■店舗M&Aとは
皆さんこんにちは。船井総合研究所、M&A成長戦略グループの山本(やまもと)です。
店舗M&Aにおける2024年までのM&A動向の振り返りについてお伝えさせていただく前に、そもそも店舗M&Aとは一体何なのか?について触れていきたいと思います。
すでに店舗M&Aをご検討中の売り主様、もしくは店舗M&Aで成長されている買い主様や、経験が既におありの方におかれましては「■店舗M&Aの2024年まで市場動向」から読み進めていただけますと幸いです。
それではお話させていただきます!
店舗M&Aには大きく2つの種類があります。
①店舗事業譲渡:その名の通り、営業中の店舗事業を譲渡するスキームです。事業譲渡として、譲渡対象となるものは、従業員や取引先、ノウハウや店舗資産、賃貸借権や不動産、商標権や屋号、公式ホームページやリース契約、取引基本契約など、案件によって引継対象は様々ですが、事業に関わる資産や契約等をまとめて買手企業に引継ぎし、買手企業がそのまま営業を引き継ぐパターンが多いスキームです。
②店舗造作資産譲渡:主に居抜き物件と呼ばれるものが本スキームに該当します。譲渡対象は限定的であり、店舗資産と賃貸借権などの不動産契約を中心に、案件に応じて設定していくケースが多いです。引継ぎ項目が少ない為、売主の負担も少なく、現状有姿で引き渡すことも多く、簿外負債も少ないので売主も買主も、最もリスクが少ないスキームとして活用されているスキームです。
事業用の定期建物賃貸借契約などは通常数百万円から数千万円の原状回復義務や違約金などが発生するケースが多く、単純閉店してしまうと店舗経営者様は大きな損失に繋がってしまいます。売主様にとって、店舗M&Aのメリットとしてはなんといっても、賃貸借契約に伴う原状回復義務の免除と、日々の営業赤字を止められることにあります。店舗M&Aで譲渡金を頂いて戦略的な撤退を行うことと、原状回復を行って賃貸借契約に伴う違約金を支払って店舗閉鎖するのとでは大きな違いがあり、経営者様の人生を大きく左右しかねません。
一方、店舗M&Aは買い手側にも大きなメリットがあります。設備機器などをそのまま使用することができるため初期コストが大きく抑えられ、開業までの時間を大幅に短縮することが可能です。特に飲食店では高価な調理設備や排気ダクト工事や厨房工事などが費用の多くを占めますが、これらの設備機器がそのまま使用できる状態であれば、大幅な初期費用削減となります。つまり、初期コストを抑えた上で時間を買うことが出来るのです。店舗M&Aは売り手にとっても買い手にとっても事業戦略上、非常に有効的な手段とご認識いただければ幸いです。
ご参考までに店舗M&Aにおいて、ほとんどの業種で採用される譲渡金額算出例をご紹介させていただきます。
・黒字店舗
①年倍法:固定資産額(簿価)+営業利益年2~4年
②EV/EBITDA法:EBITDA2年~4年
・赤字店舗
①無償譲渡or1円譲渡(備忘価格)
②固定資産額(簿価)
③アドバイザリー手数料同等額
今後、事業における業績の回復が見込まれるのであればそのまま続けることも検討可能ですが、黒字転換する可能性が低いとお考えであれば、1度企業価値及び事業価値診断を行うことをお勧めします。また、今は少しの赤字であっても数年後にはより赤字幅が大きくなったり、撤退費用が捻出出来ずに、会社全体を揺るがす事態にもなりかねません。そういった将来のお話や事例等についても株式会社船井総合研究所であれば、過去の事例等を含め、M&A専門コンサルタントが初回相談無料で丁寧にお話しさせていただきます。
■店舗M&Aの2024年まで市場動向
令和3年11月12日、新型コロナウイルス感染症対策本部において、今後は、感染拡大を防止しながら、日常生活や経済社会活動を継続できるよう行動制限の緩和の取組を進めていくという方針が決定されました。新型コロナウイルスによる行動規制緩和により飲食店の来店者数、売上も回復基調にあります。一方、小規模飲食店はコロナ渦においては給付金・補助金・助成金の効果があったものの、これらが今はほぼ無くなっており、業績好調な店舗と不採算店舗の2極化が進んでおります。積極的な事業拡大のための買収ニーズと戦略的な撤退のための売却ニーズがマッチし、2024年までにおいても幅広く店舗M&Aが行われました。
また、比較的少額(1000万円未満)のスモールM&Aも引き続き増加傾向となっております。独立を考えた際、初期コストを抑えるために店舗M&Aを活用される経営者様が時代の流れとともに増えてきております。
その他にも、近年はM&Aの目的として下記パターンが顕著に増加しております。
パターン① 同業・類似会社間のM&A(シェアアップ・共に成長)
パターン② 新規事業付加のM&A(新事業展開・クロスセル)
パターン③ 外食・中食企業、ドラッグ・小売スーパーによるM&A(業界知見を活かした販売先)
パターン④ 投資ファンドによるM&A(価値を高めて資産運用・利益追求)
従来パターン①の同業M&Aがほとんどでしたが、昨今はパターン②や③の異業種M&Aのパターンが増えています。また、これまで少なかった④のパターンが2022年以降増加しています。特に異業種M&Aのパターンは③の周辺業種である小売スーパー、外食企業の動きが活発で、多くの企業で買いニーズが拡大しています。
■今後成約件数増加が見込まれる業種3選
今後想定されるM&Aニーズとして、下記3つ挙げさせていただきます。
①インバウンド向け店舗、②葬儀社、③カーディーラーを中心に更なる店舗 M&A の活発化を見込んでおります。
今回はその理由について深堀していきたいと思います。
① インバウンド向け店舗
観光地周辺の飲食店、観光旅館、リゾートホテル、薬局を中心に成約件数の増加が期待されています。
新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけについて、政府は 2023 年 5 月 8 日に、季節性インフルエンザなどと同じ「5 類」に移行する方針です。それに先駆け、国内旅行客数等も回復基調にあり、ビジネスホテル・観光ホテルともにエリア差はあるもののコロナ前の水準まで宿泊費の値上げ(値下げの縮小)が出来ている宿泊施設も多くみられます。旅行支援の適用がいつまで続くのか?終了後の動向について注視していくことが必要ですが、全体としては良い傾向にあると思われます。また、債務超過に陥り、事業再生案件となっている宿泊施設についても今後金融機関が債権カットを受け入れる局面が来れば、企業体力のあるストロングバイヤーによる M&A 成立も増えてくるのではないかと思われます。
・訪日外国人旅行者数の回復
2019 年には 2008 万人まで訪日外国人旅行者数が伸びておりましたが、コロナ渦において 2021 年には 51 万人まで縮小しておりました。2022 年から383万人と回復基調にあり、2023 年 には2,500万人に達しており、コロナ前の訪日外国人旅行者数を超えております。
(出典:日本政府観光局)
・建築資材高騰による居抜き物件の需要増
世界的な物価上昇、円安による輸入コスト増によって建築資材が高騰しております。
飲食店においては居抜き物件需要が以前よりありましたが、最近ではホテル業界において
も居抜き物件需要が高まっております。私自身、特に注力してホテル業界のストロングバイ
ヤー様と直接のご面談機会をいただいておりますが、そのように方向転換されていらっし
ゃる企業様が非常に増えてきていると感じております。
・薬局
海外からの日本の市販薬に対するニーズは非常に強いため、訪日外国人旅行者数の回復に
よって業績の回復、成長が見込まれております。
また、今までに何度も報酬改定が行われてきましたが、今後経営にとってマイナスとなる報
酬改定が行われてしまうと、株価を算定する際に重要な指標となる EBITDA(修正後営業利
益)の低下が懸念されます。60 歳になったら引退しよう、70 歳まで頑張りたいと思ってい
てもその時に現状の株価と同じように売却できるとは限りません。そういった慢性的な懸
念と売却ニーズ、業績回復の相乗効果によって今売却したいと思われる経営者も増えてく
ると考えております。
② 葬儀社
コロナ渦においては感染予防として『3 密』を避けるため、火葬のみの葬儀や家族葬が増加
し、一件当たりの葬儀費の低下現象が起こっていました。
今後は行動制限の緩和によって、従来通り生前お付き合いのあった方を招待しての葬儀件
数回復、それに伴う葬儀一件当たりの単価の上昇が見込まれています。
また、葬儀業界においても人材不足が深刻であり、後継者不在による M&A ニーズは継続
的に存在します。葬儀業界においては同業同士の M&A が多く、M&A の目的としては運
営の効率化やサービスの質の向上が挙げられます。
葬儀会社の経営者様から弊社にご相談いただく件数も年々伸びている状況でございまして、
大規模な再編が今後も継続的に行われていくものと見おります。
③ カーディーラー
地方を中心にカーディーラーにおいても再編が行われております。
売主様としては、後継者不在や人口減少を懸念しての譲渡のご相談を数多くいただいてお
ります。また、最近の話題としては、半導体の供給不足による納車の遅れについても懸念さ
れておられる経営者様がいらっしゃいます。
一方で買い手側のメリットとしては、強固な顧客基盤による安定的な経営(残存者メリット
の享受)、自社製品やサービスのクロスセルによるシナジーの創出等が挙げられます。
また、整備工場の買収ニーズを多くいただいております。理由としては、資格保有者につい
ては特に採用難であり、資格保有者(且つ実務経験者)を確保したいという点が挙げられま
す。
■店舗M&Aの2024年までピックアップ事例
具体的な事例として、弊社がご支援させて頂いた店舗M&Aの事例を7つご紹介します。
① 2023年1月にH社が運営する九州エリアの大衆食堂を、全国でラーメンフランチャイズ本部事業を運営するT社に200万円で造作資産譲渡。
②2023年3月にS社が運営する四国エリアの無人餃子店舗事業を同業の無人餃子店舗事業を行うN社へ500万円で事業譲渡。
③ 2023年6月に上場会社の子会社である関西エリアの飲食フランチャイズ本部事業のD社を、全国でラーメン事業を運営するT社へ株式譲渡。(株価非公開)
④ 2023年8月に東海エリアで葬儀業を運営するM社から、同東海エリアで葬儀業を運営するM社へ2店舗の葬儀会館を1.5億円で事業譲渡。
⑤ 2023年8月に東北エリアでS社が運営する老舗うどん店を、同エリアでラーメンフランチャイズ店を複数運営するU社へ1,500万円で事業譲渡。
⑥ 2024年1月に関東エリアで調剤薬局店を運営するI社から、同エリアで調剤薬局店を運営するA社へ500万円で株式譲渡。
⑦ 2024年6月に関東エリアでプログラミング学習塾を複数運営するA社から、東海エリアでスポーツ事業を運営するU社へ株式譲渡。(株価非公開)
以上の様に、2024年までは飲食業に限らず、薬局や学習塾、葬儀会館など、幅広く店舗M&Aが行われました。コロナの制限が解かれた今、積極的な事業買収は今後も拡大基調であり、他業種からの新規参入も引き続き多くみられると思われます。
■おわりに
冒頭お伝えさせていただきましたとおり、店舗M&Aによる譲渡・譲受は事業戦略において非常に有効な方法ではありますが、多くのM&Aアドバイザーは店舗M&Aに慣れていないということがいえます。店舗M&Aにおける知識が乏しいアドバイザーであっても、初回面談では専門用語を交えながらお話をさせていただくため、序盤では判断しづらく時間の経過とともに知識・ノウハウの不足が判ることも少なくありません。知見の乏しいアドバイザーが対応した場合、正確性にかける譲渡資産の価値算出を行い、成約確率が下がってしまうことや、買い手候補先に誤った情報をお伝えし、後々のトラブルとなる可能性もあります。
故に、M&Aアドバイザーと店舗M&Aのアドバイザーは異なる点にご注意下さい。その点、弊社には店舗M&Aに精通したアドバイザーが在籍しております。
閉店・廃業をする前に、戦略的撤退をお考えいただき船井総研のM&Aコンサルタントに是非ご相談ください。初回のご相談は無料です。お電話やオンライン面談でのご相談が可能です。ご相談される中で、出口戦略を極めることが、店舗経営にとって非常に大切だということを分かって頂けると思います。
ご相談頂いた際には、弊社の専門コンサルタントが誠心誠意、最善の対応をさせていただきます。
株式会社船井総合研究所 M&A成長戦略グループ
マネージャー 山本 瑛(やまもと あきら)