葬儀

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1.誰にバトンタッチするか

一般的に事業承継やM&Aを検討するにあたって、早期に検討すべきは「誰にバトンタッチするか」という点です。一例としては下記があります。

親族承継(贈与・相続)

親族承継は文字通り、ご子息・ご親族に承継されるパターンです。贈与や相続といったスキームが取られます。こうした血縁関係者へのバトンタッチは周囲からの理解が得やすい一方で、そもそも候補者が引き継ぐ意思や経営者としての資質があるかという点がハードルになりがちです。また葬儀業界は今後、競合との競争激化が明白な業界です。候補者に借金を背負わせてまで引き継がせることに抵抗感を覚えるオーナー様も多数いらっしゃる状況です。

従業員承継(MBO)

ご子息・ご親族へのバトンタッチが難しい場合、自社の従業員に引き継いでもらうことも選択肢です。自社のことを良く分かっている分、引継ぎやその後の運営がスムーズになる可能性があります。ただし、譲受にかかる資金調達がハードルになるケースが多いです。いわば、個人が会社を買う恰好となりますが、その金額をポケットマネーで用意できる従業員様はほとんどいないといっても過言ではないでしょう。しばしば、銀行との協議や調整、担保提供に苦労されるお話を伺います

M&A(第三者への譲渡)

上記のようにご親族や従業員のバトンタッチが難しい場合が多々あります。こうした時は、第三者への譲渡を積極的にご検討いただくとスムーズと思慮します。第三者への譲渡は、前述の2つのスキームと比較して候補先が多岐に渡ること、大手企業・有力企業と手を組むことで資金面をはじめとした経営インフラのメリットを享受しやすい点等があげられます。

譲受候補先の属性

金額やそのほかの希望条件を考えるうえで、どのような相手と組むべきでしょうか。

葬儀業界の場合、ストングバイヤー(積極的に検討する譲受候補企業)は次の3つに大別できます。

専門葬儀社

地場の有力葬儀社や上場企業があげられます。生産性の向上を求めるのであれば、同一商圏内でのM&Aが有効的な手段となります。一方で上場企業のグループに入ることにより資本力を手にすることで出店スピードを上げ、件数を増やし生産性を向上させていくことも可能となります。例としまして、同一商圏内でのM&A事例としては和歌山市内における「ヴィクリエイト×辻本葬祭」などがあげられます。上場企業のグループイン事例としては、「きずなホールディングス(当時はアドバンテッジパートナーズ)×花駒」「きずなホールディングス×備前屋」などが挙げられます。

ファンド・投資会社

ファンドが専門葬儀社のM&Aを行う事例もあります。ただし、一定程度の規模感に達している場合に検討着手となることが多く、売上額が20億~50億規模の会社を譲渡するケースで見られます

またロールアップ(追加買収)として、初期投資先と業績連動が見込むことのできる葬儀社をM&Aすることもあります。

以上の例としては、「アドバンテッジパートナーズ×家族葬のファミーユ」「NSSK×東海典礼」などが挙げられます。

ファンドの場合、エグジットが前提となることが多いですが、資本力や人的ネットワーク、経営手法を取り入れて自社の更なる成長を目指すことができます

互助会系

互助会系の企業様によるM&A例もあります。ただし、ビジネスモデルや社風などから、互助会系同士での検討の方がスムーズな印象となります。

M&Aの実務では、希望譲渡価格をはじめとした諸条件のほか、地域内での評判など様々な点から候補先との検討を進めていきます。一般的にM&A実行後の経営判断は買主側の事項となりますが、検討プロセスにおいてトップ面談をはじめとした相互理解場が設けられています。

第三者への売却時の注意点

第三者への譲渡を検討する際に、どのような点に留意すべきでしょうか。なるべく納得できる譲渡条件に近づけるためには、以下の準備があると比較的スムーズになります。

譲渡対価の希望額と業界相場の乖離防止

中小企業で比較的利用される企業価値評価(バリュエーション)の方法として、EBITDAマルチプルがあげられます。これは下記2つの要素の合計額をもって企業価値とするものです。

会社の現預金及び生命保険積立金などの現金同等物から有利子負債(借入金・リース債務等)を比較考慮し、正味の現預金の額(あるいは有利子負債の額)を計算

EBITDAという会社が一年間に事業を通じて稼ぐ金額を試算し、業界相場の倍率を掛けて計算します。損益計算書の営業利益に減価償却費や生命保険料といった勘定科目を足し戻した額をEBITDAとすることが多く、これに葬儀業界相場となる3倍~5倍程度のEBITDA倍率を乗じる

ポイントは希望譲渡価格が相場価格からあまりにも乖離した場合、そもそも候補先との交渉がスタートしない点です。

今後ますます事業承継の課題や、業界の先行きの不透明感が増すなかで、譲受ニーズと比較し、譲渡ニーズが増加すると予測されます。結果的に、買手市場の傾向が強まります。すると企業価値の相場(つまりEBITDA倍率)は低下傾向になると予測されます。

当社では無料で簡易的な企業価値算定を行っておりますので、ご興味がある場合はお問合せください。

会社の基礎資料・財務・労務関連の資料

M&Aの検討には、いわゆる決算書以外の財務資料も必要となります。顧問税理士先生から毎年決算が締まった後に決算資料一式を受け取られると思いますが、過去3カ年分と進行期の試算表をスムーズに提出できるかが重要です。(一式とは、貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表のほか、勘定科目別内訳明細書・法人税申告書(及び別表)、法人事業概況説明書、消費税及び地方消費税申告書、固定資産台帳・減価償却費明細書、総勘定元帳が該当します。)

また、事業計画や拠点別のPL、日頃の経営会議のKPI管理資料も事業の収益性を検証するうえで必要資料になります。

財務面以外の資料としては、株主名簿や会社定款といった基礎的な資料も必須です。歴史ある企業様では過去に株式を贈与や相続している場合もありますが、会社設立以来の株式の移転について、一通り疎明できることが望ましいです。M&A後に予期せぬ第三者が株式を持っていると大きなトラブルになるため、デューデリジェンス時に株式移転関連の確認は重点的に行います。定款ですが定款変更を行った場合は最新の定款に加えて、定款変更決議の株主総会議事録も必要となります。

労務面では、就業規則、給与台帳やタイムカードも必須となります。葬儀業界のみならず、労務管理は全業界でも主要な論点になります。労働時間の管理方法次第では未払い残業代、つまり簿外債務が認められる可能性があります。

葬儀社では夜間の問い合わせ対応など宿直制を採用しているケースも見受けられます。宿直には労働基準監督署による許可が必要となりますので、該当書類を備えているか?も問われます。

所有不動産関係資料(証明書・権利書)

不動産関連の資料としては、建築基準法に基づく建物検査済証・消防法に基づく建物検査済証、登記権利証明書を保管しておくことが求められます。当社の過去の案件では建物を自前で立てず売買購入するケースや、平成初期までの建築物の場合、書類が見当たらないというケースもありました。こうした書類がないことは法的なリスクとなり、M&A検討が危ぶまれるほど重要なポイントとなります。

なお、ご自身の所有する不動産について会社から賃料を得ている場合は、M&A後の扱いも整理事項となります。M&A後も引き続き会社との賃貸借継続するのか、不動産を買主に売却するのかという選択肢があります。一般的には斎場跡地は不動産としての転用が効きづらいため、賃貸借契約の継続を好まれる譲受企業が多い印象となります。

ご自身と会社の取引の場合、一般的な相場価格よりも高い賃料を設定しているケースも見られますが、M&A後は市場相場価格を前提とした賃貸借のまき直しや、事業継続に不要な場合は契約解除となる場合もあります。

いずれにせよ、これまで家族・身内間の取引だったところに、第三者の経営判断が加わる点を理解されることが、協議のポイントとなります。

経営者の役割(権限委譲)と引継ぎイメージ

代表様引退後の会社や事業の運営方法も主要な論点です。新たに役員を派遣する、会社の若手のホープを幹部に引き上げる、親会社のマネジメントと統一するなど様々な方法がありますが、現オーナー様の業務の権限移譲が進んでいない場合、案件検討が進まない・あるいは売主様の希望する引継ぎ期間に収まらない、という可能性が生じます。現オーナー様が現場に出ていないと運営が回らない場合は注意が必要です。奥様が経理担当というケースも頻繁にありますが、こちらのバトンタッチも重要な検討事項となります。

まとめ

今回は売主様目線でM&Aの初期検討時に必要なポイントをご紹介しました。誰にバトンタッチするのか、そして希望譲渡価格や初期段階で必要な資料を整理しておくことが、スムーズなお話への第一歩となります。

近年、M&Aという単語が肯定的に用いられるようになりましたが、論点や手続きに煩雑さを感じる方もいらっしゃる方も一定数いると思われます。船井総研では葬儀社に精通したM&Aコンサルタントが無料で経営相談を承っております。ご気軽にご相談ください。


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