近年、太陽光発電業界のM&Aが、報道をにぎわせていますが、M&Aが活性化している業界の一つとして、想定される太陽光発電業界の「M&Aにおけるメリット・デメリット」について、そのポイントを分かりやすく解説しています。
太陽光発電事業の二つの分類:売電事業と関連事業
太陽光発電事業界のM&A・提携を語る上で、まずは、太陽光発電事業を2つに大きく分類致します。
一つ目は、太陽光発電施設を有し、余剰電力を売却することで売電収入を得る事業。
二つ目は、太陽光発電に関する「企画」「開発」「設計」「仕入」「販売」「施工」「維持」「管理」等を行う事業に分類します。
売電事業の現状と課題
一つ目の売電事業については、固定買取(FIT)期間においては、比較的安定的な収益を生む「ストックビジネス」としての特徴があり、昨今の「脱炭素」「ESG」「SDGs」などの時流にも乗り、拡大基調にあります。
しかし、今後想定される、固定買取制度の終了による資金調達環境の変化、世界的な半導体不足、部材不足、未稼働案件の期限切れ、将来におけるパネル等の大量廃棄問題など、事業環境の大きな変化が待ち受けているような状況もあり、新規拡大には一定の影響が発生するものと思われます。
そのような中、既に稼働している(既に売電を行っている)太陽光発電所の売買(セカンダリー市場)が、昨今賑わいをみせており、その取引実績も年々増加しています。
太陽光発電業界M&Aのメリット・デメリット
買い手側のメリット:即時収益化、実績把握、高単価買取の可能性
その理由としては、買収側においては、新規の発電所開発とは異なり、(1)既に稼働していることから、直ちに収益化が可能、(2)売電の実績を把握することが出来、投資シミュレーションを立てやすい、(3)認定年度によっては、現在の買取価格よりも高い買取価格で売電することが可能、(4)認定年度によっては、全量売電が可能など、大きなメリットがあることがあげられます。
買い手側のデメリット:残存期間、設備劣化、契約引継ぎのリスク
但し、逆にデメリットとして留意すべき点としては、(1)固定買取の残存年数が短くなってしまうこと、(2)設備等の劣化の可能性があり、パワーコンディショナーの交換やメンテナンスなど、ランニングコストが発生すること、また発電効率の悪化により、当初想定していた投資シミュレーション通りの発電が実現できない可能性があること、(3)売買の方法によっては、売電契約等の各種契約・権利関係の引継ぎに支障が生じる可能性があること、などがあげられます。
セカンダリー市場の主な買い手
このようなメリット・デメリットを把握した上で、積極的にセカンダリー市場で太陽光発電所を買収するプレーヤーとしては、エネルギー関連事業を行う事業会社のみならず、異業種からの参入、上場インフラファンド、また、昨今は、脱炭素の時流に合わせた施策の実践として、上場会社を含む一般事業会社や、セカンダリーの太陽光発電専門の投資ファンドが組成されるなど、徐々にその数も増えてきているものと思われます。
売り手側のメリット
また、売却側においても、メリットとしては、(1)早期の資金化、投資回収が可能となること、(2)固定買取年数終了後の不安定な状況に配慮する必要がなくなること、(3)廃棄費用等の積み立てを行う必要がなくなること、(4)売買に際してのプラットフォーム等が充実されてきており、幅広い買収者探索が可能となることなどがあげられます。
売り手側のデメリット
但し、逆にデメリットとして留意すべき点としては、(1)メンテナンス等が行き届いていないと、想定している以上に価格のディスカウントを要請される可能性があること、(2)売電契約や借地契約などの各種契約、権利関係の引継ぎに十分な留意が必要となること、(3)買収側の投資スタンス・投資戦略によって大きく取引価格が変動し、買収者によって大きく経済条件が異なってくること等があげられます。
セカンダリー市場の主な売り手
このようなメリット・デメリットを把握した上で、積極的にセカンダリー市場で太陽光発電を売却するプレーヤーとしては、大型の発電所を保有している法人だけではなく、小規模発電所を保有している個人にまで、その取引は広がっています。
また、権利のみ取得をしており、発電については未稼働というような案件も売却されていることがあり、権利取得後の期限切れを見据えた売却も行われています。
太陽光発電関連事業(企画・開発・施工等)のM&Aメリット・デメリット
関連事業のM&Aニーズ:安定的な事業基盤と参入障壁
二つ目の事業として、太陽光発電に関する「企画」「開発」「設計」「仕入」「販売」「施工」「維持」「管理」等を行う事業会社も、M&Aによる買収ニーズが高く、多くのM&A・提携が行われています。
これら事業については、企画から施工までの「フロービジネス」の一面と、維持・管理の「ストックビジネス」の一面がともに存在する安定的な事業基盤であること、また、これらビジネスにおいては許認可要件、電気工事技士等の人的要件を整備する必要があるなど、参入障壁もあることから、事業としての新規立ち上げではなく、M&A・提携を使うことで、より早く確実に成長戦略を描くことが可能になるというメリットがあります。
ロールアップ戦略の有効性:規模の経済と人材確保
さらに、当該業界は、M&A・提携を「点」で終わらせるのではなく、「線」そして「面」へと展開する「ロールアップ戦略」も検討すべきでもあります。
ロールアップ戦略とは、小規模事業者が多く存在する業界で、その小規模事業者を連続的に譲り受けすることで、規模の経済性を発揮し、グループとしての価値向上を図るM&A・提携戦略のことであり、電気工事施工管理技士等の有資格者を必要とするビジネスの観点からも、新規採用という方法のほか、M&A・提携による囲い込みが非常に有効的であります。
PMI(買収後の統合プロセス)の重要性:シナジー創出の鍵
また、「M&A・提携の成約実績」が、業界内に周知され、新たな良質な譲渡案件の提案を次々と受けやすい環境が整ってくることも、その効率性が上がる理由となります。
そのためにも、M&A・提携は成約することが目的ではなく、想定していたシナジー効果を創出するためのPMI(M&A後の統合プロセス)が非常に重要になってきます。
今後の展望:M&A・提携の常態化と成功への道筋
M&A・提携は企業経営の転換点:時流に乗った戦略を
いずれの当事者(買収側・売却側)においても、M&A・提携は企業経営の中で大きな転換点となります。また、「時流」に大きく左右されるものでもあります。
再生可能エネルギー業界におけるM&Aの更なる進展予測
アフターコロナで、経済が正常化し、上場企業のような大企業だけではなく、中堅・中小企業においても、M&A・提携を「常套手段」として活用する「時流」のなか、再生可能エネルギー業界においても、ますますM&A・提携が進んでいくことが予測されます。
本質的な成功を目指して:事前準備とタイミングの見極め
ただ、M&A・提携が日本企業の経営戦略として定着して相応の期間が経過する中で、「本質的なM&Aの成功・失敗」の分析も進んできていることから、それらを参考にした、きっちりとした事前準備と、タイミングを見定めるという意思決定のもと、ともに成長戦略に資するM&A・提携を目指して参りましょう。
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