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医療法人におけるM&Aについて
医療福祉担当の田畑です。前回コラムにおいて、ドクターの高齢化を要因としたM&Aのニーズが近年高まっていることを記載しました。では、ドクターが引退を視野に入れた場合に検討し得る選択肢とは何でしょうか。主に次の3パターンがあげられます。
①廃業
②親族への承継
③第三者への承継(M&A)
とはいえ、廃業もそう簡単ではありません。従業員の退職金を準備する必要がある、クリニックが賃貸であればテナントの原状回復工事が必要となる、医療機器や医薬品の処分費用…など、意外と金銭面の負担は大きいものです。一般的には1,000~2,000万必要とも言われます。また、親族への承継が可能ならばベターですが、子供が別で開業したため承継してくれない、経営を担う意思が無く勤務医になって戻って来ない…など、子供が医師の場合でも親族内承継に至らないケースも多々あります。
その場合、現在のバリュエーション(企業価値評価)を行い、医療法人売却による金銭的メリットが享受できる。従業員の雇用や地域の医療体制を守りたい。これらが期待できるならば、第三者への承継(M&A)を検討してみてもよいと言えるでしょう。
※弊社ではバリュエーション査定は無料で行っております。気になる方は遠慮なくご相談ください。
では、医療機関においてM&Aを検討する際に、まず把握すべきポイントは何でしょうか。それは自身の医療法人が「出資持分あり」医療法人なのか「出資持分無し」医療法人なのかを把握することです。これによって選択できるM&Aスキームが大きく変わってきます。
出資持分がある医療法人のM&A
日本における医療法人は、従来「出資持分あり」の医療法人でした。これら医療法人では、法人設立の出資金を拠出した社員が出資持分を有し、法人解散や退職、売却等の理由により出資資格を喪失した場合に出資割合に応じた「払戻請求権」が発生するものと規定されています。出資持分は財産権として認められており、いわゆる株式会社の株式と同等のものと言えます。出資者に相続が発生した場合は相続税が課税されるというデメリットもありますが、医療法人で利益蓄積が進めば進むほど出資者として金銭的な財産権が増加していくことから、経営者的なメリットが大きく感じられる医療法人と言えるでしょう。
出資持分あり医療法人の場合、選択し得るM&Aのスキームは主に3パターンあります。
・医療法人格は売却せず、内装、設備、看板の有形固定資産や患者(カルテ)、従業員など、クリニック事業を構成するもののみを売却します。事業譲渡の場合、その対価と損益は医療法人で計上することになり、基本的に院長個人が対価を回収することはできません。
※但し、給与や役員退職金に反映させることで実質的に対価の回収は可能です。
②持分譲渡
・出資者が出資持分を全部譲渡することで、医療法人ごと売却します。社員の入退社、理事の交代をすることで運営するクリニックを含む法人全体の資産、負債、権利、義務などを包括的に承継します。非常にシンプルなスキームであり、スタンダードな方法と言えます。特に買収を検討される事業者からは人気が高いように思います。
③合併
・医療法人は都道府県知事の許可を得ることで他の医療法人と合併、または分割することができ、この手法を用いてクリニックを承継する方法です。合併側の医療法人が他方の医療法人の資産及び負債等を包括的に引継ぎます。病院で多いスキームです。
「出資持分あり」医療法人の場合、主にこれら3パターンのスキームが考えられますが、圧倒的に②持分譲渡がシンプルで分かり易く、事例が最も多いものとなっています。
出資持分が無い医療法人のM&A
前段において「日本における医療法人は従来「出資持分あり」の医療法人でした」と述べました。では現在はどうなのでしょうか。その境目はズバリ、平成19年4月1日にあります。この日に第5次医療法改正が実施され、平成19年4月1日以降に設立した医療法人は「出資持分無し」医療法人となっています。
では、その特徴は何なのでしょうか。「出資持分無し」医療法人では財産権が認められておらず、解散時の残余財産等は国などに帰属することになります。ということは、ドクターは国の財産を増やすために一生懸命働くのか…?といった意見をおっしゃる方もいますが、そもそも「出資持分無し」医療法人を国が推進する背景は何なのでしょうか。
「出資持分あり」の場合、財産権が認められているが故に、医療法人の経営が危機的状況に陥ることがあります。例えば、高額過ぎる出資持分の払戻請求権の発生です。何らかの事情で出資者が突然退職した場合、どのようにして対価を支払うのか。潤沢な現預金を有する医療法人ならば問題ありませんが、そうでなければ医療機関として困ってしまうのは目に見えています。また、例えば出資者に突然相続事象が発生した場合、ドクターの親族に多大な相続税が発生します。となれば、もしかすると相続税が支払えず、後々に医療法人の事業承継にも問題が出てくるかもしれない…。国がこれらを危惧したことが背景となって、平成19年4月1日に医療法改正が実施されました。したがって、ドクターは国のために働け!ということでは決してなく、あくまで医療法人の安定した経営を第一に考えた結果の法改正となっています。なお、法改正の時点で出資持分のある医療法人は、当分の間存続していくことが認められており、それら法人は「経過措置型医療法人」と呼ばれています。いつまで認められるかは不明ですが、厚生労働省調査では、令和4年時点で約66%以上の医療法人が出資持分ありとなっています。私の体感としても、実際にM&Aを検討される世代は50~60歳代が多いため、開業時期から逆算すれば、M&Aを検討される医療法人は出資持分あり法人が多いです。
出資持分なし医療法人の場合、選択し得るM&Aのスキームは主に2パターンです。
①事業譲渡
②合併
そもそも譲渡する出資持分がありませんから、ドクターに持分譲渡による譲渡対価の受取りが発生しません。かつ事業譲渡による譲渡対価は医療法人が受取ることになるので、ドクター個人が金銭的対価を受取るためには、売り手側の理事長に医療法人を譲渡後、役員退職金を受取るなどのスキームを別途取組む必要があります。少し面倒ですが、今後はこのパターンが増加していくものと予想されます。
それぞれのメリット・デメリットについて
「出資持分あり」「出資持分なし」それぞれのメリット・デメリットについてまとめましょう。
【出資持分あり】
(メリット)
・事業承継手続きが簡易である。
・経営実績に応じて出資持分が増大する。
・出資持分の払戻請求権を行使することで、経営実績に応じた財産権の現金化が可能である。
・出資持分の相続が可能である。
(デメリット)
・出資持分の贈与に対して、後継者に多額の贈与税が発生する。
・出資持分の譲渡に対して、後継者に多額の資金負担が発生する。
・出資者に相続が発生した場合、その遺族に多額の相続税が発生する。
・医療法人に多額の金銭的負担が発生する場合がある。
【出資持分なし】
(メリット)
・出資者への払戻リスクが少なく、医療法人への金銭的負担が少ない。
(デメリット)
・出資持分は国等に帰属するため、出資者は財産の返還を求めることができない。
・経営実績に応じたリターンが少ない。
・出資持分は相続できない。
※なお、「出資持分あり」医療法人を新たに開設することはできませんが、「出資持分無し」医療法人へ移行することは可能です。
一概に、どちらが適しているかはケースバイケースです。そして、医療法人目線で考えるのか、出資者であるドクター目線で考えるのか、その立場によって、メリット・デメリットの見方が逆転します。一般的にはバリュエーション(企業価値評価)が高ければ高いほど、これらのメリット・デメリットが相反する可能性が高くなり、逆にバリュエーションが低ければ税金等の金銭的負担は少なくて済むことから、メリット・デメリットが相反する可能性は少なくなります。
したがって、廃業するのか、親族内承継を行うのか、M&Aを検討するのか。これらを判断するためには、まずは医療法人における現在のバリュエーションを把握することが大事かと思います。こちら、弊社では無料で査定しております。M&A実務の専門家である我々をうまく活用頂き、医療機関としてドクターのベストな出口を検討して頂ければ幸いです。
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