会社をM&Aで譲り受け(買収)した後のプロセス
買収企業がM&Aによって売却企業を譲り受け、子会社化した際に、買収企業の社長として、当面はポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)の実行管理を行うこととなります。PMIとは、M&A後の統合プロセスをいいます。企業体としての統合、マネジメントの統合、総務・経理・労務などのバックオフィス業務の統合、従業員への周知と理解など、業務は多岐にわたります。
マネジメント・総務・経理・労務・法務・営業のあらゆる面で買収側の担当チームの編成を行い、計画を立て、実行管理をしていくことになります。
特に売却企業のマネジメント人材が一定期間の引継ぎ後に引退する場合、買収企業側から経営者を送り込むこととなります。中小企業M&Aの場合、買収企業の経営者が子会社(売り手企業)の経営者を兼務するケースが多くあり、買収企業側の経営者としては業務工数の多くを取られることになります。
企業にはそれぞれ企業文化や経営方針があります。いかに買収企業の方が優秀なノウハウや戦略を持っていたとしても、いきなり企業文化をすべて捨てて統合するような企業はありません。売却企業の文化を尊重し、信頼関係を築いていくことが極めて重要になります。中小企業同士のM&Aとなると、上記の通り、買収側経営者には負担が多くかかることになります。
実際にPMI後の買収企業の経営者の意見では、次のようなものがありました。
・最初は従業員が心を開かず、理解を得るのにとても苦労したが、あきらめずに信頼関係を構築するためのミーティングを繰り返すうち、行動してもらえるようになり、想定以上に業績が好転した。
・想定と違い、前向きにとらえてもらえる社員が多く、より高い目標を掲げたところ懸命に頑張ってもらえ、出店スピードが予定よりも早まった。
・売り手企業の前経営者には言えなかったが、面談のタイミングで従業員から企業が抱える問題・弱点を話してもらえ、改善のきっかけをつかめた。
・大変なこともかなりあったが、総じて自身の経営者としての良い経験になったし、M&Aによってさらに拡大していく可能性も見えてきた。
このように、M&Aの直後は買収側としては非常にパワーのいる期間となりますが、従業員との信頼関係の構築や、実態の把握に努められた経営者は、M&A戦略を習得し次のステップへと成長されています。
M&Aを複数回実行していくために、ホールディングス化を行い、M&Aしやすい体制を作ります。親会社となるホールディングス会社では、主に子会社のバックオフィス業務と事業のコンサルティング機能を担います。
子会社は自社事業に集中することができ、結果を出しやすい環境をつくることができます。子会社が成長していくことでポストが増え、より社員の成長に寄与します。子会社の数が多くなるにつれ、金融機関の信用も高まり資金調達力も高まります。その後、上場をすることでグループとしてのブランドができていくこととなり、株主は上場時のキャピタルゲインを得られることとなります。
自身にとって未知の事業分野・企業文化だったとしても、それらをマネジメントにより統合していくプロセスは、企業成長の可能性を大きく秘めているといえます。
会社の譲り受け後の注意点、従業員の扱い
M&Aにおける買収企業の従業員の中には、PMI業務として重要な役割を担う方もいらっしゃいますが、基本的に従業員に対してマイナスに働くことは考えにくいといえます。
基本的にM&Aでは株式譲渡スキームが使われ、企業がそのまま親子関係で残る状態となるため、それぞれの事業はそのまま運営され、必要な部分を連携していくことになります。
例えば、クロスセル、大量仕入れによる原価改善、グループでの採用活動によるコスト削減などです。買い手企業の従業員としてはより業績が上がるチャンスとして、より積極的にグループ連携を行っていくことでポストも増えキャリアアップにつながることでしょう。
一方、注意が必要なのは、親会社と子会社の従業員とは対等であるという点です。ここを疎かにし、上下関係のある接し方をすると、グループ間の連携に障壁ができ、M&Aによるシナジー効果が見込めないこともあります。
場合によっては売却企業の従業員が大量離職してしまい、買収企業の風評被害に繋がるということもありえます。
全く別の文化を持ちながらでも、同志として受け入れていく感覚が必要となります。
会社を譲り受け(買収)する会社のメリット・デメリット
会社を譲り受け(買収)する会社の最大の目的は「時間を買うこと」です。
自社単独で地道に成長する時間よりも、M&Aによって既に運営されている企業と一緒になることで、成長スピードを飛躍的に上げ、上場や地域一番店化を目指すことができます。
M&A(買い)を検討する場合のポイントとしては、会社規模として自社の半分以下程度の企業を検討した方が成功する確率が高いです。
理由は、自社が成長してきた経験値が活かせないからです。自社が経験してきたプロセスを活かして、売却企業側を導いていくことでM&Aを活かしていきます。
この他、自社にない機能・技術付加、専門人材の確保、企業ブランドの譲受など、メリットは多くあります。
例えば自社が年商100億円を目指す企業として、現在の年商規模が80億だったとした際に、地道に行くと達成ができないかもしれない可能性があるとき、M&Aによる成長戦略を検討することをおすすめいたします。
自社がエリア拡大するとしたら次はどのあたりがいいか、どのような技術があればより成長できるか、どのような機能があれば生産性が向上するか、などを検討していくことが重要です。
逆にM&Aによるデメリットとしては、売却企業の借入金に対してオーナーの個人保証に代わり、買収企業が連帯保証を負うこととなります。返済可能であることを見込んでM&Aを実行することが重要です。
また投資回収が遅れる、できない可能性もあるということです。投資活動ですので確実性があるわけではありませんが、M&Aの専門家と連携することで大部分のリスクヘッジができます。
会社を譲り受け(買収)する際のリスクヘッジ
主に注意が必要な点として、ビジネス面・財務面・労務面・法務面において次の通りです。
・ビジネス面
・企業の商圏と競合状況、シェア割合
・自社商品の差別化状況と改善項目
・企業のシェア拡大可能性のあるエリア
・事業改善のためのアクションプラン
・採用戦略
・財務面
・資産の時価評価による資産価値減少状況
・簿外負債(退職引当金・未払い残業代・前受金)の存在
・主要取引先それぞれの依存度、代替先の存在
・企業の実態的収益力(EBITDA)
・投資資金と業界相場の乖離
・労務面
・就業規則の内容不備による残業代発生リスク
・役員・従業員退職金規定の運用状況
・従業員の勤怠管理と残業状況、未払い残業代の総額
・退職状況、今後の懸念人材
・従業員の高齢化による退職リスク
・法務面
・不動産の建築違法性(確認済証、検査済証の存在)
・取引先との契約書におけるM&A実行リスク(COC条項など)
・個人情報の取り扱い、情報の運用範囲
・賃貸契約などの契約継続可能性
・営業上のコンプライアンス遵守状況
M&Aでは、トップ同士の面談後、基本合意契約を経て概ね1~2か月間の独占交渉権が売り手から買い手に対して付与されます。
この期間で買収企業としては業界専門コンサルタント・税理士・社労士・弁護士と連携し、デューデリジェンス(買収前調査)を行い、最終的な条件を提示します。デューデリジェンスは、成約後にトラブルにならないための要となりますので、費用をかけてでも確実に行うべきです。
会社を譲り受け(買収)する際のリスクヘッジにはM&Aの専門家に相談を!
M&Aにおける株式譲渡契約が成立した後、行わなければならないこととして、従業員への説明です。売却企業の従業員には青天の霹靂であり、M&Aの事実が経営者から知らされた後、不安が広がっています。
買収企業の経営者からの説明が遅くなるほど、従業員の離職リスクが大きくなります。無碍な対応をすれば大量離職につながる可能性もあります。
そのため、売り手経営者の説明の後、できるだけ早期に買収企業の経営者から売却企業の従業員へ説明が必要になります。
なぜM&Aによって譲り受けることとしたのか、買い手企業の経営理念・方針はどのようなものか、子会社化した後の従業員の待遇は変わるのか、売り手企業の経営方針はどう変わっていくのか、など詳細な説明が必要です。全体説明に加え、個別面談による丁寧な説明をすることで、従業員の離職リスクを最小限に留めることができます。一般的には、従業員の待遇面に対してM&A後すぐに不利益な変更はなく、従来の待遇を維持していくことが多いです。また、企業文化・方針についても、いきなり変える場合は離職リスクが高まりますので、変更を行わなければならない理由を着実に説明して理解を得られるようにすべきです。
加えて、買収側の従業員に対しても上下関係やセクショナリズムが生まれないように丁重な説明・指導が必要です。
稀に買い手側の従業員の一部が売り手側の従業員よりも立場が上と勘違いをして、紛争を起こすケースがあります。経営陣としては、日々そのような事態にならないように公平な呼びかけが必要となります。
まとめ
上記の通り、M&Aは、企業の成長・存続戦略としてメリットが大きく存在する反面、経営者、従業員の両者へのリスクヘッジが必要となります。
M&A専門家と共に条件を調整し、M&A後も迅速にPMIができるように、メンバー編成・計画しておくことをおすすめします。 また、下記の動画内では譲り受け企業にとってのM&Aのメリット、デメリットについて解説しております。こちらも合わせてご覧ください。