整骨院業界M&A:2024年のM&A動向と今後の展望とポイント

整骨院業界M&A:人材不足・人材獲得競争の激化

まずは、こちらの表をご覧ください。こちらは年間の柔整師の合格者数をグラフにしたものです。第20回国家試験(2020年度)では約5,000人であった合格者数ですが、第32回国家試験(2023年度)では3,300人程度と減少しております。


※公益財団法人 柔道整復研修試験財団HPより

また、施設数は2012年から2022年にかけて概ね増加傾向(42,431施設→50,919施設)となっております。

整骨院業界の施術所数推移


※厚生労働省 令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況より

高齢化の進展や、健康意識の高まりを背景に整骨院業界の施設数は増加しているが、柔整師の数は減少傾向にあり、柔整師の獲得競争が進んでいる状況となっております。整骨院は柔整師の存在が事業を左右する、いわば労働集約型のビジネスとなりますので今後しばらくは人材獲得競争が続くと推測されます。

なお、現在は業界問わず働き方改革が浸透しつつあります。整骨院業界も例外でなく待遇や労務環境が問われる時代です。適切な賃金UPと労働時間の管理が求められます。こうした働き方改革に対応できる企業が生き残りの資質を備えていると言えます。

整骨院業界は小規模事業者数の占める割合が多いといえますが、こうした業界構造の場合、いずれは事業環境が厳しくなると競争力のある大手チェーン店に人材や資金などの経営資源が集約していきます。その一つとして、M&Aによる業界再編があげられます。

整骨院業界のライフサイクル

会社にも成長期著しい時期や安定している時期があるように、業界ごとにも成長期や安定期があります。これを業界業種の「ライフサイクル」と呼びます。


上記の図の左端は「導入期」と呼ばれ、新しい業界業種が該当します。スタートアップ界隈のように、一般的に事業規模は小さいものの、需要が多数あり、今後の成長性が期待される業界というとイメージしやすいかと存じます。導入期の業界が育つと、「成長期」に移行します。

現在では、世界的にAI業界が注目されておりますが、市場規模や企業数といった業界全体が成長傾向にある状態が「成長期」とされます。整骨院業界の場合は「導入期」や「成長期」といったサイクルからはすでに育ってきており、「成熟」から「衰退」への過渡期となっております。

施術所数は増えているものの、そもそもの需要の源泉となる国内人口が減少傾向にあることから、一つの減少していく市場を多くの競合が取り合うという構造になっております。供給過多が目前に迫っていることから、AI業界はその他スタートアップの業界とは異なる戦い方が必要になってきます。

人材、しかも有資格者といった限りある経営資源を活かすためには、自力のみならず、他社と手を組むことも方策の一つと言えます。

なお、「衰退期」がさらに進んでいくと「安定期」と呼ばれます。これは、大手企業数社~10社程度が市場のシェアのほとんどを占めている状態です。

企業間の統廃合が進み、競争力のある企業に経営資源が集約された結果となります。その統廃合こそM&Aです。 M&Aというと「敵対的買収」や「のっとり」といったイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、こと中小企業のM&Aは友好的に進んでいくケースが多数となります。そして、競争が激しくなっている現代の整骨院業界の経営においては、M&Aという戦略を常に考えていく必要があります。

以下、最新の整骨院業界の競合環境について述べてまいります。

整骨院業界の競合環境

ライフサイクル的に衰退期にある整骨院業界にも関わらず、施術所数は増えています。当然、競争はこれまで以上に激しくなってまいります。かつては近隣の整体・整骨だけを意識していればよかったのが、現在では、整骨・整体に加えて、マッサージ専門店、ヨガスタジオ、リラクゼーションやアロマを売りにした業態、などもあり、それらすべてが競合と言えます。更に、昨今急激に増えているセルフフィットネス業態も脅威と言えます。

そのような環境の中で必要なのは、競合との差別化を行うことです。
では、どのように差別化を行えばいいのか、以下の点がポイントとなります。
1.専門性
特定の症状に特化した専門治療、最新の治療技術の導入など
例)スポーツに特化したアスリート専門治療など
2.サービス
他の施術所が行っていない特別なサービス
例)訪問診療・夜間診療・託児サービスなど
3.DX化
空き状況の見える化と、スマートフォンで簡単にできる予約と、その変更
例)LINEによる予約枠の閲覧や変更など

これらの差別化は、小規模な整体・整骨院では対応が難しい場合が多くあります。
ですが、それを可能にする手段の一つがM&Aです。

一口にM&Aと言っても、譲渡(売り主)側にもメリットがなければ、M&Aを選択するということはありえません。譲渡(売り主)側、譲受(買い手)側、それぞれのポイントで意識した場合のM&Aのメリットとして下記があげられます。

整骨院業界M&A:譲主のメリット

・ノウハウの共有による事業基盤の強化や技術者の成長が期待できる。

・大手傘下による従業員のキャリアアップや、大手資本を活かした攻めの経営が期待できる。

・中小では構築が難しい、コールセンターの設置による業務効率化

・DX化による施術者のバックヤード業務軽減

・大手の資本力を活かした広告宣伝を行うことでの集患力のアップ

整骨院業界M&A:買主のメリット

・有資格者の確保により、企業の成長のスピードアップが期待される。

・店舗拡大と自社ノウハウの活用により、売上・利益の拡大が期待される。

・商圏内のシェア獲得により、早期に地域一番化を目指すことができる。

・他エリアの店舗を買収することで新規エリアを開拓の足掛かりにすることができる。

整骨院業界M&Aのポイントまとめ

高齢化や健康意識の高まりを背景に、整骨院業界は安定した需要が見込まれる一方、施術所数の増加による競争の激化、有資格者の採用難など様々な課題に直面しています。これらの課題解決の一つとしてM&Aはますます重要になってまいります。
しかし、M&Aには専門的な知識と経験が必要です。M&Aを進めていく中で、法務面・財務面・労務面などで様々な課題が浮き彫りになります。M&Aアドバイザー・弁護士・会計士などと連携することで、リスクを最小限に抑え、M&Aの成功可能性を高めることが可能になります。
これからの整骨院業界の経営手法の一つとして、M&Aという選択もご検討ください。まずは、自社の整体・整骨院がM&A可能なのかどうか、専門家に問い合わせることからオススメ致します。

大朝 正博

(株)船井総研あがたFAS シニアコンサルタント

大学卒業後、大手ブライダル企業に入社。支配人、エリア支配人を歴任した後にホールディングスへ異動し、全社の集客・成約における責任者・社内コンサルタントとして従事。その後、大手ドレスショップのコンサルティング部長を経て、ブライダル事業会社の常務執行役員として事業を統括後、M&Aで譲渡。売り手側担当者としてM&Aに携わる。船井総合研究所に入社後は、ホテル・ブライダル・美容を中心としたM&A業務に従事。