアを拡大させていくことが考えられます。M&Aでは、自社でエリアを拡大させていく場合に比べてコストや時間を短縮できる可能性があります。

顧客や取引先の獲得

譲渡側(売り手)の持つ顧客や取引先を引き継ぐことができます。地域によっては取引先や顧客を新規で開拓していくことが難しい場合もありますが、M&Aによりそういった取引先や顧客を獲得することが期待できます。

周辺事業への参入

解体業を足がかりに、廃棄物処理業など周辺事業への参入が容易になります。現在増えているのは、建設業機械のリースや販売業の会社、既述の産廃を行う会社、不動産業の会社、総合建設業の会社など周辺事業から買収をきっかけに新規参入を狙う会社が増加しております。

元請けによる下請けの買収

元請け企業が下請けの解体工事業を買収することで、事業の効率化やコスト削減を図ることができます。ワンストップでの受注体制を構築することも可能です。


解体工事業におけるM&Aでは、事業承継や事業拡大の有効な手段となり得る一方で、譲渡側(売り手)と譲受側(買い手)の双方にとっていくつかのデメリットも存在します。

解体工事M&A:譲渡側(売り手)のデメリット

従業員の雇用維持への不安

資本提携後、譲受側の方針によっては従業員の待遇が悪化したり、リストラが行われたりする可能性があります。特に中小規模の解体工事業では、従業員との関係性が深く、雇用維持は重要な懸念事項となります。提携前に、従業員の雇用継続などを提携条件に入れて交渉していく必要があります。

企業文化・経営方針の変化への適応

長年培ってきた自社の企業文化や経営方針が、M&Aによって大きく変わる可能性があります。これまでのやり方に慣れた従業員や経営陣にとって、新しい環境への適応は精神的な負担となることがあります。例えば、譲受側が上場会社の場合、労務管理が厳しかったり、DX化が進んでいたりします。提携によっては労務管理などを譲受先の基準に合わせたり、慣れないシステムの導入を行ったりと、譲渡側の従業員にとって負担になることも考えられます。従って企業文化や経営方針がマッチするかどうかをきちんと見極めることが重要になります。

譲渡後の経営への関与の制限

条件によっては、譲渡後に経営への関与が制限される場合があります。創業者や長年経営に携わってきた経営者にとっては、寂しさや喪失感を覚えることがあります。従って譲渡後の引き継ぎ期間や対象会社への携わり方などは譲受側と話し合っておく必要があります。

譲渡価格への不満

期待していた譲渡価格が得られない場合があります。譲受側の財務状況や事業戦略、市場の状況などによっては、評価額が低くなることもあります。基本的には株価算定の評価の仕方は大きくは変わりませんが、例えば時価純資産法で算定する場合、足し合わせるのれんをなしとして時価純資産のみの評価となるケースもあります。解体工事業界は市場が今後拡大していくことが予想されるため、譲渡側の内容にもよりますがそのような極端な評価になることは現段階では少ないと考えられます。しかし、市場が大きく変化した場合は評価額が低くなる場合もありますので、定期的にM&Aにおける株式価値を算定しておくことが重要です。

情報漏洩のリスク

M&Aの交渉過程で、自社の機密情報や顧客情報が譲受側に開示されます。交渉中に、これらの情報が意図せず漏洩するリスクがあります。M&Aの仲介会社や銀行などに依頼する際、非専任契約で進めると、よりその情報漏洩リスクは高まります。情報公開範囲はなるべく限定し、粛々と進めなければなりません。

解体工事M&A:譲受側(買い手)のデメリット

買収後の統合プロセス(PMI)の複雑さとコスト

買収した企業と自社の組織文化、システム、業務プロセスなどを統合するには、時間とコストがかかります。統合がうまくいかない場合、シナジー効果が思うように期待できず、むしろ経営が悪化する可能性もあります。

簿外債務や偶発債務のリスク

買収監査(デューデリジェンス)で発見できなかった簿外債務や訴訟などの偶発債務が、買収後に発覚するリスクがあります。

従業員のモチベーション低下や離職

買収後の組織再編や待遇の変化によって、被買収企業の従業員のモチベーションが低下したり、優秀な人材が離職したりする可能性があります。そのリスクを避けるために、譲渡側の従業員の中でキーパーソンは誰なのかを把握することも重要です。また、提携後速やかに譲渡側の従業員に対して提携に至った経緯やこれからの方針について説明を行うことも効果的です。

のれん代の償却負担

買収価格が被買収企業の純資産額を上回る場合、その差額は「のれん」として計上され、一定期間にわたって償却する必要があります。これが利益を圧迫する可能性があります。 

買収資金の調達負担

M&Aに必要な多額の資金調達は、買い手にとって大きな負担となります。借入金が増加したり、財務状況が悪化したりする可能性があります。自己資金と借入のバランスを考慮し、買収戦略を策定していく必要があります。

業界特有のリスクの引き継ぎ

解体工事業特有の安全管理、法規制、許認可、地域社会との関係性などのリスクも引き継ぐことになります。これらの管理には専門的な知識と労力が必要です。新規参入の場合は特にそれらに留意する必要があるでしょう。

期待したシナジー効果が得られない

事前に想定していた売上増加やコスト削減などのシナジー効果が、実際には得られない場合があります。市場環境の変化や統合プロセスの失敗などが原因として考えられます。グループに迎え入れることで確実にシナジー効果が得られるとは限りませんが、事前に譲渡側の企業の実態を詳細に把握し、統合後の計画を策定することでよりシナジー効果を発揮できる可能性は高まります。

M&Aは、双方にとって大きな決断であり、慎重な検討が必要です。専門家のアドバイスを受けながら、メリットとデメリットを十分に理解した上で判断することが重要です。

今後の動向も踏まえ、解体業でのコンサルティングを長年行ってきた船井総研グループにまずはご相談いただけますと幸甚です。

解体工事業のM&Aについてはこちらからご確認ください。

1.解体工事業M&AのTOP
2.解体/産廃業の2024年M&Aの振り返り
3.解体/産廃業のM&Aの特徴

「売主が必ず読む本」も下から無料でダウンロードいただけます。



足立裕哉

株式会社船井総研あがたFAS コンサルタント

2023年、船井総研に中途入社。設備工事業に特化したM&A及び事業承継のご支援を担当。建設業・建築工事業を中心に事業承継問題や成長実行支援を行う。エリアは一都三県を中心としているが、九州や中国地方も併せて担当している。

足立裕哉

株式会社船井総研あがたFAS コンサルタント

2023年、船井総研に中途入社。設備工事業に特化したM&A及び事業承継のご支援を担当。建設業・建築工事業を中心に事業承継問題や成長実行支援を行う。エリアは一都三県を中心としているが、九州や中国地方も併せて担当している。