介護業界M&Aの時流と今後:その2
- 医療・介護 M&Aレポート
介護業界のM&Aの時流と今後について本コラムにて解説しています。
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介護業界の市場動向
介護市場のマクロ的動向としては、おおむね規模拡大の傾向にあると言えます。特に超高齢化社会が市場に与える影響は大きいかと考えられます。『介護分野をめぐる状況について』(厚生労働省)で見てみます。介護保険制度導入以降の20年間で、65歳以上被保険者は1.6倍です。要介護(要支援)認定者は3.0倍です。さらにサービス利用者は3.3倍といずれも急増しています。
また、『令和元年度介護保険事業状況報告』(厚生労働省)を見てみましょう。要介護(要支援)認定者数は6,686千人となっております。これは前年度の6,582千人よりおよそ1.6%増加しています。10年前(平成21年度)と比較すれば、およそ38.0%もの増加がみられます。長寿大国として知られる日本ではあります。が、その分、要介護者数は年々増加しており、今後も増加していくと推察されます。
介護業界の行政的制限
一方上記のような拡大市場において、現在では自由に介護施設を設けられない状況です。その要因となっているのが「総量規制」と呼ばれるものです。介護業界における総量規制とは、介護保険法第117条及び第118条に基づきます。グループホーム、地域密着型特定施設又は地域密着型特養が
・介護保険事業計画に定めた定員数に既に達している場合
・当該申請に係る指定によってこれを超える場合
・その他計画の達成に支障が生じるおそれがあると認める場合
には、都道府県知事・市町村長は事業者の指定等を拒否できるというものです。介護サービスに対する自治体の負担軽減や在宅介護の推奨等が目的とされています。
つまり総量規制とは、各市区町村単位の施設や居住系サービスの総量(全部の受け入れ数)に対する規制です。施設を開設する時には都道府県知事による指定が必要とします。都道府県が決めた必要利用定員総数を超える場合には、拒否することができます。
この総量規制により、介護業界での事業立ち上げは困難です。かつ新規参入・新規施設開設困難です。つまり介護業界への参入は、既に介護事業を行う企業の買収が最も容易であると言えます。大資本を持つ企業による既存の介護施設のM&A買収は大いに需要があると考えられます。
介護業界のM&A時流
上記の理由から、介護事業を対象とするM&Aは今後も活発化すると予想されます。介護施設を増やせない以上、業界再編は必然的であると言えるでしょう。また業界内でのM&Aだけではありません。近隣業界やまったく別の業界からのM&A件数も増加していくことかと推察されます。
特に、市場拡大傾向にあり続ける介護市場において、「利益を安定して出していること」。「人口増加率等の規模拡大地域であること」。「介護人材が定着し、採用も継続して行っている」。以上のような介護事業者は、高株価の評価を受けると考えられます。特に「介護人材が定着し、採用も継続して行っている」特徴を持つ事業者は、譲受企業側としても介護事業者M&Aのメリットに直結します。
慢性的な人材不足問題を抱えている介護業界において、自ら採用せずとも現場の人材を一度に確保することができ、大きなメリットとなります。
まとめ
介護業界を取り巻く経済的要素は多く、事業を行っていくためには様々なポイントを押さえる必要がある複雑な業界だと言えます。反対に既に事業を安定して行い、今後も安定が見込める事業者は魅力的な投資先・買収先だと判断されると推察できます。
後継者問題を抱えている方、第三者へのグループインによる企業拡大を望む方等、事業承継についてお悩みのある方は専門家へご相談されることを推奨いたします。
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大手地方銀行にて、中小企業コンサルティング業務に従事。本部にて審査部審査役を長らく務め、中小企業の資金調達や財務管理のみならず、金融機関側の与信判断にも知見を有する。2009年から4年間、銀行の医療福祉支援チームに属し、関西エリアのクリニック開業支援や介護福祉施設の設備投資案件等に数多く関わる。それら経験を活かし、現在は医療福祉業界を中心にM&A仲介業務に従事している。
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