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1.同業他社への売却

ホール業界のM&Aは、2015年頃から始まった「事業M&A」(ホール事業全ての経営権を取得)、その後の2018年の改正遊技機規則施行以降から一般化した「店舗M&A」(1,2店舗の経営権を取得)を経て、広く普及しました。また、当初、経過措置終了の2022年1月末がM&Aのピークとみられていましたが、経過措置終了後も減ることはなく、今後も続くことが予想されます。

同業他社への売却を検討する際の売主様の注意点について、店舗M&Aと事業M&Aの各ケース別に整理したいと思います。

(1)店舗M&Aにおける売主様の留意点

1,2店舗を対象とする店舗M&Aで、買主のチェック項目を順に並べると、以下のとおりです。

・設置台数(増台余地の有無、増床又は再建築の検討)

・立地と商圏(立地条件、競合店、商圏人口)

・不動産の時価(路線価、固都税評価額)

・建物の状況(築年数、内外装の劣化、漏水その他の瑕疵)

・法適合の状況(検査済証、消防法、屋外広告物条例)

・営業実績(店舗損益、種別稼働)

・固定資産(不動産登記簿謄本、遊技機、営業設備、固定資産台帳)

・取引先との契約(特殊景品仕入先、借地契約、リース契約)

売主が重視するポイントを整理すると、

(1)商圏が魅力的か

(2)競合店に勝つ台数を持つことができるか

(3)売主の希望価格は高いか

(4)購入費以外の改装費はいくらか

(5)契約のリスクは何か

の5つに集約されると言えます。また、立地と商圏、規模をクリアすれば、あとは、希望価格と固定資産時価との差や、改装後の想定利益から総合判断することになります。

他方、営業実績については、買主が最初から開示を求めるケースがありますが、買主検討における必要条件ではありません。その理由として、多少なりの改装を検討していますので、過去の営業実績はあくまで参考程度となります。また、取引先との契約については、万が一、買主から取引先へ接触があった場合に情報漏洩のリスクがあり、契約書の開示は後が良いと思います。

店舗M&Aにおける売主様の留意点を整理すると、以下のとおりです。

 1.買主の初期検討は、立地、商圏、設置可能台数を基に判断する。

 2.買主の価格検討は、商圏と規模に基づく想定利益と、固定資産の時価を参考に判断する。

 3.資料開示は、固定資産から始め、営業、人事労務、取引先情報を後にする。

 4.従業員と地主への通知は、慎重かつベストなタイミングを図る。

 5.安全かつ成果が期待できる仲介会社の選定と、開始前の事前準備を進める。

慎重かつ入念な事前準備が必要となりますが、他方、これらが不足すると、買主候補の評価が下がることになる場合や(まともな資料や詳細不明なため必然的に保守的になる)、買主候補が情報を外部に取りにいった結果、情報が漏洩する危険性があります。

「交渉力があれば何とかなる。」の姿勢は、よほどの好物件以外、今の時代は通用しにくいところがあり、入念な準備と戦略を立てることが重要です。ちなみに、交渉力を発揮する場面は、買主の目途が立った契約前にすべきでしょう。

(2)事業M&Aにおける売主様の留意点

店舗M&Aは対象店舗に限定した情報開示で足りますが、ホール事業全てを対象とする事業M&Aの場合、買主のチェック項目は広範囲となります。主な項目を以下に挙げますが、基本的に法人と事業の全てを見ることになります。

・売却理由(後継者不在、事業意欲の低下、健康上の理由、他業種への転向、会社精算)

・会社全般(商業登記簿、株主一覧、店舗一覧、組織図)

・財務(3期分決算書及び法人税申告書、総勘定元帳、店舗別計算書類、固定資産台帳)

・事業(店舗別稼働、店舗別シェア、行政処分の有無、マネジメントインタビュー)

・不動産(不動産登記簿、所有又は賃貸の区分、担保設定、築年数、現場実査)

・人事労務(従業員一覧、給与賞与支給実績、規則規定、残業未払い、組合)

・契約全般(借地契約、継続的取引契約、金消契約、リース契約、議事録、訴訟有無)

ここでのポイントは、店舗M&A同様、(1)誰(相手先)に対してどのようにアプローチすべきか(2)どの様な手順で何を開示すべきか、の2点に集約されます。また、必要資料の準備に相当の日数を要することになりますので、社長直轄のプロジェクトとして、社内の限られたメンバーを選定しながら、外部のM&Aアドバイザーの意見を参考に進めるべきでしょう。

 社内の限られたメンバーの人選は最大3名まで、また、外部アドバイザーの選定は、M&Aの知見のある会社はもちろんですが、それ以上に業界知見のある会社に依頼すべきでしょう。業界知見のある会社には、常に最新の買手企業の情報が集まっていますので、無駄なアプローチを避けることができます。情報漏洩の観点からも重要な点ですが、他方、社内メンバーから情報が洩れるケースも多く、社内メンバーの人選を含め、経験豊富なアドバイザーの意見を聞くことは重要と思います。

事業M&Aにおける売主様の留意点を整理すると、以下のとおりです。

1.売却理由を明確にする。

2.事業M&Aは、買主のチェック項目が広範囲となる。

3.社長直轄プロジェクトとして、社内メンバーの選定は最大3名までが望ましい。

4.外部アドバイザーの選定は、業界知見のあるM&A仲介会社に依頼するのがベター。

5.店舗M&A同様、情報開示の手順を間違わないことが重要。

いわゆるDD(デユーディリジェンス)を経て、契約を締結することになりますが、買主が完全に情報を把握した上で買収することは難しい現実があります。また、売主が全てを正確に伝えることも限界があります。そこで重要となるのが双方の代表者によるTOP面談です。TOP面談は金額等の交渉を目的とするものではなく、「なぜ売却するのか」、「なぜ関心を持ったのか」といった相手先の本音を知ることを重視します。

交渉相手ではあるものの、同じ業界の経営者同士で分かりあえるところもあり、中小企業のM&Aにおいて、双方代表者による「腹落ち」は重要なプロセスとなります。また、「腹落ち」があれば、多少の問題がDDで発覚しても建設的な協議を進めることも多く、互いに協力しながら、円滑な承継を実現することができます。M&Aの成功において、互いの信用が重要であるとも言えるでしょう。

2.他業種への売却・賃貸の注意点

これまで、同業他社への売却を中心に触れてきましたが、買主候補の初期検討において、立地、商圏、台数規模の点で辞退されて、同業他社の売却が難しいケースが多いのも現実です。

その場合の次の動きとして、他業種への売却・賃貸の検討となりますが、現在、事業拡大の意欲が旺盛な業種として、ドラッグストア、カーディーラー、物流センター、ホテル、マンションデベロッパー等が挙げられます。

こちらの業種から見たパチンコホールの評価は総じて高評価が多い印象がありますが、理由として、(1)好立地である(2)用途が使いやすい(3)規模が十分である、などが挙げられます。また、土地の取得を前提とする物流センターとマンションデベロッパー以外は賃貸を希望するケースが多く、本編は、他業種へ賃貸する際の注意点を中心に触れてみたいと思います。

他業種への賃貸・売却における貸主様の留意点を整理すると、以下のとおりです。

1.数年での中途解約があり得る。

2.既存建物の再建築(建て替え)を希望するケースも多い。

3.賃料が合わないケースも多い。

4.建物用途変更や、大店立地法の審査に時間がかかるケースもある。

5.デベロッパーの売却は、土地代から、解体費と建設コストを減価した額となる。

賃貸について、パチンコホールの場合は事業用定期賃貸借が主(最低10年以上の更新可が主)となりますが、他業種の場合は、6か月前解約の通知による普通借が主となります。コロナ禍で都内一等地の飲食ビルのチェーン店の撤退が話題となりましたが、他業種の多くはチェーン店であり、売上が低調な場合の退店判断は早い傾向があります。せっかく誘致したが、数年後あっさり出られることも十分ありますので、この点をまず認識すべきでしょう。

次に、既存建物の用途は大半が遊技場となりますが、他業種を誘致する際に用途変更が必要となります。また、P店の仕様で造られた建物について、大規模改修又は建て替えを希望するケースも多く、費用負担に関する協議が必要になるケースも多いです。借主が建設協力金を差し入れるケースもありますが、他方、貸主は実質賃料が減ることから、他業種の商談申込書を受けた際、賃貸借期間、賃料と併せて、既存建物の利用の有無について確認すべきとなります。

また、他業種に土地を売却の際の留意点について、多少触れたいと思います。土地の売却は、「誰に売るか」によって査定額が変化します。現状のまましばらく所有することを良しとする投資家や資産家の場合もあれば、転売することを前提とするケースもあります。また、デベロッパーでは、開発後の売却や賃貸で収益を生むことを想定する会社もあります。

一般的には、路線価や事例取引法を参考に土地の時価を算出しますが、物流デベや、戸建て、マンションデベの場合は、既存建物の解体費と開発費(建設費)を減価するのが一般的となりますので、想定以上に安い価格になるケースもあります。よって、「何を想定した査定なのか?」を十分に確認する必要があります。ただし、エンド以外の買主は、取得後の方針を明かさないのが常なので、複数の候補先を持つことが重要と言えます。

3.まとめ

ここまで、同業他社への売却(店舗M&A・事業M&A)、他業種への賃貸・売却について触れてきましたが、昨今、同業に売れるものと売れないものがはっきりした印象はあります。また、断る理由の多くが、台数規模や競合環境の外部要因によることから、売主様のなかには、「身もふたもない」印象を持たれた方も多いと思います。

他方で、しっかりアプローチをした結果、納得できる成果が出なかった場合も、決して無駄ではないと思います。アプローチ結果を受けて、再度営業に集中するケースや、別店舗での検討を始めるなど、判断を早くつけることが後々成果を生むケースもあります。まとめとして、売主様が留意すべきポイントを、自戒を込めて整理したいと思います。

パチンコホールの売却を検討する時の留意点

1.相手探しは重要だが5割である。残り5割は進め方の上手下手が成功を決める。

2.売主と買主は利害相反の関係だが、同時に、相手と信頼関係を築くことが成功の近道。

3.交渉は重要だが、行使するタイミングを間違えない。

4.情報漏洩は最大のリスク。社外と社内の両方に気を配る。

5.アプローチの結果を一旦受け入れる。



平野 孝

シニアコンサルタント

2004年船井総合研究所に中途入社。以降、成熟産業を中心に事業再生案件に従事。金融円滑化法や金融支援に伴う再生支援実績は40件を超す。M&Aでは3件の法的整理(会社更生法2社・民事再生法1社)に伴うスポンサー募集をはじめ、中規模以上のアドバイザリー業務に従事。不採算事業売却や成熟事業売却などのM&Aを得意とする。一般社団法人日本ターンアラウンド・マネジメント協会準会員。
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