レポート

M&Aにおけるアーンアウト条項の事例とメリット・デメリットを解説

アーンアウト条項とは

アーンアウト(Earn out)条項とは、M&A取引が成立・終了した後の予め合意した期間内において、買収された事業が予め合意した目標を達成した際に予め合意した算出方法に基づき買い手企業が売り手企業に買収対価の一部を支払うことを定めた規定です。基本的にM&Aの取引では買収対価の一括支払いがなされますが、売り手企業と買い手企業間での希望譲渡対価が不一致である場合にアーンアウト条項が検討される場合が多いです。一般的にアーンアウト条項発動の条件となる指標として「純利益・売上高、営業利益、EBITDA、営業キャッシュフロー」などが設定されます。アーンアウト条項を用いることによって、売り手企業と買い手企業の将来への考え方の相違や価値観の違いからくる両社の希望譲渡対価の差異を解消することができます

買収におけるアーンアウト条項の実際の事例

マネックスグループによるコインチェック社の買収

2018年にマネックスグループがコインチェック社を買収しました。買収金額は36億円ですが、コインチェックが仮想通貨の流出が起きた仮想通貨取引業者であることから、今後の業績予想が難しいため、両社合意の元でアーンアウト条項が定められました。

DeNA社によるngmoco社の買収

2010年にDeNA社は連結子会社を通じてngmoco社を買収しました。両社はモバイルゲームを主軸事業としていました。ngmoco社の買収に当たって、nagmoco社が設立2年目のベンチャー企業であり、将来の業績予測が難しいことから両者合意の元でアーンアウト条項が設定されました。

アーンアウト条項のメリット

M&Aにおいてアーンアウト条項は売り手・買い手の片方にメリットがある規定ではなく、両者にとってメリットを見い出せるソリューションの1つです。

売り手側

売り手側としては、成長段階にあるベンチャー企業のM&A取引など本来白紙になる可能性のある取引であっても、アーンアウト条項を取引に設けることによって、取引不成立を回避することができます。M&A取引においては、売り手側としても買い手側としても、現在の価値に加えて将来的な価値を基準に売買希望価格を設定します。しかし、特に買い手側がその事業に関する知見が薄い場合は、その価値が売り手側よりも低く見積もられ、売買希望価格が不一致となる場合があります。アーンアウト条項を設けることによって両者の想定する将来的な価値が不一致となっても、条件の達成状況に応じて対価を支払うこと・受け取ることが可能です。

買い手側

将来の見立てを立てることが難しい事業のM&A取引において、アーンアウト条項が設定されていない取引を実施した場合は、回収できるか不安である買収対価で取引を行う必要がありますが、アーンアウト条項が設定されている場合は目標の達成度合いに応じて残額の支払いを行うため、売買時に発生しうる、将来価値の不確実性に起因する大きなリスクを回避できます

アーンアウト条項のデメリット

アーンアウト条項は将来的なリスクを軽減するための規定ではありますが、アーンアウト条項そのものにもリスクを孕んでいます。売り手・買い手共にリスクを見極めることが大切です

売り手側

売り手側が抱えるリスクとして、条件の達成度合いによって得られる資金額が大きく変動するということが挙げられます。アーンアウト条項を設けていない通常M&A取引においては、取引の成立時に資金を得られますが、アーンアウト条項を設けた場合は一定期間経過後に追加資金を得ることができるため、場合によっては獲得を望んでいた売買価格の一部しか得られないこともあります。

買い手側

一般的にアーンアウト条項は将来予測が難しい事業のM&A取引にて、設定されることが多い条項です。そのため、買おうとしている事業そのものが不確実性を孕んでいるとも言えます。アーンアウト条項を用いることで、取引成立後の一定のリスクは回避できますが、取引で最初に支払った金額に関しては、損失のリスクを抱えています。

アーンアウト条項の注意点

アーンアウト条項の条件設定において、最も用いられる指標が財務指標です。つまり財務指標を操作することによってアーンアウトの支払額を低減される可能性があります。売り手・買い手間での将来的なトラブルを回避するためにはアーンアウト条項の設定に関して予め慎重な合意形成を行い、M&Aの最終契約書などに記載する必要があります。但し、アーンアウト条項に関する合意形成は長期間に及ぶ可能性があります。

まとめ

M&A取引において、売り手若しくは買い手が将来的な不確実要素によって取引が難航している場合、アーンアウト条項を設定することによって、将来的なリスクを分散することが可能です。アーンアウト条項では売り手・買い手の片方のみにメリットがあるのではなく、両者がメリットを享受できます。その反面、両者間での認識の違いによって両者にとって損失を生み出すトラブルが発生する場合もあります。そのため、アーンアウト条項を設定する際は両者がアーンアウト条項についての理解を深め、慎重に合意を形成していくことが大切です

株式会社船井総研あがたFAS

船井総研あがたFASでは、50年以上にわたる業種別コンサルティングの経験を活かした、M&A 成立後の業績向上・企業の発展にコミットする事業承継・M&A支援を目指しております。業種専門の経営コンサルタントと事業承継・M&A専門のコンサルタントがタッグを組み、最適な成長戦略・出口戦略を描きます。