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太陽光発電・再エネ業界M&Aの事例

  • 電気・ガス・エネルギー M&Aレポート

 近年、太陽光発電業界のM&Aが、報道をにぎわせていますが、どのような当時者が、どのような意図をもって、どのようなM&Aが行われているのか、そのポイントを、具体的なM&A事例をもとに分かりやすく解説していきます。

 まずは、太陽光発電事業は、建設業許可の中でも、「電気工事」に関する許認可を要する事業であることから、その許可業者数の推移について見てみます。

 建設業許可業者数全体としては、国土交通書による建設業許可業者調査結果によれば、2023年は約47.9万社と、対前年(2022年)と比べると、約4千社の増加という状況にありますが、2003年は約55.9万社あったことから見れば、この20年の間において、約8万社の減少という推移を辿っています。

 但し、建設業許可業者の中でも、業種を「電気工事」に限った推移で見ると、2010年には約5.4万社だったものが、2024年には、6.4万社と、約1万社の増加という推移であり、社会の電力需要の高まりのほか、太陽光発電業界を含む、再生可能エネルギー業界全体の高まりから、業者数も増加しているものと推察されます。

 そして、2021年に行われた再生可能エネルギー業界におけるM&Aについて、レコフデータをもとに、船井総合研究所により、エネルギー電源別で集計を行った結果、太陽光発電関連が77件、風力発電関連が16件、バイオマス発電関連が19件、地熱発電関連が1件と、太陽光発電関連のM&Aが多くの割合を占めていました。

 こちら、2023年に行われた再生可能エネルギー業界におけるM&Aについて、同様の集計を行ったところ、太陽光発電関連が62件、風力発電関連が32件、バイオマス発電関連が10件、地熱発電関連が9件と、その構成比に大きな違いが出てきており、風力発電関連が非常にその数を増やしていることも明確になってきており、太陽光発電関連は、やや減少しているものの、まだまだそのシェアは大きなものとなっています。さらには、「蓄電池」関連のM&A件数が増加するなど、周辺事業領域においても、M&Aが進んできています。

 

 それでは、その太陽光発電関連のM&Aとして、買収側は、どのような業態・業種が多いのかというと、いわゆるエネルギー関連事業者、商社や投資ファンド、その他、建設・不動産関連事業者などがその多くを占めており、一定程度、連続買収を仕掛けるストロングバイヤーが存在している業界であることが特徴として挙げられます。

 また、昨今は上場企業による、太陽光発電関連事業の買収も増えてきており、「カーボンニュートラル」「脱炭素」「SDGs」等の時流に乗るかたちで、企業経営における再生可能エネルギー導入の必要性の高まりから、M&Aを実行しているケースも散見されています。

 近年行われた太陽光発電関連のM&Aの事例について、具体例を挙げながら、ご説明させて頂きます。

(1)ENEOS株式会社による、ジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社のM&A事例

 2021年、ENEOSホールディングス株式会社(東京都千代田区)が子会社を通じて、再生可能エネルギー事業を運営するジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社(以下、JRE、東京都港区)の全株式を取得し、子会社化することを発表しました。

 当該案件で、最も衝撃を与えたのは、その取得価格で、約2,000億円と発表されています。

 ENEOS側のリリースの中で、① 2022年度末までに、国内外における再生可能エネルギー事業の総発電容量を100万キロワット超に拡大することを目標としており、その目標に資すること、② JREは、太陽光、陸上風力およびバイオマスの再生可能エネルギー電源を多数保有していること、③ 再生可能エネルギーの主力電源化に向けた切り札として普及が期待されている洋上風力発電においても、事業化検討に積極的に取り組んでいること等を挙げ、本件の意義について説明をされています。

(2)株式会社ダイキアクシスによる、株式会社サンエイエコホームのM&A事例

 2021年、水回りの住宅関連商材・浄化槽・産業排水処理など、「水」に関連した事業を展開する株式会社ダイキアクシス(愛媛県松山市)が、太陽光発電設備の設計・販売・施工・保守会社である株式会社サンエイエコホーム(神奈川県藤沢市)の全株式を取得し、子会社化することを発表しました。

 株式会社ダイキアクシスは、「水」に関連した事業だけではなく、M&Aによる事業の多角化を図っており、その中でも再生可能エネルギー事業への参画を進めるなか、太陽光発電事業における設計から保守まで一気通貫で取扱いができる株式会社サンエイエコホームをグループ化することで、再生可能エネルギーに対するソリューション体制を盤石にし、相互補完をしながら事業伸長をより加速化させていく目的があったものと思われます。

(3)株式会社シーラホールディングスによる、日本太陽光発電株式会社のM&A事例

 2022年、投資用マンション販売事業、不動産クラウドファンディング事業等を運営する株式会社シーラの親会社である株式会社シーラホールディングス(本社:東京都渋谷区)が、太陽光発電の設計・施工・運用・保守・管理等を行う日本太陽光発電株式会社(本社:愛知県一宮市)の全株式を取得し、完全子会社化することを発表しました。

 土地の仕入から、太陽光発電システムの設計、施工、運用、保守メンテナンス、管理等を一気通貫で行う日本太陽光発電と、高い不動産開発力を持つシーラのノウハウを融合することで、遊休地の有効活用や、投資用マンション購入のお客様に対して、太陽光発電施設を投資商品として提供することで、相互シナジーの創出、また中期的には、シーラのマンション開発における、自家発電設備の整備を図るなどの付加価値提供を想定されているものと思われます。

(4)株式会社フィットによる、株式会社Plus one percentのM&A事例

 2021年、コンパクトソーラー発電施設販売、ソーラー発電を搭載したスマートホーム販売を主な事業とするマザーズ上場の株式会社フィット(本社:東京都渋谷区、本店:徳島県徳島市)が、東日本を中心に太陽光発電システムの開発・販売を行っている株式会社Plus one percent(東京都杉並区)の全株式を取得し、子会社化することを発表しました。

 クリーンエネルギー事業を四国・西日本を中心に行ってきた株式会社フィットが、その事業領域を東日本まで一気に拡大することを企図し、また相互に部材調達や販売網の共有を図ることで、企業価値向上を加速させる目的があったものと思われます。

 また、この取引には、一部対価の支払いに条件を付す「アーンアウト条項」を設けられており、不動産や資産のようなアセットを売買して終了というものではなく、M&Aの両当事者が、事業を共に成長させることを、より明確にすることで、「成長戦略の一環としてのM&A」を内外に発信しているものと思われます。

(5)Abalance株式会社による、Vietnam Sunergy Joint Stock CompanyのM&A事例

 2020年、自社保有発電所の建設・運営、太陽光発電所の販売、モジュール・関連製品の販売等、グリーンエネルギーの総合カンパニーを形成している東証二部上場のAbalance株式会社(東京都品川区)が、モジュールメーカーとして、太陽光パネルの製造販売事業を運営するベトナムのVietnam Sunergy Joint Stock Companyを、特定子会社化すること発表しました。

 この取引によって、Abalanceグループとしての「グローバル化」を実現し、且つ「サプライチェーン体制の確立」を実現することで、モジュールメーカーとしての競争力強化の実現を企図しています。

(6)MED Holdingsによる橋本の子会社化

 2024年7月、リフォーム事業を中心としたグループ構成のMED Holdings株式会社が、長野県内でトップクラスの実績を誇る太陽光発電システムの設置、電気工事を行う、株式会社橋本を子会社化したことを公表しています。

 当該M&Aにおいて、異なるエリアに進出し、省エネ事業の推進、きめ細やかで迅速なアフターサービス提供を企図し、また施工する職人の働きやすい環境整備、働き甲斐のある労働環境提供など、人材の確保・強化にも注力しています。

(7)サンヴィレッジによる、フロンティアエナジーの子会社化

 2024年5月、太陽光発電の開発、再生可能エネルギー事業の株式会社サンヴィレッジは、北海道千歳市で、太陽光発電設備の施工・運用保守、また太陽光発電関連製品の卸事業を行う株式会社フロンティアアエナジーを子会社化したことを公表しました。

 サンヴィレッジとしては、北海道には初めての進出となり、太陽光発電事業、系統用蓄電事業の全国展開のため、グループ全体として一層の事業拡大を図ることを企図しています。

 このように、太陽光発電施設の売買を主目的とする「資産のM&A」だけではなく、「事業のM&A」が拡大しており、またその中においても、新規の事業ポートフォリオの獲得を目指すもの、事業エリアの拡大・グローバル化を目指すもの、商流拡大を目指すものなど、様々な戦略を持ったM&Aが活発に行われています。

 また、その流れに前後するように、民間保険会社による、太陽光発電事業に係るM&A保険の提供開始や、セカンダリー太陽光発電所の査定サービスの拡大など、投資環境も整備されてきています。

 さらに、「事業のM&A」を進めるにあたり、株式の過半数の取得や事業の全部・一部を取得するなど、支配権の取得を想定した「M&A」だけではなく、株式(資本)の取得・保有はするものの、支配権の移転は伴わない「資本業務提携」や、そもそも株式(資本)の取得・保有が伴わない協働関係である「業務提携」というスキームも、太陽光発電業界では広く行われています。

 資本提携を含む業務提携のスキームを採用するメリットとしては、相手方の抵抗感が小さく、また提携に係るリスクや費用も相対的に小さくなることが挙げられ、早期の実行が可能となるケースが多いのですが、逆にデメリットとしては、支配権が伴わないことから、相手方との合意がないと、すべての施策実行に至らないことや、取引ごとに、契約内容の取決めを細やかに行う必要があり、その負担が大きいこと、また相対的に協働関係についての本気度(温度感)が醸成しにくいことなどが想定されますので、スキームの選択は、十分な検討を要するとともに、仮に、いずれかのスキームで提携をスタートさせたとしても、その提携を、いかに「深化」させていき、本当の意味での「シナジー創出」を図っていくかが、重要になることは間違いありません。

 M&Aというと、「後継者不在」の企業が、事業存続・維持をかけて、「M&A」を行うということが多いと思われがちですが、ビジネスモデルの変革が求められている太陽光発電業界では、自社の成長を加速する目的での「M&A・提携」が多いのも、大きな特徴でもありますので、この「資本業務提携」や「業務提携」を、スピーディに組み入れながら、自社成長の選択肢として認識して頂く必要があります。

 一般的に、事業会社には、「導入期」「成長期」「成熟期」「移行期」「安定期」のライフサイクルがあるとよく言われますが、そのライフサイクルに応じて、M&Aにおける市場環境も大きく変化するものであり、一般的には以下のような環境変化で推移すると言われています。

「導入期」は、ベンチャー期として、業績・実績ではなく、ビジネスモデル、技術などに着目

「成長期」は、売手有利のM&Aが進みやすく、高い株価での取引が多い

「成熟期」は、中堅大手による中小企業買収など、買手有利のM&Aが進む

「移行期」は、中堅大手の再編が進み、業界再編として動き出す

「安定期」は、業界再編が一巡し、業界内M&Aが終了、再編後の企業で業界が安定

 このライフサイクルにおいて、太陽光発電業界は、現在「成長期~成熟期」に入っており、一部の動きとしては、「移行期」を見据えたM&Aが進んでいるものと思われます。

 また、太陽光発電以外の再生エネルギー業界(風力、バイオマス、地熱、蓄電池等)は、現在「導入期~成長期」にあるものと思われ、今後のM&Aの中心は、太陽光発電業界から、徐々にこちらの業界にシフトしていくものと思われます。

 近年の太陽光発電以外の再生可能エネルギー業界の事例で、大きく報道・公表等がされた事例としては、以下のようなものが挙げられます。

(6)インフロニア・ホールディングスによる、日本風力開発の子会社化

 前田建設工業、前田道路、前田製作所を傘下にもつ、インフロニア・ホールディングスが、風力発電事業の日本風力開発を2024年1月に子会社化。

 日本風力開発は、売上高90億円超、国内外で300基近く、総発電容量57万キロワット以上の風力発電の開発を手掛けており、その買収価格は、関連費用を含めると2,100億円を超えると報道されています。

 日本風力開発がもつ、風力発電の開発力に、大きな付加価値を想定し、自社グループとの関係でも、「請負」を脱却することでシナジーを想定したバリュエーションになっているものと想定されます。

(7)住信SBIネット銀行と、シン・エナジー株式会社の資本業務提携契約の締結

 住信SBIネット銀行は、カーボンニュートラル社会実現に向けた取組みを加速すべく、2024年5月に、兵庫県神戸市中央区に本店を置く、シン・エナジー株式会社との資本業務提携契約の締結を公表。

 シン・エナジーは、1996年に設立され、バイオマスなどの再生可能エネルギーを活用した発電所を全国で展開し、国内で新電力事業を行っており、両社は、森林・農業分野でのJ―クレジット創出に関する事業展開や地域課題解決に向けた支援を加速させるとしています。

 このように、太陽光発電以外の再生可能エネルギー業界におけるM&A・提携についても、今後は益々活発に行われるものと思われ、注視する必要性が高まってきています。

 また、近年においては、日本の大企業が、再生可能エネルギー業界での投資先として、「海外」を選択するケースも非常に増えてきています。

 2024年7月に、いちご株式会社が、ドイツの再生可能エネルギー会社であるGIGA.GREEN.GmbHへ出資し、太陽光発電、蓄電池、充電インフラの設計・開発・運用事業等のシナジー効果を追求するなかで、事業拡大を図った事例や、2024年6月には、横河電機株式会社が、再生可能エネルギー監視ソリューションを提供するドイツのBaxEnergyを買収し、ヨーロッパで実績のある同社の各種ソリューションを、既存のグローバルネットワークを活用して、導入のコンサルティングから実装、アフターサービスに亘る幅広いサービスラインナップ提供が可能になると公表した事例が挙げられます。

 また、2024年5月には、住友商事株式会社は、洋上風力関連サービスを提供するIWS Fleet ASに資本参加することを公表し、洋上風力発電の普及をサプライチェーンから推進すると発表しています。

 このように、再生可能エネルギー業界のM&A・提携は、日本国内だけで完結するものではなく、その舞台を世界とするケースが、今後も増えることが予想され、この点についても、注視する必要性が高まってきています。

 さらには、これまではM&Aの買収側として、複数のM&A・提携を実行してきた企業が、戦略の見直しの中で、不必要となった事業部門、今後の成長等が見込めないと判断した事業部門の一部や子会社を切り出し、第三者に売却すること(カーブアウト)を行い、買収側の実績だけではなく、売却側の実績を積むことも増えてきています。

 M&Aというものが、事業戦略の手段として認識されるようになり、相応の期間が経過する中で、買収だけが「M&A」ではないことを理解し、実行に起こす企業も増えてきています。

 よく、「選択と集中」という方針で、保有している事業ポートフォリオ・資産ポートフォリオの再構築、経営リソースの見直しを行うことがあります。ただ、これは、非常に難しい戦略でもあり、これまでの取組みの見直し、時には失敗・撤退等を認めた上で、関係者のモチベーションを維持させつつ、取組みを実行する必要があります。

 「買収」を経験したことがある企業は、着実に増えてきていますが、「売却」を経験したことがある企業は、まだまだ少なく、そのプロセス、進め方については、十分な検討が必要となります。

 言い古された言い方かもしれませんが、M&Aの最大のメリットは、「時間を買う」ということです。自社単独のリソースで、オーガニック成長を目指すことが間違っている訳ではないのですが、そのスピートについては、大きな差が発生してしまうものという認識が必要になりますし、今後も自社単独で、安定成長が見込めるかというのも、業界動向・競合環境で先行き不透明な状態であると思われます。

 また、これは、買収側(譲受側)だけの話ではなく、売却側(譲渡側)の企業においても、同様の認識が必要になります。M&A・提携という選択肢を、単なる「リスク」という表現で検討しないこと自体が、「リスク」になり得ることをご理解ください。

どうしても、M&Aの検討を始めると、「M&Aを成約させること」が目的となってしまうことがあります。しかし、「M&A」は、成長のためのあくまでも「手段」であり、それ自体を目的とするものではありません。

金融機関やM&A仲介会社が持ち込んできた案件を、勧められるまま進めてしまうことや、「何となくだけど、シナジー効果がありそう。」「紹介者も熱心に進めてくれる案件だから。」「譲渡企業は、利益も出ているし、自走してくれるだろう。」というような甘い考えで、M&Aを検討開始してしまい、その検討途中でも、ここまで掛けた時間や費用を失うことを避けたいという意向が働くなかで、自己保身的にM&Aを進めてしまうと、本来M&Aに期待していた成長が実現せず、投資回収が難航したり、想定以上の期間を要したり、ひいてはグループ化した後に、子会社株式の減損損失が発生するなど、本業にも重大な影響を与えかねないことになります。

 M&Aは、企業経営の中で大きな転換点になるものです。売却側(譲渡側)・買収側(譲受側)のいずれの当事者になる場合においても、きっちりとした前準備と、時機を逸しない経営判断が必要になってきます。

 まずは、自分たちでの日々の情報収集はもちろんのこと、必要に応じてM&A専門家への相談することで、客観的に自社の現状を評価してもらい、M&Aという戦略にどう対峙すべきかアドバイスを受けることも重要になってきます。

 M&Aを活用した企業経営は、新聞等で報道される大企業だけのものではありません。自社の戦略としても十分に活用することで、自社の「収益性」「永続性」を高めていきましょう。

 当社グループでは、2023年に「サステナグロースカンパニーをもっと。」というグループパーパスを制定しました。

 変化が激しい不確実性の時代においても、力強く持続的に成長し続けられる会社をサステナグロースカンパニーと定義し、そのような企業を数多く輩出するという想いを込めています。

 是非、自社の戦略のひとつに、「M&A」を取り込むことのサポートを行っていますので、ご不明な点等があれば、ご相談ください。

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