士業事務所・士業業界M&Aの時流と今後

士業事務所のM&A時流

これまで士業事務所のM&Aというのはあまり表に出てきておらず、近隣の事務所同士の話し合いや各会の中での紹介等で完結しており、M&Aという形では表立って取り上げられてこなかったテーマであったかと思います。

しかしながら、M&A全体の件数が増えていく中、事業承継の一つの選択肢としてM&Aというものが少しずつ増加してきており、こちらのコラムをご覧いただいた皆様の周りでもぽつぽつと譲渡(譲り渡し)の選択をされた先生方が出てきているのではないでしょうか?

また、どの士業でも共通する課題として「資格者の高齢化」というテーマがあり、人口構造全体の課題と連動する形で今後ますます進んでいくこととなります。

どの士業においても事務所の統合、集約化は進んでおり、大規模事務所は各地で増加傾向にあります。

そうした中で士業事務所のM&A・事務所の譲渡は今後間違いなく増加する傾向にあり、今後より一般的な方法論として扱われると思われます。

士業事務所のM&Aの特徴

業界を問わずM&Aの件数が増え続けている中においては、M&A事態の捉え方も変わってきています。

M&A・譲渡をしたことで代表者の関与が終了するのではなく、M&A後も継続して事務所の経営に関わり、所長としてのポジションは継続しながら、所長が得意としている業務や強みを活かしつつ、弱みとなる部分をフォローし合うような組織作りを行い、将来の不安を解消しつつ勤務を継続する、「成長支援型」のM&Aが広がってきています。

特に士業事務所全般に言える課題として、資格の取得と実務、経営管理、マネジメント、営業力といった部分は必ずしも比例するものではないので、資格者としては優秀でも経営者としての適性は高くないという現象はどこの事務所でも起こっています。

今まではそういった矛盾も抱えつつ、資格を持つスタッフの中から承継者を選び、何とか経営のバトンを繋いでくることが当たり前でしたが、現在ではM&A・譲渡という選択肢が増えたことで、必ずしもスタッフの中から選ぶのではなく、M&Aにより外部の方と協力体制を築いて事務所の事業を継続させていくことができるようになったといえます。

士業事務所でM&Aが検討される3つの理由

M&Aと一言で言っても、その理由や目的は複数パターンがあり、個別の事情により変わってきます。これまで私たちが聞いた士業事務所のM&A・事務所譲渡のパターンも代表的な3パターンのケースがありますので、その内容をご紹介させていただきます。

①事業承継型M&A

ここ数年士業事務所において発生したM&A・譲渡の中身を見ると、多くが「事業承継」を目的としたM&Aとなっており、代表のご年齢やご病気がきっかけとなり、他に資格者がいない個人の事務所において、顧客及びび従業員の引継ぎを主な目的とした譲渡が多くのパターンを占めているようです。

こうした話はあまり表には出ないものの、地域内のコミュニティーや人脈の中で話が上がり、その中でM&Aが行われているケースが多くあります。

ご病気の時などは特に期間が迫っており、短期間でM&Aの実行まで進みます。

②顧客の一部売却型M&A

近年増加してきたケースが、「顧問先の一部売却型」のM&Aです。

コロナウィルスの影響も明けつつある中、士業事務所業界においても、採用が大きな課題となってきており、職員の退職をきっかけとした顧客担当の再配分が事務所の中で完結せず、顧客や業務量の絶対数を下げざるを得なくなり、一定数の顧客をまとまってM&Aで譲渡するパターンです。

事務所の中で何とか対応できることが理想ではあるのですが、その分の負担を職員の方に負ってもらうことで、更なる退職リスクが高まるという負のスパイラルが起きてしまうことを防ぐため、顧客を譲渡し、業務量を制限する選択をされるケースが出て来ています。

③成長支援型M&A

最後に、冒頭でもお伝えさせていただいた「成長支援型」のM&Aです。

士業事務所の特徴ともいえるのですが、前述のとおり資格者としての実務能力と経営者として求められるマネジメント能力やマーケティング能力はそれぞれ「=(イコール)」の関係ではなく、すべてにおいて力を発揮する方もいれば、どれかの能力が突出している反面、苦手な部分を持つ方もいらっしゃるのが実情です。

単独で経営をしていく中では、たとえ苦手でもそれぞれの業務をやらざるを得ないところがあるのですが、苦手な部分を補完する関係をM&Aにより達成し、事務所としての成長をさらにスピードアップさせるための選択としてM&Aの手法を考えるパターンが出て来ています。

士業事務所の譲渡価額の決め方

士業事務所のM&Aをする際に、どの程度の値段で取引されるのか?はよくいただくご相談の一つです。

士業の業種によって様々あるというのが実際のところなのですが、一つ確実に言えることとしては、その事業を継続していくことで生まれる利益が年間どの程度あるのか?は基本の考え方としてあります。

「正常収益力」などといわれるもので、簡潔に言うと営業利益をベースに代表の私的経費や一過性の経費など、純粋にその事業を継続していくことで発生する利益を計算し、その継続性がどの程度見込めるかによって1年~4年分の範囲の中で計算していく考え方です。

何年分で計算すればよいのか?という点は、業種特性や受注経路、売り上げの再現性などの観点を考慮して算出するものとなります。

個別の事務所により異なる部分もあるため、一度ご相談いただけると幸いです。

士業事務所のM&Aの場合、譲渡対価が目的となるケースはあまり多くはありませんが、譲渡行う上では大事な要素の一つです。

もしかしたらこれからM&Aをすることになるかもしれない、事業を譲渡することになるかもしれないという方は、ぜひ一度事務所の価値がどの程度になるのかを把握していただければと思います。

いざその時になったとしてもスムーズに進行できますし、金額を知っていただくことで先生自身のライブプランも変わってくると思います。

もちろんM&A・譲渡後に働き続けるという選択もありますので、どの程度の給与がもらえるのか?という点も含めてお話させていただきます。

船井総合研究所では、企業価値試算、事務所価値試算を無料で行っております。

ぜひご相談ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

山中 章裕

シニアコンサルタント

新卒入社から約10年間、税理士・会計事務所業界に特化した経営コンサルティングに従事。

その後支援先企業の組織拡大に合わせて、組織・人財採用に課題がシフトしたのに合わせて、人財領域の専門コンサルタントとして、税理士・会計事務所業界以外の業界にも対応し、多岐にわたる業界の支援を担当する。

その後、企業の成長支援の一環としてのM&Aの支援業務を行っている。

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