整骨院業界におけるM&Aの動向
近年、整骨院業界ではM&Aが増加傾向にあります。背景には、以下の要因が挙げられます。
・後継者不足: 少子高齢化の影響により、後継者不足に悩む整骨院経営者が増加しています。M&Aは、後継者問題を解決し、事業を円滑に承継するための有効な手段となります。
・競争激化: 整骨院の数は増加傾向にあり、競争が激化しています。M&Aによる規模拡大や経営効率化は、競争優位性を築く上で重要となっています。
・経営の多角化: 従来の治療に加えて、予防医療、リハビリテーション、美容など、新たなサービスを導入する動きが広がっています。M&Aは、新たな事業領域への進出を加速させる効果も期待できます。
M&Aは、整骨院業界において、事業の成長、発展、そして存続をかけた重要な戦略となっています。
M&A選択のメリットとリスク
分類 | 買い手 | 売り手 |
メリット | 既に営業している事業を買うため、 すぐに拠点展開を進められる。 | ・株式や事業の対価として資金を得ることができる。 ・会社が残り、資本力が増大することで 大きな成長が見込める。 ・代表者保証・自宅担保がはずれる。 |
リスク | 買収後に従業員や得意先の離散が起こる 可能性がある。 | ・想定していた金額で売れない。 ・売却条件を受け入れてもらえない可能性 |
M&Aにおける買い手の最大のメリットは、スピード感をもって拠点拡大を進めることができる点です。自力で新規出店する方法もあります。が、候補地の物件探しや人材採用といった出店準備に時間がかかります。M&Aであれば、既に営業している店舗をそのまま譲り受けることができます。
なお、買い手にとっては出店の手間が省ける点がメリットとなるため、実際のM&Aの場では複数拠点の譲渡の方が、買い手の検討が進みやすいと言えます。売り手におけるメリットは株式や事業の譲渡対価として資金(現金)を得ることができる点があります。第三者へのバトンタッチを希望される場合は、譲渡対価を今後の生活資金にも充てられます。
事業承継のメリットとリスク
また事業の継続や、他事業へ注力する場合も資金元とすることができます。特に、自社単体で成長の展望を描くことが難しいといった場合に、M&Aを通じて資本力のある大手と手を組むことも方法です。出店攻勢の激化など事業環境が厳しくなってきた場合も同様です。また事業承継の一環としてM&Aを検討する場合は次のような整理ができます。
分類 | メリット | リスク |
親族内承継 | ・従業員や取引先の理解が得られやすい ・後継者が家業を継ぐことに抵抗感が少ない場合が多い。 ・後継者育成に十分な時間が取れる ・相続、贈与、売買などの株式の移転方法に幅がある | ・後継者に経営者としての資質があるとは限らない ・贈与、相続が中心のため対価が得られない ・相続人が複数人いる場合、後継者以外への配慮が必要 |
従業員承継 | ・会社や業務に理解のある後継者を選択できる ・従業員からの理解が得られやすい | ・株式の売買にかかる資金超脱が極めて難しい ・個人債務保証の引継ぎ等に問題が多く、後継者家族への配慮も必要 |
M&A (第三者承継) | ・譲渡益を獲得できる上、個人保証が解消される ・大手と組むことにより、更なる事業拡大が見込める | ・条件設定や候補先の探索など、自身だけで進めるのは困難 ・従業員や取引先など、利害関係者に対して十分な説明が必要 |
上記は誰に承継するかという観点で、親族、従業員、第三者(M&A)に分けてメリットやリスクを記載しております。親族や従業員への承継はメリットもあるもの、後継者候補の選択肢が少ない、株式や資産の対価をオーナーが受け取りづらいというリスク・デメリットもございます。第三者への承継となるM&Aは後継者候補の選択肢を広げます。かつ譲渡対価を得られるという点も特徴になります。
整骨院業界におけるM&Aの動向
高齢化社会の進展、健康意識の高まり、そして慢性的な肩や腰の痛みに悩む人が増加する中で、整骨院業界は安定的な需要が見込まれています。しかし、その一方で、後継者不足、競争激化、経営の多角化など、多くの課題に直面しているのも事実です。
こうした状況下で、事業承継、規模拡大、経営効率化などを目的としたM&Aが活発化しています。整骨院業界におけるM&Aは、経営者にとって事業を継続・発展させるための重要な選択肢の一つとなっています。
本稿では、整骨院業界におけるM&Aの最新動向、メリット・デメリット、手続き、成功事例・失敗事例などを詳しく解説し、M&Aを検討する経営者にとって役立つ情報を提供します。
整骨院業界のM&A手順
M&Aの手順
整骨院業界のM&Aは、一般的に以下の手順で進められます。
1.準備段階: M&Aの目的を明確化し、自社の現状を分析します。
2.相手探し: M&Aアドバイザーなどを活用し、適切な相手企業を探します。
3.基本合意: 交渉を行い、基本的な合意事項を定めます。
4.デューデリジェンス: 相手企業の財務状況、法務 compliance、事業の継続性などを調査します。
5.最終契約: デューデリジェンスの結果を踏まえ、最終的な契約を締結します。
6.統合: M&A後の統合プロセス(PMI)を進め、事業の安定化を図ります。
整骨院業界のM&A事例
整骨院業界は大手チェーン店による出店攻勢が急激に加速しています。以下に2022年以降の事例をみてみましょう。
【譲主】グッドフォーチュン(大阪府)/【譲受】ケイズグループ(千葉県)
整骨院運営のケイズグループ(千葉県市川市)は、鍼灸整骨院運営、訪問鍼灸・ リハビリテーション事業のグッドフォーチュン(広島県東広島市)を買収した。 全株式を取得した。全従業員を引き継ぐ。同社は広島県で7院を展開している 。ケイズグループは事業の多角化や地域性・採用などを共有する。各社のリスクを分散し、経営の効率化を図る。(出典:レコフデータ)
【譲主】M・Eヒーリング(京都府)/【譲受】ケイズグループ(千葉県)
鍼灸整骨院運営などのケイズグループ(千葉県市川市)は、鍼灸整骨院運営のM・Eヒーリング(京都市)から一部事業を譲り受ける。3店舗を取得する。従業員も引き継ぐ。同社は財務基盤の健全化を図るため事業整理を行う。ケイズグループは地域医療の充実を図る。(出典:レコフデータ)
【譲主】スマイルストーリー(大阪府)/【譲受】ケイズグループ(千葉県)
鍼灸整骨院運営などのケイズグループ(千葉県市川市)は、鍼灸整骨院、介護・リハビリテーションのスマイルストーリー(大阪府堺市)を買収していた。全株式を取得した。全従業員を引き継ぐ。同社は大阪府堺市、岸和田市、大阪市、兵庫県神戸市で整骨院を15院展開している。ケイズグループは事業の多角化や地域性・採用などを共有する。各社のリスクを分散し、経営の効率化を図る。(出典:レコフデータ)
【譲主】太洋メディカル(大阪府)/【譲受】ケイズグループ(千葉県)
鍼灸整骨院事業などのケイズグループは、同業の太洋メディカルの全株式を取得しました。なお、譲り主代表は続投するとのことです。大洋メディカルは大阪北部を中心に京都や東京で、整骨院13院を展開しております。ケイズグループは事業のリスク分散を図りながら、規模を拡大しています。そして経営の効率化を図るとしています。(出典:レコフデータ)
【譲主】光井JAPAN(大阪府)/【譲受】ケイズグループ(千葉県)
こちらもケイズグループが同業大手の光井JAPANの全株式を譲り受けたケースとなります。光井JAPANは大阪南部を中心に整骨院14院を展開してきました。なお、光井JAPANの代表はケイズグループの別事業の顧問に就任予定とのことです。(出典:レコフデータ)
【譲主】ワイズ(東京都)/【譲受】ベスト・ケアー(NSGグループ)
居宅介護支援、福祉用具貸与等を展開するベストケア―は、同業のワイズから整骨院を譲受ました。ワイズは整骨院のほかにリハビリ事業を展開しています。M&Aを通じてリハビリ事業に経営資源を集中投下する狙いがあります。なおベスト・ケア―は大手NSGグループ、ワイズもエムスリーグループとなります。つまり大手傘下企業同士のM&Aとなりました。本事例は、事業の一部を切り出して譲渡する典型例となります。(出典:レコフデータ)
以上、簡単ではありますが、M&Aの事例の一部をご紹介しました。
整骨院業界M&A:実際のケース
実際のM&Aは様々な規模感で実施されています。
①上記の例のように大手企業が譲受主体となり、店舗規模を拡大するケース
②中堅規模の地域一番店が同業の3店舗ほどを譲り受けるケース
整骨院業界では、今後もM&Aが活発化すると予想されます。M&Aは、事業承継、成長戦略、経営効率化など、様々な目的で活用することができます。
M&Aを成功させるためには、目的を明確化し、適切な相手を見つけ、デューデリジェンスをしっかりと行い、M&A後の統合プロセスをスムーズに進めることが重要です。
また、M&Aにはリスクも伴います。専門家のアドバイスを受けながら、慎重に進めることが大切です。
よくある質問(Q&A)
よくある質問(FAQ)
Q. M&Aを検討する際に、どのような点に注意すべきですか?
A. M&Aの目的を明確化し、自社の現状を分析することが重要です。また、M&Aにはリスクも伴うため、専門家のアドバイスを受けながら、慎重に進めることが大切です。
Q. M&Aアドバイザーは、どのように選べば良いですか?
A. 整骨院業界のM&Aに精通したアドバイザーを選ぶことが重要です。実績や経験、費用などを比較検討し、信頼できるアドバイザーを選びましょう。
Q. M&Aにかかる費用は、どのくらいですか?
A. M&Aの規模や複雑さによって異なりますが、一般的には、アドバイザー費用、弁護士費用、デューデリジェンス費用など、数百万円から数千万円程度の費用がかかります。
Q. M&A後、従業員の雇用はどうなりますか?
A. 基本的には、買収企業に雇用が引き継がれます。ただし、M&Aの内容によっては、雇用条件が変更される可能性もあります。