株式会社船井総合研究所の吉川です。賃貸管理業を経営されているオーナー経営者向けの記事です。今回は、昨今の賃貸管理業界においてのM&A事例についてお届けします。そこから賃貸管理業界における、買い手・売り手の特徴について整理します。
活発化しニーズが高まっている賃貸管理業界において、その実際のM&A事例では、背景はどうなっていて、M&Aを実践する企業はどのような戦略を描き、実践しているのか、そのヒントを見つける機会になれば幸いです。
賃貸管理業界におけるM&A事例
・不動産賃貸管理業→不動産賃貸管理業
不動産賃貸管理業を中心に営む、クラスコ(石川県金沢市)は、同業であるルームリサーチ(埼玉県川越市)と資本業務提携をしました。クラスコは金沢市に本社を置き、不動産賃貸管理業を中心に、不動産仲介(賃貸・売買)、その他同業種の企業に対して、リノベーションFCの展開や、企業ブランディングに注力したデザイン経営を行っている会社です。ここ数年でフロンティアホーム(埼玉県所沢市)、コニシホーム(埼玉県さいたま市)をグループに迎えており、首都圏内の事業拡大を積極的に進めています。ルームリサーチは、川越市を中心に賃貸管理仲介業を営んでいましたが、今後はグループ各社と連携を取り、川越エリアのお客様へよりスピーディに、より充実したサービスの提供が可能となります。
・不動産賃貸管理業→分譲マンション業・賃貸業・管理業
北海道にて分譲マンション事業、賃貸事業、管理事業等、不動産業を展開する株式会社日動(北海道札幌市)が、株式会社シティビルサービス札幌(北海道札幌市)の全株式を取得しました。シティビルサービス札幌は、設立以降、賃貸管理業を中心にビルやマンションの所有や、賃貸仲介店舗(ピタットハウス)を札幌市内にて4店舗展開している不動産会社です。
特に賃貸管理業においては、札幌市内を中心に、約5,000戸を管理しており、日動グループに入ることで大きなシナジーを生み出すことになるでしょう。
・不動産管理業→ソフトウエア開発・システム開発業
事業用ビル管理・保有・売買等を手掛けるライジングトラストグループにおいて、賃貸仲介業を展開するトラスト賃貸管理(東京都新宿区)は、東京都で不動産売買・買取、賃貸・管理仲介業を展開するSpace-R(東京都中野区)の全株式を取得しました。東京都新宿区から中野区における賃貸仲介・管理業の事業拡大を狙ったものとみられます。
賃貸管理業界における売り手企業の特徴
賃貸管理業界のM&Aで実行される理由として、圧倒的に多いのが後継者問題です。順調に経営を続け、管理戸数は安定しているものの、次の適材の承継者がいない場合、業績・財務状況が良く企業価値のあるうちに希望する買い手企業へ株を売却し、第二の人生設計を立てるというものです。
その後、売り主の希望やM&A過程での交渉等により、役員(経営者)を引退するのか、継続するのかによって譲渡後の人生設計が大きく異なります。賃貸管理業のM&Aにおいて最も重要視されるのが管理戸数であるため、M&A前後に減少しないか、物件オーナーが離れていかないかも併せて検討する必要があります。
まず、M&Aをした後に役員(経営者)を引退するパターンですが、体力的・精神的に引退を考える高齢の売り主の方に多く見られます。昨今は法規制への対応に疲れる売り手も多くみられます。高齢の売り手だけでなく、一部若い売り主であっても、M&A後に別事業を行うことを希望する方等はご引退されることもあります。
自身が引退を選択された場合、引退後の会社の経営についてはM&A交渉の過程で買い手とよく調整・相談しておくことが重要です。前述したように、そもそもM&Aを選択されるに至った理由として後継者問題が多いのは、親族・従業員に適任な後継者がいないことがその背景にあると考えと、現経営者が引退することによって、会社は事業を回せなくなり、業績が著しく悪化する可能性が高いといえます。特に賃貸管理業においては、物件オーナーとの関係性が業績・管理戸数に直接的に関係するため、オーナー対応を担っていた現経営者の引退は会社へ多大な影響を与えることになるでしょう。
管理戸数の減少、物件オーナーの離脱を最も防がなければならない賃貸管理業M&Aにおいて、かなりの痛手となってしまうでしょう。また、買い手としてもM&A後に経営者人材を派遣しなければならないため、人材不足が嘆かれる昨今においては投資決定の過程でマイナスに働いてしまう可能性も考えられます。現経営者が担当していた物件オーナーとの引継ぎも苦労することになります。
もちろん、上記のような会社であっても積極的に買収を検討する譲り受け側企業もございます。そういった会社は、管理戸数を増加・維持するための仕組みづくりや物件オーナーとの関係性強化、管理メニュー等に強みを持ち、グループに入れることで業績改善・事業拡大ができる自信があるからだといえます。
現経営者が引退する場合、スムーズにM&Aを実施するためには、前述した現経営者担当の物件オーナーとの引継ぎが重要なポイントになります。何度も述べているように、管理戸数・物件オーナー数は賃貸管理業において土台となる重要な指標となります。現状の管理物件・物件オーナーを減らすことなくM&Aを完了することが最大の目的となるため、現経営者は、M&A直後にオーナーへ説明し、理解を得なければなりません。
仮に物件オーナーの理解が得られない場合、管理離れの機会となってしまい、最悪の場合はM&A対価の減額となってしまう可能性もあります。引継ぎには売り手・買い手共が最大限協力し合い、管理離れが起きないよう進めていくことがスムーズなM&Aのポイントといえるでしょう。
船井総合研究所では賃貸管理会社へのコンサルティング経験の経験より、M&Aご検討の段階からM&A後の引継ぎ、その後の支援等幅広く提案させていただきます。一度ご相談されてみてはいかがでしょうか。
次にご紹介するM&A後も経営者として継続するパターンは、40代~50代の経営者が選択されることが多くみられます。賃貸管理業としてある程度事業拡大・管理戸数維持をしてきたものの、自社のみでの成長に限界・頭打ちを感じている経営者が、さらなる事業発展のために中堅・大手のグループに属し、自身も雇われ経営者として、次なるステップへ向かうというパターン(成長戦略型M&A)です。
売り主のメリットはいくつかありますが、①個人保証が外れたうえで経営できること、②中堅・大手グループの資本、ノウハウを活用できること、の2点が大きいメリットといえます。中小企業の経営者にとって借入の個人保証は大きなストレスとなり、最悪の場合には破産まで追い込まれることもあります。M&Aでは個人保証を外し、譲り受け側が保証をする、といったケースが見られますが、経営者を継続する場合でもそれは変わりません。つまり、経営者は個人保証のストレスから解放されながら、経営ができることになり、大きなメリットとなります。
また、M&A前では投資・運用できなかった規模の仕事ができるようになることも事業規模拡大志向の強い売り主にとってはメリットとなります。中堅・大手グループに入れば会社の信用により、これまでは手の出なかった借り入れが可能となる可能性が高いためです。雇われ経営者として、個人保証を外しつつ、より大きな事業を展開するというのは、中小企業の経営者にとってこの上ないメリットであるといえるでしょう。
さらに、中堅・大手グループの傘下に入ることで得られるものは資金面だけではなく、DXによる生産性側面や、採用・教育、給与体系等の人事的側面等、一中小企業では対応が難しい課題に対しても中堅・大手グループのノウハウを活用することができます。実際にM&Aした後に売り手側企業の従業員の意識が変わったと耳にすることもありますし、生産性向上によりM&A後に営業利益が数倍になったケースもございます。
一方でどのような相手先に譲渡するか、は注意しなければなりません。現経営者も継続して勤務する以上、ある程度自社のやり方・風土等も継続したいと考えるのが一般的ではありますが、相手先によってはいわゆる上から目線で統合する会社もあり、それまで積み重ねてきたものが一気に壊されること可能性も完全には否定できません。
もちろんマイナスなことだけではなく、古い風習や考え方等一新すべきものもあろうかと思われますが、現経営者・従業員の意向に背いた施策ばかりでは、M&A後の成長は難しいと言わざるを得ません。そうならないよう、M&A時には相手先の考え方や統合の進め方、介入度合い等、よくよく確認しておく必要があります。
両者が「こんなはずではなかった」となってしまうのは、最も避けなければなりません。また現経営者は、相手方にもよりますが、雇われ経営者として業績にコミットした評価がなされることはある程度認識しておいた方がよいでしょう。
最後に、第二の人生設計を考える間もなくM&Aをされる経営者の方もいらっしゃいます。体調不良等の身体的要因から引退をせざるを得ない方や、資金繰りが難航し、自社だけでは業績回復ができないと判断される方は、人生設計をする間もなくM&Aを選択せざるを得なくなります。こういったケースはよく見られますが、急いでM&Aを進めるのは得策とはいえませんし、相手方との交渉においても劣勢に立ってしまう可能性も高くなってしまいます。
そうならないよう、今すぐに売却を検討していない場合であっても、会社の業績が良いうちに、経営者が健康であるうちに、賃貸管理業においては管理物件が維持されているうちに、一度M&Aを踏まえた人生設計を検討しておくことが重要です。事業承継問題はいずれ必ず発生します。親族内承継をするのか、従業員に承継するのか、又は第三者へ承継するのか、いざという時のため、前もって関係者と話しておくことをご検討いただければと思います。
船井総合研究所では無料の経営相談・企業価値評価を行っております。長年のコンサルティング経験を活かし、業界ならではの視点を踏まえて、売り主の意向にそったご提案をさせていただきます。一度ご相談されてみてはいかがでしょうか。
賃貸管理業界における買い手企業の特徴
・対象会社と同業種の買い手
賃貸管理業を営む企業にとって、さらなる商圏・シェア拡大を狙うため、賃貸管理会社を買収するM&Aはよく見られます。前述したように賃貸管理業においては、管理戸数・物件オーナー数が事業の土台となるため、グループ全体での管理戸数・物件オーナー数の増加を狙ったM&Aとなります。また、賃貸管理業と併せて展開することが多い賃貸仲介業についても、店舗数増加・商圏拡大等といったメリットがあります。
M&Aでは自社で出店するのと比べてどうか、を検討することが一般的ですが、賃貸管理業においても同様に、自社で対象会社の商圏において管理戸数を獲得できるか、物件オーナーに営業できるかと比較すると、M&Aが得策となることが多いといえます。
・対象会社と異業種の買い手
賃貸管理業はストック型であるため、管理戸数がある限り安定して収益を見込むことができます。そのため、関連業種企業がストック収入を求めて賃貸管理業をグループに入れるケースが増加してきています。グループ全体のポートフォリオを見据えたうえでのM&Aとなるため、ストック収入以外にもグループシナジーが見込まれる場合には、積極的な投資が見られます。賃貸管理業を筆頭にストック型の事業はM&A業界において人気な業種であるといえるでしょう。
船井総合研究所では、業界に特化した長年のコンサルティング経験から、賃貸管理業の会社を譲渡・譲受したい方へ人生設計・ポートフォリオを踏まえたご提案をさせていただきます。 一度ご相談されてみてはいかがでしょうか。