葬祭業M&Aのメリット・デメリット
- 葬祭業 M&Aレポート
M&Aは買い手、売り手、両者にとって成長スピードを上げる機会になる等のメリットがあります。その一方でデメリットも存在します。これらを理解したうえで、M&Aを実行することで両者納得のいくM&Aを行うことができるようになります。是非、ポイントをおさえておいてください。今回は葬祭業のM&Aにおける気を付ける点を説明いたします。
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葬祭業の譲渡側(売却側)のM&Aのメリット
①後継者問題を解決できる
年齢が50歳を超え、お子様が現在、大学生、高校生という葬儀社のオーナー経営者様も増えてきています。2040年までは死亡人口が増える見込みなので現経営陣は安定しています。ですが、お子様が40歳を超えて、これから経営者として一人前になっていく、という段階から市場が縮小していくのが見えています。事業承継をするのは不安、という声をよく耳にします。M&Aで会社の株を売却することで、現状は、現社長が経営者として残りながらも、引退をされた場合は譲り受け企業より経営者を送りこんでくれるようになるということもできます。そのため後継者を心配する必要がなくなるというメリットがあります。
②経営者を継続することもできる
前述のように、オーナー経営者が株を譲ったからと言って、すぐに経営者を退任する必要はありません。株を譲渡した後も、社長として在籍することも可能となります。つまり、株式譲渡益を手にしたうえで、今まで通り経営者として仕事を継続することができるというメリットもあります。
※M&A時の交渉条件による部分が多く100%ではありません。
③創業者一族メリットとしての資産を得ることができる
創業者メリットとして、株を売却することで現金で対価を得ることができます。親族内で代々継いでいく場合には、贈与税や相続税などの税金を支払うのみです。中々、株を現金対価として受け取ることはできません。※ホールディングス化などを行い買い取る場合は、別第三者に買い取ってもらうことで資金を得ることができるのもM&Aで売却するメリットの一つと言えます。
④個人保証などが外れる
オーナー経営者であれば、個人保証が入っていたり、連帯保証人になっていたりするケースがほとんどです。M&Aで株式を売却すると、これらの保証が外れることとなります。そして「肩の荷が下りた」とおっしゃられるオーナー経営者も多くいらっしゃいます。
⑤従業員の雇用を守ることができる
後継者がいない場合は廃業という選択肢を選ばなければならない時もあります。M&Aで株式譲渡を行うことで、後継者不在という事態を乗り越えることができます。そのため従業員の雇用を守ることができるようになります。
葬祭業の譲渡側(売却側)のM&Aのデメリット
①経営権が少なくなる
M&Aで譲渡した場合、経営者と残っても今までのようにすべての判断を自分で行えるわけではなくなります。接待交際費などの使用に関してもある一定のルールが課される可能性もあります。また、一定以上の投資になると親会社への稟議が必要になります。かつ経費等に関しても定められた予算の中でやりくりしなければならないというケースもあります。(特に大手企業やファンドが譲り受け企業の場合は予算策定が厳格になるケースが多い。)
また、売上や収益の成長率に関してもコミットメントラインがひかれる場合もあります。そのためオーナー経営者が売却後も経営者として残る場合は、窮屈に感じることも多くあるようです。
②買い手が見つからないケース・譲渡対価が想定より少なくなるケース
譲渡対価に関しては相場観やオーナーの希望対価額が基準で交渉が始まります。しかし、買い手が交渉のテーブルにのってこないケースもあります。その場合は、譲渡対価を下げて交渉を行う必要があります。もしくは、売却をしないという判断を下さなければなりません。一方で買い手候補は存在するものの、デューデリジェンス(買収監査)を行う上で、想定外の簿外債務などが見つかったりすると価格が引き下げざるえない場合もあります。
真っ当で誠実に経営を行っていても、会計処理の問題や先代から引き継ぐ以前の過去の資料が存在しない等が見つかった場合、譲渡対価の引き下げの要求をされる場合があります。
③従業員が退職するケースもある
従業員が、オーナーが変わることによって不安を覚え退職をしてしまう、というケースもあります。誰もが突然の変化には驚きや不安を覚えることになります。そのため丁寧に説明し従業員一人一人のメリットを伝えていくことで退職を防ぐこともできます。
④シナジーを生むことができる
M&Aで譲渡することで、資金調達が容易になる「財務シナジー」や人的交流ができるようになります。そして生産性が上がる、採用がしやすくなるなどのシナジーを得ることができます。
葬儀社オーナーが譲渡側(売却側)のM&Aを検討するタイミング
①年齢を考えるきっかけに検討
ご自身の年齢とご子息の年齢、市場環境を考えM&Aを検討するというケースが多いようです。特にオーナー経営者様が45歳を超えたあたりから、50、55、60、65と5の倍数でM&Aの検討を考えるきっかけを持つオーナー経営者が多くいらっしゃいます。
②健康問題をきっかけに検討
中小企業の一番のリスクは、オーナー経営者の体調を崩すことであります。そのため健康管理には細心の注意を払っていらっしゃる経営者が多いのも事実です。しかし、今まで一度も病気にかかったことはなかったものの、突然、病気をした、入院をした、ということがあった場合に検討される方も多くいらっしゃいます。
③市場環境の変化をきっかけに検討
葬儀業界は競合状況の変化が激しい業界です。自社の周りに大手葬儀社が出店攻勢をかけてきた際には、自社単体での経営で今後成長していくことができるのか、ということを考えられる経営者様も多くいます。より成長していくためにM&Aで大手にグループインすることを検討される経営者様も多くいらっしゃいます。
譲受側(買収側)のM&Aのメリット
①時間を買うことができる
買い手のメリットの一番は、式場数が増えるため出店にかかる時間、さらには採用にかかる労力負担を減らせる点です。自社での展開なら5式場出店するのに5年かかっていたところを、M&Aをすることで5年分の時間を買ったことになります。葬祭業の場合、式場を出店する際に、中々、良い立地が見つからない、住民の反対運動をうけるリスクがあるなどの出店に対しての労力がかかるのも事実です。そのため、ある程度の式場数を持っている葬儀社をM&Aするということに関しては大きなメリットがあります。
②生産性を向上させることができる
葬儀社の場合、M&Aで買収することで、件数ボリュームが一気に拡大することで、人員配置を効率的に行えるようになります。そして生産性を高めることができるようになります。特に、件数ボリューム1000件を超えてくれば人時生産性が高まる1万円を超えてくるケースもあります。
③マーケティングが効率的になる
葬儀社の場合、M&Aを通してドミナント出店が形成することができれば、マーケティングコストを落としていくことができます。デジタルマーケティングやチラシなどのオフラインマーケティングに関しても1式場辺りのコストが下がります。そのため、一件当たりの獲得コストを下げていくことができます。
譲受側(買収側)のM&Aのデメリット
①期待していた業績が出ない
M&A後に予想していた業績よりも下振れをしてしまう可能性があります。特にM&A前には予想していなかった競合の葬儀社が買収した式場の周りに出店してきた場合があります。そうすると件数ダウン、業績ダウンということも起こりえます。予想以上に収益力が下がってしまうと、投資回収期間が伸びてしまうというデメリットもあります。また上場企業などにおいては、のれん代を減損しなければならないというリスクも伴います。
②見込んでいたシナジー効果がでない
M&A後、見込んでいたシナジー効果が出ない場合もあります。M&A後、生産性の向上を見込んでいたものの、あまりにも企業文化が違い過ぎることがあります。そして業務オペレーションが浸透しないということもあります。単価アップなどのシナジーも同様です。葬儀社のM&Aにおいてはシナジー効果は買い手側としては見込んでおく必要があります。
が、譲渡価格に関しては、シナジー効果は見込まず算定することが重要です。評価は現在の業績をもとにした評価、市場の相場観での評価、そして、その企業が独自で企業努力をした際に将来生み出す利益予測に対しての評価、といった点で評価額を算定する必要があります。仮にシナジー効果が生まれない場合でも、それが買収企業側のリスクにはならないようにヘッジして、M&A価格の妥当なラインを見極める必要があります。
③買収後に簿外債務や粉飾が見つかることがある
M&Aの講習期間中にデューデリジェンスを通して企業内部の調査を行います。しかしその際には見つからない簿外債務や粉飾が潜んでいることも中にはあります。特に葬儀社の場合は24時間365日営業のため労務リスクが考えられます。労働訴訟などに巻き込まれてしまうこともあります。そのためデューデリジェンスではしっかりとそのようなことがないかのチェックを行っていく必要があります。
④従業員・取引先が離散してしまう場合がある
譲り受け手に不安や不満を持つ従業員も少なからず出てくるケースがあります。特に競合企業をM&Aする際は、特に不満を抱く従業員が出てくるケースとなります。売却側の従業員が納得いかない、という心理的な観点から出てくるのです。
譲受側(買収側)のM&Aを検討するタイミング
①新たな成長戦略・中期経営計画を策定するタイミング
M&Aを検討するタイミングでは、投資資金に余裕がある状態です。つまり手元資金にも余裕があり、資金調達も十分に可能な状態であることが大前提となります。本業が厳しいのにM&Aで買収を検討するといった状況にはなかなかなりにくいのも事実です。その中で、今後の事業展開をどのようにしていくのか。中期経営計画などを策定するタイミングでM&Aを成長戦略の一つに盛り込む企業が多くあります。
②出店スピードを速めていきたいとき
自社だけで出店していくのには限界があります。借り入れの状況、採用の状況などを考えると、仮に出店候補地があってもなかなか出店することができない、というケースもあります。M&Aを行うことによって、成長スピードを高めていきたい時にM&Aを検討する葬儀社が多いようです。
ステークホルダーのM&Aのメリット・デメリット
①従業員のメリット・デメリット
従業員のメリットとしては、現在よりも大きな会社のグループ社員となることによって、待遇面の改善や福利厚生の充実などが行われるケースもあります。また、銀行からのローンが組みやすくなるといった副次的なメリットもあります。
デメリットとしては今まで慣習で行っていたことを変化させなければならない、今までと違った企業文化に変わっていく、等があげられます。特に経営者が交代するケースなどは従業員にとっては転職したのと同じような感覚で捉えられることもあります。
②取引先のメリット・デメリット
取引先のメリットとしては大手にグループインすることで未収リスクが少なくなる、取引規模が大きくなる可能性がある、等があげられます。
一方でデメリットとしては、取引がなくなってしまう、という可能性もあります。
③金融機関のメリット・デメリット
金融機関も取引先同様、企業が成長することによって貸出金額が増えるケースもあるので、こちらはメリットとも言えます。また、貸し倒れリスクが下がることもメリットの一つです。一方でデメリットとしては、他行に借り換えをされてしまう可能性もありますので、メリットばかりとも言えません。
葬祭業M&Aに関するまとめ
葬儀社のM&Aに関しては、売り手・買い手ともにメリット・デメリットが存在します。また、当事者同士だけでなく、自社を取り巻くステークホルダーにもメリット・デメリットがあります。ただし、大局的な見方をすると、2040年からは死亡人口が縮小することがほぼ確実です。
そのため健全に企業が成長し続けるためには変革は必要となります。M&Aを通して規模を拡大していくことで、生産性の向上を行っていく必要はどの葬儀社にもあると考えられます。最終的には、自社の葬儀式場が永続的に存在し続けること。そのことがステークホルダーにとってのメリットであるとも言えます。
M&Aを行う際は、譲渡対価を含め大切なポイントがあります。しかし、M&A後も企業経営は継続して行われていきます。ですので、最終的には譲渡企業・譲受企業のお互いが成長していけるパートナーであるかどうかを見極めることが重要となります。
船井総研入社後は専門サービス業の経営コンサルティング部門の統括責任者として多数のM&Aを経験。現在は、M&A部門の統括責任者をつとめる。買って終わり、売って終わりではなく、M&A後の企業成長を実現するマッチングに定評がある。過去経営支援を行ってきた企業は200を超える。
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