親族承継の実体験から得られた示唆
まずは先生のご経歴からお聞かせください。
渡部先生: 1986年に鶴見大学を卒業し、父の歯科医院を継ぐ形でキャリアをスタートしました。当時は「一人で開業し、一人で閉じる」時代でした。ところが父が倒れ、予定より早く承継せざるを得なくなりました。当時は自分の診療技術もまだまだだったこともあり、大変苦労しました。
この体験から、「ワンマン歯科医院運営はリスクが大きすぎる」と実感し、早い段階から勤務医を雇い、チーム経営の道を選んでいきました。
勤務医を「雇用」ではなく「ビジネスパートナー」として考えていらっしゃるのが印象的です。
渡部先生: そうですね。当時は「雇用する、院長のトップダウンマネジメント」が当たり前だったのですが、私の場合は勤務医の方が診療歴が長いこともあり、ビジネスパートナーとして一緒にやっていくんだ、という気持ちで接していました。そうじゃないとやっていけないので。
当時の勤務医との関わり方としては珍しかったと思いますが、勤務医と一緒に育っていく、という発想で、なんとかやっていきましたね。
大型歯科法人の経営者としての成功~承継への歩み
そういったマネジメントの姿勢からも経営が上手くいき、国内15院の歯科グループとなられました。
大型法人の承継は難易度も高いかと思いますが、分院長への承継で出口戦略に成功されておられます。
その背景含めてお聞かせいただきたいと思います。
渡部先生: はい。自分の子どもは歯科医師にならないと決まっていたので、分院長や信頼できる勤務医に医院を承継してもらう道を選びました。9医院を分院長へ、1医院はご縁のある先生に譲渡しました。
分院長への承継は当時としては珍しかったのではないでしょうか。
渡部先生: そうですね。親族内承継か閉めるかが選択肢のほとんどだったので、院内承継は珍しかったです。周りの先生方にも驚かれましたが、スタッフや患者さんを守るためにも、安心できる相手にバトンを渡すことが最優先でした。
譲渡後のキャリア、ライフプランニングについて
承継後のご自身のキャリアはどのようにお考えだったのでしょうか。
渡部先生: 実は昔からライフプランとして海外移住を考えていました。その為、承継後は海外に移住し、一方で歯科診療は好きだったので日本の勤務医として籍を置き、帰国時には臨床にも関わる形で自身の居場所を創っていきました。譲渡=引退ではなく、「違う関わり方」があることも自身の中では体現できているのかなと思います。
経営権を手放すことに不安はありませんでしたか。
渡部先生: 正直に言えばありましたね。事業承継の際に、自分の存在価値が消えるような喪失感は、どの経営者にもつきまとうのではないでしょうか。でも、私は“主体的な選択”として引き継ぎを決断しました。父の急病によって「受動的な承継」を経験していたからこそ、「自ら決断する承継」を重視したこともありますね。
大変学びになります。承継を進める上でのポイントはありますか。
渡部先生: ライフプランから逆算して「いつ」「誰に」「どうやって」ということを具体化すること。私は49歳で全体スケジュールを組み、承継準備に3年ほどかけました。なかなか相手が決まらないこともありますが、時間をかけて信頼を築く、そして後継者が承継しやすい環境をつくるしかないと思います。
なるほど。M&Aというよりも、「人を育て、引き継ぐ」意識が強いですね。
渡部先生: まさにその通りです。勤務医への承継も第3者という意味ではM&Aと近しいですが、“理念の承継”も含めて意識していました。
歯科の事業承継、M&Aについて
今の歯科業界で、こうした承継はどう捉えられるべきでしょうか。
渡部先生: 高齢化が進む中、勤務医承継やM&Aはますます必要になりますよね。でも「譲渡する=終わり」ではなく「経営権を手放し軽くなって、勤務医として医院の発展に関わり続ける」こともできます。臨床を愛する先生は、引き継ぎ後も勤務するグループイン型のM&Aも良いと思います。
最後に、これから承継や引退を考える院長先生にメッセージをお願いします。
渡部先生: 自分の“出口戦略”を持つこと、そして、自分自身の価値観に沿った承継方法を選んでほしいと思います。承継は「撤退」ではなく「次のステージへの橋渡し」です。その準備は早いに越したことはないと思います。私の話が少しでも先生方の参考になると幸いです。
インタビュアー振り返り
渡部先生の、ライフプランニングから逆算して、戦略的に事業承継を行っていく事例は、多くの歯科経営者にとってお手本となるように感じました。
経営と診療に追われて、ご自身の時間が取れない歯科経営者にこそ、ご参考にしていただきたいインタビュー内容です。是非下記動画からもご視聴いただいて、今後の出口戦略に活かしていただければと思います。
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