この記事では、動物病院のM&Aにおけるデューデリジェンス(買収監査)について、他業種とは異なる「動物病院特有のチェックポイント」を解説します。読了後には、買い手が何を重視しているかが理解できるようになります。
動物病院のM&Aにおける全体像をまずは知りたい方はこちら
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動物病院M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)の正体
そもそもDDとは?「病院の健康診断」であり「粗探し」ではない
「デューデリジェンス(DD)」という言葉を聞くと、まるで税務調査のように、過去の過ちを暴かれる「粗探し」の場だと身構えてしまう院長先生が多くいらっしゃいます。しかし、M&AにおけるDDの本質はそこではありません。
DDとは、いわば「病院の健康診断」です。買い手企業は、これから引き継ぐ病院が健康な状態か、あるいは治療(改善)が必要な箇所があるかを知りたいだけなのです。ここで重要なのは「隠さないこと」。もし不備があっても、正直に開示して対策を相談すれば、M&A自体が破談になることは稀です。逆に、虚偽の回答をして後から発覚するほうが、信頼関係を損ない致命傷となります。
動物病院のDDが他業種と決定的に違う「ある一点」
一般的な企業のM&Aでは、独自の技術や特許、不動産といった「資産」が評価されます。しかし、動物病院のM&Aにおいて、最もシビアに見られる資産は「獣医師」です。
極端な話、最新の医療機器が揃っていても、そこで診療する獣医師がいなければ、動物病院としての価値は生まれません。特に、院長個人の技術やカリスマ性に依存している病院の場合、院長が引退した瞬間に患者さんが離れてしまうリスクがあります。この「属人性の高さ」こそが、動物病院のDDを難しくしている最大の特徴です。
買い手が見ているのは「過去の数字」より「将来の獣医師確保」
財務諸表上の売上や利益ももちろん重要ですが、買い手(特に大手グループ)がDDで最も血眼になって探っているのは、「譲渡後も診療体制を維持できるか」という点です。
昨今、獣医師の人手不足は深刻です。そのため、買い手は「この病院を買収すれば、安定して獣医師やスタッフを確保できるか」「現在のスタッフは残ってくれるか」という将来の人的リソースを最優先で評価します。過去の栄光よりも、未来の体制維持が鍵を握っているのです。
【人事・組織DD】最大の壁は「常勤獣医師」の残留意思
「院長一人」の病院は評価が下がる?M&A成立の厳しい現実
現場のM&A実務において、非常に厳しい現実をお伝えしなければなりません。もし貴院が「院長一人」で診療を行っており、他に常勤の獣医師がいない場合、譲渡のハードルは極めて高くなります。
なぜなら、買い手側は買収と同時に「新しい院長」を送り込まなければならないからです。人手不足の中、すぐに院長クラスの獣医師を手配できる買い手企業は限られています。ただし、好立地である場合や、豊富なカルテ枚数(顧客基盤)がある場合は、事業拡大(サテライト展開)を狙うグループ病院にとって魅力的な案件となることもあります。諦める必要はありませんが、戦略的な準備が必要です。
M&Aにおける「譲渡価格」や「評価」の仕組みについて、基礎から知りたい方はこちらをご覧ください
買い手企業が恐れる「M&A直後のスタッフ一斉退職」リスク
買い手が最も恐れるシナリオ、それはM&A契約直後の「スタッフの総退職」です。「経営者が変わるなら辞めます」と獣医師や看護師が一斉に去ってしまえば、病院運営は立ち行かなくなります。
そのため、DDの過程では、書類上の雇用契約だけでなく、「スタッフの定着率」や「院内の雰囲気」も密かにチェックされています。長く勤めているスタッフが多い病院は、それだけで「組織としての価値が高い」と判断され、DDを有利に進めることができます。
スタッフへの開示タイミングと、雇用条件引き継ぎの鉄則
M&Aを成功させるための人事DDにおける鉄則は、「労働条件を不利益に変更しないこと」です。給与、勤務時間、休日などの条件は、原則としてそのまま引き継ぐか、より良くする方向で調整します。
また、スタッフへM&Aの事実を伝えるタイミングも重要です。早すぎれば動揺を招き、遅すぎれば不信感を生みます。基本的には最終契約の直前など、買い手と合意形成ができた段階で、院長の口から誠意を持って説明することが、スタッフの不安を払拭し、残留を促すための最良の方法です。
【法務・コンプライアンスDD】動物病院特有のチェックポイント
動物病院における、 ビジネスDD・財務DD・ 法務DD・税務ddなどの専門DDの種類
M&Aの調査は多岐にわたりますが、動物病院で主に行われるのは以下の4つです。
これらを専門家(弁護士、公認会計士、社労士)が分担してチェックしますが、小規模な案件では簡略化されることもあります。
デューデリジェンス(DD)の一般的な流れや、円滑に進めるポイントについて詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
意外な落とし穴!「X線装置・麻薬管理」の届出状況
法務DDで頻繁に指摘されるのが、「届出の不備」です。例えば、レントゲン室(X線装置)の設置届や、定期的な漏洩検査の記録。あるいは、手術で使用する麻薬(ケタミンなど)や向精神薬の管理簿、施錠保管が適切に行われているか。
日々の診療に追われて、「つい更新を忘れていた」「管理簿の記載が漏れていた」というケースは珍しくありません。これらはDD前に自主的に点検し、不備があれば速やかに是正しておくことで、買い手への心証を大きく改善できます。
動物病院 税務 ddの視点:在庫管理と売上の整合性
税務・財務DDでは、医薬品やフードの「在庫」が正しく計上されているかが見られます。個人経営の病院では、在庫管理がどんぶり勘定になっているケースも散見されます。しかし、期限切れの医薬品や過剰在庫は資産価値がないと判断され、譲渡価格から減額される要因となります。DD前に整理を行っておくことが推奨されます。
また、現金売上の管理も重要です。日計表とレジの記録、通帳への入金履歴が整合しているか。これらが整理されていると、買い手は「しっかり管理されている病院だ」と安心し、DDがスムーズに進みます。
【ビジネス・財務DD】「立地」と「評判」が価格を決める
動物病院 ビジネスDD:近隣グループ病院とのシナジー(ドミナント戦略)
ビジネスDDにおいて、意外と見落とされがちなのが「近隣のグループ病院の有無」です。買い手企業がすでに近くに別の病院を運営している場合、貴院の評価は跳ね上がる可能性があります。
なぜなら、近隣であれば「スタッフの融通(ヘルプ)」がしやすく、「得意分野の相互紹介(一次診療と二次診療の連携)」などのシナジー効果が期待できるからです。これを「ドミナント戦略」と呼びます。単独の売上だけでなく、こうした「立地の戦略的価値」も評価対象となるのです。
業界内で回る「噂」の怖さ:評判がDDの結果を覆すことも
動物病院業界は狭い世界です。獣医師同士の横のつながりは強く、どのグループが良いか悪いか、どの病院が働きやすいかという情報はすぐに回ります。
買い手はDDの一環として、貴院の「評判」もリサーチしています。逆に言えば、売り手である先生も、買い手企業の評判(M&A後のスタッフ待遇など)を独自に調べることをお勧めします。数値には表れない「評判」が、契約の最終判断を左右することも少なくありません。
動物病院のM&Aにおけるキャッシュフロー:適正な売却価格の考え方
最終的な売却価格は、病院が生み出す利益(キャッシュフロー)を基準に算出されます。一般的には「時価純資産 + 営業権(のれん代)」で計算されますが、この「のれん代」を大きくするのは、これまで述べてきた「獣医師の体制」「コンプライアンス遵守」「立地の良さ」です。
院長先生が引退後の生活資金を確保するためには、直前の節税対策よりも、適切な利益を計上し、病院としての「稼ぐ力」を証明しておくことが、高値売却への近道となります。
【まとめ】DDを恐れず、選ばれる病院になるために
デューデリジェンス(DD)は、決して恐ろしいものではありません。それは、貴院が長年築き上げてきた価値を、客観的に証明するためのプロセスです。
財務や法務の不備は、専門家の手を借りれば修正できます。しかし、スタッフとの信頼関係や、地域での評判は一朝一夕には作れません。だからこそ、日頃から「人」を大切にする経営が、最終的にM&Aの成功へと繋がります。
専門家への相談を検討される際は、動物病院業界の知見が豊富な船井総研あがたFASへご相談いただくか、まずは各業界に特化したM&A、事業承継に関する資料をダウンロードして、情報収集から始めてみてください。
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動物病院のデューデリジェンスについてよくあるご質問
Q. 動物病院のDDにかかる期間はどれくらいですか?
A. 通常は1〜2ヶ月程度です。ただし、資料(カルテや財務データ)の整備状況によって前後します。事前の準備が期間短縮の鍵です。
Q. DDの費用は売り手が負担するのですか?
A. 基本的にDD費用(弁護士・会計士報酬など)は「買い手」が負担します。売り手の金銭的負担は原則ありませんが、対応の手間はかかります。
Q. 過去の残業代未払いが発覚したらM&Aは中止になりますか?
A. 中止になるとは限りません。未払い分を売却価格から差し引く(減額修正)ことで合意するケースが多いです。隠さずに開示することが重要です。
Q. カルテ(患者情報)はどこまで開示する必要がありますか?
A. 個人情報保護の観点から、初期段階ではマスキング(匿名化)したデータを開示し、最終契約に近づいてから詳細を開示するのが一般的です。
Q. 院長である私が引退した後も、名前を残して営業できますか?
A. 可能です。むしろ買い手側も、地域に浸透した病院名を残すことを望むケースが大半です。屋号の継続はプラス評価に繋がります。