基礎知識

M&Aの進め方【5】(実施スキームの検討その2~会社分割~)

前回のコラムでは、取引行為と組織再編行為を中心に触れましたが、今回は会社分割について触れてみます。

会社分割について

事業譲渡は「取引法上の行為」となる事から譲渡取引に伴う消費税が発生します。他方、会社分割は「組織法上の行為」となる事から組織再編の延長線上にM&Aがあるイメージとなります。会社分割を活用したM&Aも、事業譲渡同様に金銭の支払が一般的となりますが、「取引行為か?再編行為か?」の違いにより、消費税や不動産取得税などの扱いに違いが出る点を留意する必要があります。

さらに、消費税取引外の会社分割を選択した場合も、会社分割の進め方(スキーム)次第で、不動産取得税の扱いに違い出ます。特に、不動産の上で特定事業をおこなう「オペレーションアセットビジネス(賃貸マンション・ホテル・総合病院・葬儀場・パチンコ・温浴施設等)の場合、不動産所有権の移転に伴う不動産取得税が数千万を超えるケースも多く、不動産の承継次第で、分割スキーム(新設分割・吸収分割)を検討する必要があります。

今回は、「不動産移転があるM&A」と「不動産移転がないM&A」をもとに、分割スキーム(新設分割・吸収分割)について触れてみます。

不動産移転の有無における分割スキームについて

税務当局からの、会社分割に係る不動産取得税非課税に関する通知を引用します ↓

「会社分割に係る不動産取得税の非課税措置」
(地方税法第73条の7第2号後段及び地方税法施行令第37条の14)
1.以下のいずれかの分割において、それぞれの条件を満たすこと(吸収分割、新設分割を問わない)

<分割型分割>
① 分割対価資産として、分割承継法人の株式以外の資産が交付されないこと
② 当該株式が分割法人の株主等の有する当該分割法人の株式の数の割合に応じて交付されるもの
<分社型分割>
①分割対価資産として、分割承継法人の株式以外の資産が交付されないこと

2.以下の項目に全て該当すること
① 当該分割により分割事業にかかる主要な資産及び負債が分割承継法人に移転していること
② 当該分割に係る分割事業が分割承継法人において当該分割後に引き続き営まれることが見込まれていること
③ 当該分割の直前の分割事業に係る従業者のうち、その総数のおおむね 100 分の 80 以上に相当する数の者が当該分割後に分割承継法人に従事することが見込まれていること

要約すると、不動産取得税が非課税となる要件は以下となります。

  • 分割対価は株式交付以外認めない。
  • 事業に係る主要な資産負債が引き継がれ、事業継続を前提とする。
  • 80%相当の従業員の引継ぎが見込まれている。

最も重要なのは上記1の株式以外認めないという点ですが、他方、金銭の支払いが一般的である事から、不動産取得税で考えた場合のスキームは吸収分割ではなく新設分割が適しているとなります(新設会社株式を分割会社が取得し、分割会社が第三者へ新設会社株式を譲渡)。

また、上記3の「従業員80%相当の承継」については、従業員に「パートアルバイトを含む」事になります点を補足させて頂きます。対象事業の資産負債に加え各種契約や許認可を包括的に移転させる会社分割は、M&Aで一般的に採用されるスキームとなりますが、不動産移転の有無の場合について整理をしました。参考になれば幸いです。

M&Aの進め方【6】はこちらから

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光田卓司

(株)船井総研あがたFAS 取締役

2008年株式会社船井総合研究所(現株式会社船井総研ホールディングス)に入社。入社後は専門サービス業の経営コンサルティングに従事し、2019年より専門サービス支援部部長に就任。併せて、多数のM&A支援に従事。2022年同社M&A支援部部長に就任、同社M&A部門の成長を牽引した。2025年1月、株式会社船井総研あがたFASの取締役に就任。

光田卓司

(株)船井総研あがたFAS 取締役

2008年株式会社船井総合研究所(現株式会社船井総研ホールディングス)に入社。入社後は専門サービス業の経営コンサルティングに従事し、2019年より専門サービス支援部部長に就任。併せて、多数のM&A支援に従事。2022年同社M&A支援部部長に就任、同社M&A部門の成長を牽引した。2025年1月、株式会社船井総研あがたFASの取締役に就任。