この記事では、医療法人(病院)のM&Aにおける仲介手数料の仕組みと相場、そして税金や諸経費を引いた後に理事長の手元にいくら残るのかを解説します。
読了後には、適正な手数料の見極め方と、失敗しないパートナー選びの基準が理解できるようになります。
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1. 医療法人(病院)のM&A仲介手数料とは? 成功報酬だけではない費用の全体像
医療法人(病院)のM&Aを検討する際、まず気になるのが「仲介会社に支払う手数料」でしょう。
しかし、提示される見積もりの金額だけを見て高い・安いで判断するのは危険です。
M&Aには、仲介手数料以外にも様々な実費や、目に見えない調整コストが発生するからです。
まずは費用の全体像を正しく理解しましょう。
医療法人(病院)M&Aの全体像や基礎知識についてより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください
一般的な料金体系「レーマン方式」の仕組みと計算例
多くのM&A仲介会社は、「レーマン方式」と呼ばれる計算式を採用しています。
これは、取引金額(譲渡価格や移動総資産)に応じて手数料率が変動する仕組みです。一般的には、取引金額が大きくなるほど料率は低くなります。
【一般的なレーマン方式の料率例】
| 取引金額または移動総資産 | 手数料 |
| 5億円以下の部分 | 5% |
| 5億円超~10億円以下の部分 | 4% |
| 10億円超~50億円以下の部分 | 3% |
例えば、譲渡価格が 3億円 の場合の手数料は以下のようになります。
3億円 × 5% = 1,500万円
一見シンプルですが、会社によって「取引金額」の定義が「株式譲渡価格」なのか「負債を含めた移動総資産」なのかで、算出される手数料が数倍変わることがあるため注意が必要です。
仲介手数料以外にかかる「隠れたコスト」一覧(DD費用・登記費用など)

仲介会社への成功報酬以外にも、M&Aを完遂するためには以下の実費が必要です。
これらは通常、仲介手数料には含まれません。
- 買収監査(デューデリジェンス)費用: 買い手が実施する場合が主ですが、数十万〜数百万円かかります。
- 登記費用: 理事長変更や資産の移転に伴う司法書士への報酬(数万〜数十万円)。
- 行政書士費用: 保健所や厚生局への届出、定款変更の認可申請など(数十万円〜)。
- 役員退職金: 売り手側の理事長が退任する際に支払う場合、その原資。
これらを予算に組み込んでおかないと、最終的な手残り額が想定より少なくなってしまいます。
◇見えない調整コスト◇ 見積もりには載らない「見えない調整コスト」の正体
金銭的なコスト以上に重要なのが、成約までに要する「労力」というコストです。
私の経験から言えることですが、医療法人(病院)のM&Aは、単なる株式の売買である株式会社のM&Aよりも遥かに複雑です。
例えば、スタッフへの説明です。
医療従事者は職人気質の方が多く、経営者が変わることに強い不安を抱きます。
下手な伝え方をすれば、看護師や理学療法士が総退職し、病院機能が停止するリスクすらあります。
また、行政との折衝も大変です。「理事長は医師でなければならない」「管理医師を誰にするか」といった医療法特有のパズルを解きながら、行政の認可を取り付ける必要があります。
これらの調整を円滑に進めるための仲介会社のサポートは、見積書には載りませんが、M&Aを成功させるための必須コストと言えるでしょう。
2. 医療法人(病院)のM&A仲介手数料の相場【2026年最新版】

では、具体的にどれくらいの費用を見込んでおけばよいのでしょうか。
最新の相場観を解説します。
譲渡価格別シミュレーション:1億円・3億円・5億円での手数料目安
譲渡価格を対象としたレーマン方式(料率5%)を前提とした場合の手数料目安は以下の通りです。
- 譲渡価格 1億円の場合: 500万円
- 譲渡価格 3億円の場合: 1,500万円
- 譲渡価格 5億円の場合: 2,500万円
ただし、これはあくまで純粋なレーマン方式の場合です。
次項で説明する「最低報酬額」の設定により、小規模案件では実質的な料率が跳ね上がることがあります。
「最低報酬額(ミニマムフィー)」に注意!小規模クリニックの落とし穴
多くの仲介会社では、「最低報酬額(ミニマムフィー)」を設定しています。相場は 1,000万円〜2,000万円 程度です。
これが小規模クリニックの譲渡において大きなハードルとなります。
例えば、譲渡価格が 5,000万円 のクリニックの場合、レーマン方式(5%)なら250万円ですが、最低報酬額が2,000万円の会社に依頼すると、手数料が 2,000万円 となり、手残りが大幅に減ってしまいます。
小規模案件の場合は、最低報酬額が低い、あるいは固定報酬制の会社を選ぶなどの工夫が必要です。

「完全成功報酬」vs「着手金あり」どちらが得か?
仲介会社の料金体系には大きく2つのパターンがあります。
- 完全成功報酬型: 成約するまで一切費用がかからない。
- 着手金・中間金あり: 契約時や基本合意時に費用が発生する。
一見、完全成功報酬型がお得に見えますが、着手金を取る会社は、その分事前の調査や資料作成に手厚いリソースを割いてくれる傾向があります。
また、着手金を支払うことで売り手側の「本気度」が買い手に伝わり、交渉がスムーズに進む側面もあります。
「とりあえず価格を知りたい」なら完全成功報酬、「確実に成約させたい」なら着手金ありの会社、という選び方も一つです。
3. 【シミュレーション】手数料・税金を引いた「最終手残り額」はいくら?
「いくらで売れるか」よりも重要なのは、「税金を払った後、いくら手元に残るか」です。
医療法人(病院)のタイプやスキームによって、手残りは大きく変わります。
パターンA:【持分あり】医療法人(病院)の出資持分譲渡の場合
平成19年3月以前に設立された「持分あり医療法人(病院)」の場合、出資持分を譲渡することで、譲渡益に対して 約20%(申告分離課税) の税金がかかります。
譲渡価格: 3億円
出資額: 1,000万円
仲介手数料: 1,500万円
譲渡益: 3億円 - 1,000万円 - 1,500万円 = 2億7,500万円
税金: 2億7,500万円 × 20.315% ≒ 5,586万円
手残り: 3億円 - 1,500万円 - 5,586万円 = 約2億2,914万円
このパターンが、税制上最も手残りが多くなりやすいケースです。
パターンB:【持分なし】医療法人(病院)の退職金スキームの場合
平成19年4月以降の「持分なし医療法人(病院)」の場合、法人そのものを売却しても、その代金は 法人に入り、理事長個人には入りません。
そのため、創業者利益を得るには 「役員退職金」 として受け取る必要があります。
法人に入る譲渡代金: 3億円
役員退職金: 2億円(功績倍率等により上限あり)
退職金への税金: 退職所得控除等が使えるため、通常の給与よりは安いが、金額が大きいと 最大約27%〜 程度の実効税率になることも。
持分なし法人の場合、M&A対価をどう個人に還流させるかの設計が非常に重要かつ複雑になります。
「持分あり・なし」の確認方法や、具体的な税務対策についてはこちらで詳しく解説しています
パターンC:個人クリニックの事業譲渡の場合
個人事業主としてクリニックを譲渡する場合、譲渡益は「事業譲渡所得」となり、他の所得と合算して 総合課税(最大約55%) されます。
譲渡益: 高額になればなるほど税率が上がり、半分以上税金で持っていかれることもあります。
この場合、手数料を引いた後の手残りが予想以上に少なくなるリスクがあるため、法人成りしてから譲渡するなどの対策を検討することもあります。
4. 医療法人(病院)のM&A手数料は「誰が」払う? 損金算入の可否

売り手と買い手の負担割合(両手取引と片手取引)
M&A仲介には、売り手と買い手の双方から手数料をもらう 「両手取引」 と、片方からのみもらう 「片手取引」 があります。
日本の多くの仲介会社は両手取引を採用しています。
一般的に、手数料率は双方同じ設定が多いですが、交渉次第で柔軟に対応してくれるケースもあります。
仲介手数料は経費(損金)にできる? 法人と個人の違い
- 法人の場合: 仲介手数料は、基本的に 損金(経費) として計上できます。これにより法人税の節税効果が見込めます。
- 個人の場合: 譲渡費用の実費(手数料など)は、譲渡所得から 必要経費として控除 できます。
ただし、成功報酬以外の着手金などが「交際費」や「寄付金」とみなされないよう、税理士による確認が必須です。
5. 安易な「手数料の安さ」で選ぶと失敗する! 医療M&Aの特殊性
「手数料が安い会社にお願いしたい」と思うのは当然ですが、医療M&Aにおいては、安易な業者選びが命取りになることがあります。

◇条件だけで売却◇ 「条件だけで売却」してスタッフが総退職した失敗事例
あるショッピングモール内のクリニックの事例です。
理事長が高値を提示した、医療に詳しくない一般事業会社への売却を決めました。仲介会社も医療専門ではありませんでした。
結果、新しいオーナーから現場無視の利益至上主義的な指示が飛び交い、反発した看護師やスタッフが 総退職。クリニックは運営不能となり、地域での評判もガタ落ちしてしまいました。
手数料や譲渡価格の「数字」だけを見て、「人」を見ていなかった典型的な失敗例です。
医療法人(病院)は「株式会社」とは違う! 制度特有の難所と専門家の役割
医療法人(病院)は営利企業ではなく、地域医療を守るための「公的な存在」としての側面が強いです。
そのため、M&Aにおいても 「行政の認可」 という高いハードルがあります。
また、理事長は「医師」であり「経営のプロ」ではないケースも多く、決算書(BS)上の数字と実態が乖離していること(減価償却不足や未払い残業代など)も珍しくありません。
こうした医療特有の事情を理解し、清濁併せ呑んで調整できる専門家でないと、案件は簡単に破談します。
信頼できる仲介会社を見極める3つの質問

仲介会社選びで迷ったら、担当者に以下の3つを質問してみてください。
- 「過去に担当した医療法人(病院)のM&Aで、行政手続きで苦労した事例はありますか?」:具体的なエピソードが出てこない場合、医療M&Aの実績が乏しい可能性があります。
- 「持分なし医療法人(病院)の場合、私の手元に資金を残す具体的なスキームを説明できますか?」:退職金やMS法人の活用など、即座に回答できない場合は知識不足です。
- 「成約後のPMI(統合プロセス)で、スタッフ離職を防ぐためにどんなサポートをしてくれますか?」:マッチングだけでなく、その後の統合まで見据えているかを確認します。
6. 【まとめ】医療法人(病院)M&Aは手数料の安さより「完遂力」でパートナーを選ぼう
医療法人(病院)のM&Aは、一般的な企業のM&A以上に「人(スタッフ・患者)」と「制度(行政・法律)」が複雑に絡み合います。
仲介手数料は決して安い金額ではありませんが、それはトラブルなく承継を完了させ、地域医療を存続させるための「安心料」でもあります。
目先の手数料の多寡だけでなく、あなたのクリニックの価値を正しく理解し、最後まで並走してくれる「完遂力」のあるパートナーを選んでください。
知識を得るだけでは、未来は変わりません。激変する環境下で、貴社の選択肢が狭まってしまう前に『攻めの出口戦略』を。
独自のノウハウを凝縮した出口戦略診断ツールをダウンロードし、その上で、プロの目利きで『自社の真価』を直接確かめる。
経営者としての集大成を、最も価値ある形で次へ繋ぐ準備は、今、ここから始まります。
【主導権を握れるうちに、一度プロの視点で「最良の出口」を可視化しませんか?】

医療法人M&Aの仲介手数料についてよくあるご質問
Q: 医療法人(病院)のM&A仲介手数料の相場はいくらですか?
A: 一般的には「レーマン方式」が採用され、譲渡価格の1%〜5%程度です。ただし、多くの仲介会社で1,000万円〜2,000万円程度の「最低報酬額」が設定されているため、小規模案件では注意が必要です。
Q: 医療法人(病院)のM&A手数料は経費(損金)にできますか?
A: はい、法人が支払う仲介手数料は基本的に損金算入が可能です。ただし、成功報酬以外の着手金などは税務上の取り扱いが異なる場合があるため、税理士への確認をお勧めします。
Q: 持分なし医療法人(病院)の場合、M&Aで売却益は得られますか?
A: 持分なし医療法人(病院)の場合、譲渡対価は法人に入り、理事長個人には入りません。そのため、一般的には「役員退職金」として対価を受け取るスキームが用いられます。
Q: M&A仲介手数料以外にかかる費用はありますか?
A: 買収監査(デューデリジェンス)費用、登記費用、行政書士費用、役員退職金の原資などがかかります。これらは仲介手数料とは別枠の実費となることが一般的です。
Q: 赤字の医療法人(病院)でもM&Aの手数料はかかりますか?
A: はい、かかります。赤字であっても、純資産や将来性(営業権)を加味して譲渡価格が決まり、その価格に基づいて手数料が算出されます。最低報酬額が設定されている場合、赤字でもその額は発生します。