M&A戦略策定のための事例の捉え方
【事例の活用方法】
今回はM&A戦略を考察するうえでの事例の活用方法についてお話ししたいと思います。各社の事業展開やM&Aに関するニュースは、我々M&Aに携わるコンサルタントにとっても、また、経営者の皆様にとっても戦略を考えるうえで有効な情報ソースになっていると思います。多忙で新聞を読み込む時間がない場合でも、移動時間などを利用してネットコンテンツでタイムリーに欲しい情報を入手されている方も多いでしょう。
こうした情報ソースについて、業種、取り扱い商品・サービスの変化、M&Aの業種の組み合わせ、M&Aのスキーム(株式譲渡・事業譲渡・第三者割当増資・JV等)に着目すると、今後の戦略がクリアになる場合もあると思います。特に、M&Aを検討中の企業様にとっては、相性の良い事業を展開する企業を絞り込むうえで、他社の事例は参考になると思います。
事例から今後のM&A戦略を読み解く
【船井総合研究所がお手伝いさせて頂いたM&Aにおける業種の組み合わせ】
ご参考までに、船井総合研究所がこれまでお手伝いをさせていただた中で、異業種間で行われたM&Aの事例を幾つかご紹介させて頂きたいと思います。
上記のM&Aの組み合わせ事例で1から4までは類似業種間のM&Aになるのでイメージしやすいと思います。5のハウスビルダーとカーディーラーの事例について補足説明させて頂きます。
ホンダやソニーの動き、以前からのヤマダ電機の動きをみると、この手のM&Aの組み合わせは理解しやすいと思います。ホンダとソニーがEVの開発・販売でジョイントベンチャーを立ち上げるというニュースはご存知の方も多いでしょう。ヤマダ電機さんは、住宅事業やリフォーム事業をやっていて、以前より積極的にM&Aを進めている状況です。住宅とクルマは販売方法(お客様のご予算に合わせたローン販売)が一緒で、クルマはEV化すると家電メーカーでも開発ができるためクルマ自体が家電に近い位置付けになるため、お互い相性が良い組み合わせになります。
もちろん、住宅を買えば家電もクルマも欲しくなるという消費者の購買パターンからしても相性が良いと言えます。従って、住宅、クルマ、家電という業種間でのM&Aは、アフターマーケットのサービス分野も含めて進むはずです。
【事業展開から予想される業種別のM&A戦略】
M&A以外でも、業種別に事業展開そのものに着目しても今後のM&A戦略をある程度予測することができます。例えば、広告代理店、大手印刷会社、経営コンサルティング会社、デザイン会社、クラウドサービス・アプリケーション開発会社といった会社のホームページやグループ会社の業種をじっくり見てみると、重複しているサービスが多いですね。
従って、重複するこれらの業種間でM&Aが継続的に行われていくと思います。特に、広告代理店、大手印刷会社、経営コンサルティング会社がユニークなテクノロジー・AI等を持つ会社へ投資したり、JVを立ち上げるケースが増えてくるはずです。
食品メーカー、飲料メーカーも見てみましょう。結論を言うと、食品メーカー、飲料メーカーは、基本的に健康・美容関連商材を強化するという戦略は今後も継続します。TVCMを見ても、これまで普通のお菓子や清涼飲料を販売していたメーカーが、なぜか健康食品・美容関連商品の広告をしているのをよく見かけると思います。
この傾向は、特に、コンビニに行くと良くわかりますね。コンビニの棚割りを見ると、ここ数年でプロテインやアミノ酸の含有を訴求した食品・飲料が多く陳列されているのが分かると思います。健康や美容といった商品はリピート商材が多いので、特定の客層をファンにしてしまえばストック型の収益モデルに近いものになります。プロテインやアミノ酸系の原材料の商社、あるいはスポーツニュートリション系のメーカーが、大手食品メーカー・飲料メーカーにグループインすることもあるかもしれません。
管工事業のM&Aトレンド予測
【管工事業の売上規模別会社構成比】
管工事業に話を戻しましょう。船井総合研究所が東京都の管工事業者約3,000社(※年間売上3,000万円未満の会社を除く)を対象として行った分析では、年間売上高レンジで見ると、5億円未満の会社が約84%を占めていることが分かります。この傾向はおそらく全国で分析しても同様の分析結果になると思います。従って、後継者不足などによる事業承継の案件(売り案件)はこのレンジの会社から多く発生するものと考えられます。
【管工事業のM&A戦略】
管工事といっても様々な分野があり、主業務として管工事を行う会社もあれば、主業務は別でかつ管工事も行う会社もあります。管工事と相性の良い業種としては、一般電気工事業、建築工事業、土木工事業、鉄骨工事業、電気通信工事業、ビルメンテナンス業、内装工事業、機械器具設置工事業、産業機械器具卸売業、給排水・衛生設備工事業、冷暖房設備工事業、燃料小売業、化学機械・同装置製造業などがあります。従って、工事分野が一致すれば、これらの業種間でのM&Aが進むと思います。工事業全般のトレンドとして、工事分野の総合化が進んでいる点も今後のM&A戦略のポイントになるでしょう。