開業から譲渡まで ― 決断の背景
事業承継をされたのはいつ頃だったのでしょうか。
古賀先生:平成11年に個人で開業しまして、譲渡したのは平成23年ですから、開業から12年目のことでした。当時、まだ「M&A」なんて言葉が歯科界では一般的ではなかったですね。私自身、その言葉をその時に初めて聞いたくらいでした。
確かに当時はまだ珍しかったですよね。譲渡後はどのような働き方をされていますか。
古賀先生:基本的に、開業していた場所でそのまま診療を続けています。グループの理事という肩書きではありますが、変わらず院長として働いています。働く場所も生活も、当時からほとんど変わっていませんね。
なぜ譲渡を決意したのか
M&Aに踏み切るきっかけは何だったのでしょうか。
古賀先生:お話をいただいたのが、熊本の医療法人からでした。当時、その法人は広域医療法人化を目指していて、県外に医療機関を構える必要があったんです。私のクリニックがたまたまその条件に合っていたというのが始まりです。
なるほど。譲渡後も残ってくれという要望が最初からあったのでしょうか。
古賀先生:はい、もともとその法人には歯科部門がなかったため、「運営を継続するには自分が残る必要がある」というのが譲渡の前提条件でした。それに私も40代でしたから、すぐ引退というわけでもなく、もう少し臨床に関わりたいと思っていたので、自然な流れでした。
医院を「家業」にしない価値観
開業医というと、後継者問題がつきまとうイメージがありますが、先生の場合はいかがでしょうか。
古賀先生:私の実家はタバコ屋で、歯科とは無関係でした。兄が歯科医になったものの、私は特に家業としての意識は持っていなかったんです。家内も銀行員で、義兄が歯科関係者なんですが、結婚前に「歯科医と結婚するのはやめた方がいい」とまで言われたほどでして(笑)。
そのような背景があったからこそ、譲渡という決断にも柔軟になれたのでしょうか。
古賀先生:そうですね。医院を「自分が一生抱え続けるもの」としてではなく、「より良い形でバトンタッチしていく」ことの方が自然に思えました。
M&Aで変わった働き方・気持ち
譲渡後の働き方で変わったことはございますか。
古賀先生:一番大きいのは、経営から解放されたことですね。以前は診療・経営・人事・クレーム対応などすべて一人で背負っていましたが、今は組織としてそれぞれの役割が明確です。私は診療に集中できるようになり、ストレスがかなり減りました。
経営者としてのプレッシャーから解放されたということですね。
古賀先生:まさにその通りです。あと、スタッフの採用や教育の仕組みもグループ内で整っているので、人が辞めてもパニックになることがありません。安心して日々診療に向き合える環境です。
譲渡を検討している歯科経営者へ
譲渡を考えている先生方へのメッセージがあればお願いします。
古賀先生:M&Aというと「逃げ」や「リタイア」のように思われがちですが、そうではありません。むしろ、医院やスタッフ、患者さんを「守るための選択肢」だと思っています。譲渡後も現場に残って働くという選択肢は、実際やってみて非常に良かったです。引き継ぎもスムーズですし、スタッフや患者さんも戸惑いが少ない。
「今はまだ早いかな」と思っている先生ほど、少し早めに検討を始めることをおすすめしたいですね。
今後の展望
これから先、ご自身のキャリアについてはどう考えていますか?
古賀先生:これからも現場には立ちたいと思っています。ただ、以前のような「全部自分でやる」スタイルではなく、診療に集中しながら若手の育成や法人全体のバランスに貢献できればと思っています。あと、もし今後「自分が完全に現場を離れる」タイミングが来たとしても、安心して任せられる組織があるというのは心強いですね。
最後に一言
古賀先生:M&Aは“終わり”ではなく“新しいスタート”です。「医院をどう守り、どう発展させていくか?」という目線で考えていただけると、必ず良いご縁が見つかると思います。
インタビュアー振り返り
このように、古賀先生の事業譲渡は単なる「売却」ではなく、未来志向の承継であり、自身の働き方・生き方をより良い形に再構成する選択であったことが伝わってきます。
医院承継を考えているすべての歯科医師にとって、大きな示唆となるインタビューでした。
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