物流業界・倉庫業界の2024年に向けたM&A動向と未来の展望

物流・倉庫業の2023年市場動向

物流業界の新たな課題と変化

物流業界は、日本経済の基盤を支える重要なインフラとして機能しています。特に、コロナ禍以降、EC市場の拡大により、物流業界に対する需要が急増しました。しかし、これに伴い、業界は新たな課題に直面しています。燃料費やトラックの維持コストの高騰、ドライバー不足、さらには働き方改革関連法による労働環境の改善圧力など、企業にとっては避けて通れない課題です。

2023年の物流業界は、特に燃料費の高騰や物価上昇の影響を受け、コスト構造が一段と厳しくなっています。事業者は価格競争に巻き込まれつつも、品質の高いサービスを提供することが求められており、サービスの差別化が競争のカギとなっています。

コロナ後のEC市場の成長と影響

コロナ禍を契機に、EC(電子商取引)市場は急速に成長しました。自宅での買い物が増加したことにより、B to C(企業から消費者への直接配送)サービスの需要が増大しました。2023年に入り、EC市場の成長ペースは一時期の急上昇からは落ち着いたものの、依然として高い水準を維持しています。これにより、物流企業は引き続き大量の荷物を扱う必要があり、効率的な配送網の構築や人手不足への対応が求められています。

一方で、コロナ前に比べて依然として荷動きは活発でない分野もあり、企業間物流や消費財関連の物流では、物価高による消費低迷が物流需要を圧迫しています。

物価高と燃料費の高騰が与える影響

2023年の物流業界において、燃料費の高騰は非常に大きな課題となっています。燃料価格の上昇は、主に円安や原油高の影響によるものであり、これにより物流コスト全般が上昇しました。さらに、トラックの価格も半導体不足の影響を受け、供給が滞りがちです。こうしたコスト増加に対して、運送業者が荷主に運賃の値上げを求めるケースが増えていますが、荷主側との交渉は容易ではありません。結果として、多くの物流業者は利益率を維持することが困難な状況に直面しています。

加えて、国内外の経済情勢も物流業界に影響を与えています。物価の上昇に伴い、消費が落ち込み、物流需要も減少しています。特に、消費財や食品関連では需要が鈍化しており、これが物流事業者の業績にも響いています。

2024年問題:労働環境の変化と影響

2024年に施行される働き方改革関連法の一環である「2024年問題」は、物流業界において大きな転換点となるでしょう。この法律では、運送業における時間外労働の上限が厳格に規制され、年間960時間を超えることができなくなります。これは、ドライバー不足が深刻な物流業界にとって、さらなる労働力の不足と、業務効率の改善が求められることを意味します。

2024年問題に対処するために、物流企業は、業務プロセスの見直しや、輸送ルートの効率化、さらには自動化技術の導入を検討しています。特に、拠点間での中継輸送や、運送にかかる時間を短縮するための戦略的な投資が求められています。

物流・倉庫業の2023年M&A件数

M&Aが加速する背景

2023年の物流業界では、M&Aが急速に増加しています。レコフM&Aデータベースによると、物流業界で公表されたM&Aの件数は97件に達し、過去最多を記録しました。この数字は、日本企業同士のM&Aだけでなく、外国企業とのM&Aも含まれています。物流業界におけるM&Aの加速は、複数の要因が重なっているためです。

まず第一に、後継者不足が挙げられます。特に中小企業においては、経営者の高齢化が進み、後継者不在の問題が深刻化しています。そのため、多くの企業が事業の継続を目的として、大手物流企業に事業を譲渡しています。

次に、コスト圧力の増大もM&Aを促進する要因となっています。燃料費や人件費の増加により、単独では効率的な運営が難しくなった企業が、規模の経済を追求するために他社との統合を選択しています。特に、事業の効率化や物流ネットワークの拡充を図るために、大手企業が中小企業を買収するケースが増えています。

さらに、成長戦略としてのM&Aも注目されています。物流業界においては、単独での成長が難しい中で、他社との提携や買収を通じて市場シェアを拡大し、業界内での競争力を高める動きが強まっています。

M&Aの効果と市場への影響

物流業界におけるM&Aの主な目的は、事業の拡大と効率化です。特に、大手企業が中小企業を買収することで、物流拠点の拡充や配送網の強化が図られています。これにより、効率的な物流ネットワークの構築が可能となり、コスト削減やサービス品質の向上が期待されています。

また、M&Aを通じて新たな荷主を獲得することも大きなメリットです。譲渡企業(売り主)は、大手企業のネットワークを活用することで、これまでアプローチできなかった新規荷主にリーチすることが可能となります。これにより、売り主企業は事業規模を維持しながら、より効率的な事業運営を実現できます。

M&Aが市場に与える影響としては、業界全体の競争が激化することが挙げられます。大手企業による買収が進む中で、中小企業は競争力を維持するために、他社との提携や技術革新を進めなければならない状況に追い込まれています。

年商規模別M&A傾向

年商規模100億円以上の大手企業

大手物流企業では、M&Aを通じて国内外の物流ネットワークの拡大や、隣接業種への進出が活発に行われています。年商規模100億円以上の企業にとって、物流拠点の拡充や、新たな市場への進出は成長戦略の一環であり、特に海外市場への進出が顕著です。国内市場が成熟しつつある中で、海外展開を図ることで、さらなる成長を目指しています。

具体的には、大手企業は、まだ進出していない地域における拠点を確保するために、中小企業を買収する動きが目立っています。これにより、物流のシームレスな運営が可能となり、輸送効率が向上しています。隣接業種への進出も積極的に行われており、物流業務に関連する自動車整備業や物流加工業を取り込むことで、より包括的なサービスを提供できる体制を整えています。

年商規模30億円から100億円の中堅企業

中堅企業においても、M&Aは重要な戦略となっています。年商30億円から100億円の中堅企業は、地域密着型のサービスを展開しているケースが多く、新たな市場への進出やサービスの多様化を図るために、他社との提携やM&Aを進めています。特に、新たなエリアへの進出や、輸送力の強化を目的としたM&Aが増加しています。

中堅企業は、大手企業に比べて柔軟性が高く、地域ごとのニーズに応じたサービスを提供できる強みがあります。M&Aを通じて新たな市場に参入し、既存の物流ネットワークを活用しながら、新しいエリアでの事業展開をスムーズに進めています。

年商規模30億円以下の小規模企業

小規模企業にとって、M&Aは事業の存続と成長のための重要な手段です。年商30億円以下の企業では、資金力や設備投資に限界があるため、大手企業との提携やグループ化を通じて経営基盤を強化するケースが増えています。M&Aを通じて、物流拠点やネットワークを拡大し、シナジー効果を生み出すことが小規模企業にとっての大きなメリットです。

特に、単独では大胆な投資が難しい小規模企業にとっては、M&Aを通じてリソースを共有し、規模の経済を享受することで競争力を維持することが可能となります。また、物流センターや輸送ネットワークを活用することで、新たな事業機会を得ることができ、持続可能な経営を実現しています。

2023年は物流業界再編が加速

業界再編の背景

2023年は、物流業界の再編が急速に進んだ年となりました。物流業者の中には、燃料費や運賃の上昇、労働条件の改善を求められる中で、事業規模を維持するために他社との提携を模索する動きが活発化しています。特に、ドライバー不足が深刻化している中で、労働時間の短縮を実現するために拠点間の中継輸送を強化し、効率的な業務運営を進める企業が増えています。

業界再編が進む背景には、労務管理やコンプライアンスの強化が求められる中で、多くの中小企業が厳しい事業環境に直面していることがあります。2024年問題もその一因であり、労働時間の上限規制によって事業運営が厳しくなるため、M&Aや業界再編が進むことが予想されます。

2024年問題とM&Aの役割

2024年の労働時間規制の導入は、特に長距離輸送を行う企業にとって大きな影響を与えると考えられています。この問題に対処するため、企業は効率的な物流拠点の配置や、輸送ルートの見直しを進めています。M&Aを通じて、より広範なネットワークを構築し、業務効率を高めることで、労務リスクを軽減する取り組みが進んでいます。

特に、地方に拠点を持つ企業を買収することで、長距離輸送における中継拠点を確保し、ドライバーの労働負担を軽減する戦略が取られています。これにより、労働時間の短縮を実現しつつ、業務の効率化を図ることが可能となります。

物流・倉庫業の2023年M&Aのピックアップ事例5選

1. ハマキョウレックスと山里物流サービスの提携

譲受企業(買い手): 株式会社ハマキョウレックス(静岡県・年商約1,300億円)

譲渡企業(売り主): 株式会社山里物流サービス(大阪府・年商約14億円)

背景と目的

ハマキョウレックスは、アパレル、食品、医薬品、医療機器などの物流センター事業(3PL事業)や貨物自動車運送業を中心に展開する大手物流企業です。2023年に大阪府の山里物流サービスを買収し、食品輸送分野でのノウハウを獲得しました。これにより、食品輸送において新たなシナジー効果が期待されています。

食品輸送は特に温度管理や品質管理が重要な分野であり、ハマキョウレックスは山里物流サービスの知見を活用することで、サービスの拡充を図っています。さらに、このM&Aによってハマキョウレックスは、物流ネットワークを強化し、効率的な輸送体制を整備しました。

2. エスライングループとエムアンドエスコーポレーションの提携

譲受企業(買い手): 株式会社エスライングループ本社(岐阜県・年商約490億円)

譲渡企業(売り主): 株式会社エムアンドエスコーポレーション(千葉県・年商約17億円)

背景と目的

エスライングループは、家電製品の配送および設置工事を行う事業を強化するために、2023年にエムアンドエスコーポレーションを買収しました。エムアンドエスコーポレーションは、関東圏での家具や家電製品の配送・設置業務に強みを持ち、特に業務用エアコンの設置など専門性の高い分野に強い企業です。

このM&Aによって、エスライングループは自社の配送サービスにエムアンドエスコーポレーションの技術とネットワークを加え、顧客に対するサービスの幅を広げています。特に、設置工事においては専門的な技術が求められるため、これらのリソースを効果的に活用することで、競争力を高めています。

3. 濃飛倉庫運輸と横浜物流の提携

譲受企業(買い手): 濃飛倉庫運輸株式会社(岐阜県・年商約295億円)

譲渡企業(売り主): 横浜物流株式会社(神奈川県・年商約2億円)

背景と目的

岐阜県を拠点に事業を展開する濃飛倉庫運輸は、2023年に横浜物流を買収しました。横浜物流は、神奈川県に拠点を持ち、港湾事業や通関業務を手掛けています。このM&Aにより、濃飛倉庫運輸は関東地域での物流ネットワークを強化し、港湾事業の拡大を進めています。

港湾事業は、国際物流において重要な役割を果たしており、特に輸出入業務を効率的に行うためには、港湾での業務が不可欠です。濃飛倉庫運輸は、横浜物流を傘下に加えることで、港湾事業の規模を拡大し、輸出入業務の強化を図っています。

4. 安田倉庫とエーザイ物流の提携

譲受企業(買い手): 安田倉庫株式会社(東京都・年商約590億円)

譲渡企業(売り主): エーザイ物流株式会社(神奈川県・年商約47億円)

背景と目的

安田倉庫は、医薬品物流に強みを持つ企業で、2023年にエーザイ物流を買収しました。エーザイ物流は、エーザイグループの一部として医薬品の輸送や保管を専門に行っており、高い品質管理基準を持つ企業です。このM&Aにより、安田倉庫は医薬品物流プラットフォームを強化し、国内での医薬品物流のリーダーとしての地位を確立しました。

医薬品物流は、厳しい品質管理や温度管理が求められる分野であり、安田倉庫はエーザイ物流のノウハウを活用することで、より高度な物流サービスを提供しています。さらに、このM&Aにより、安田倉庫は医薬品の輸送能力を強化し、国内外の医薬品メーカーとの取引を拡大することが期待されています。

5. 五健堂とナワショウの提携

譲受企業(買い手): 株式会社五健堂(京都府・年商約80億円)

譲渡企業(売り主): 株式会社ナワショウ(大阪府・年商約10億円)

背景と目的

京都府を拠点に展開する五健堂は、2023年にナワショウを買収しました。ナワショウは神奈川県および愛知県に拠点を持ち、特に地域に密着した物流サービスを提供しています。五健堂は、このM&Aにより、ナワショウの拠点を活用して、効率的な輸送ルートを確保し、物流ネットワークを強化しました。

この提携により、五健堂は愛知県および神奈川県における拠点を確保し、より効率的な輸送を実現しました。さらに、2024年問題に対応するための中継拠点としても活用されることが期待されています。

M&Aによるシナジー効果

M&Aによる業務効率化とコスト削減

物流業界におけるM&Aは、単に事業規模を拡大するだけでなく、業務の効率化やコスト削減にも大きな影響を与えます。M&Aを通じて、譲受企業(買い手)は、譲渡企業(売り主)の物流ネットワークを活用し、拠点間での中継輸送や、共同配送の強化を進めることができます。これにより、輸送コストが削減され、業務の効率化が図られます。

また、M&Aによって拠点の配置や業務の見直しが行われることで、ドライバーの労働時間を短縮し、労務リスクを軽減することができます。特に、2024年問題に対しては、効率的な業務運営が重要な課題となっており、M&Aはその解決策の一つとして注目されています。

人材活用と採用力の向上

M&Aによるもう一つの大きな効果は、人材活用と採用力の向上です。特に、物流業界ではドライバー不足が深刻な問題となっており、M&Aを通じて人材確保を進める企業が増えています。譲受企業は、譲渡企業のドライバーやスタッフを引き継ぐことで、即戦力となる人材を確保することができます。

また、大手企業の傘下に入ることで、採用活動の強化や人材の定着率向上も期待されます。大手企業は、充実した福利厚生制度や教育プログラムを提供することで、社員のモチベーションを高め、長期的な雇用を確保しています。これにより、物流業界全体での人材不足を解消するための一助となっています。

物流業界のM&Aメリット・デメリット

M&Aのメリット

物流業界におけるM&Aのメリットは多岐にわたります。まず、譲渡企業(売り主)は、大手企業のネットワークを活用することで、新たな荷主を獲得する機会を得ることができます。これにより、事業規模を拡大し、収益性を向上させることが可能となります。また、運賃交渉力の強化や、燃料費やトラック購入費のコスト削減も期待できます。

さらに、社員のモチベーション向上や、資金調達の幅が広がることも大きなメリットです。M&Aを通じて、大手企業の安定した経営基盤を活用しながら、事業の成長を実現できる点は、譲渡企業にとって重要な利点です。

一方、譲受企業(買い手)にとっても、物流ネットワークの拡大や、輸送効率の向上が期待されます。特に、長距離輸送における中継拠点を確保することで、ドライバーの労働時間を短縮し、効率的な輸送体制を整えることが可能となります。

M&Aのデメリット

一方で、M&Aにはデメリットも存在します。まず、M&Aの相手を見つけるまでに時間がかかることがあり、適切なタイミングでの提携が難しい場合があります。また、譲渡企業の経営者にとっては、長年経営してきた会社を他者に委ねることへの心理的な抵抗感があるでしょう。

さらに、M&A後の統合プロセスにおいて、文化や経営方針の違いによる摩擦が生じることもあります。これらのデメリットを克服するためには、事前の準備と計画が重要です。特に、譲渡企業と譲受企業の信頼関係を構築し、綿密な経営統合計画を策定することが成功のカギとなります。

終わりに

2024年を迎えるにあたり、物流業界は大きな変革の時期に直面しています。特に中小企業の経営者や幹部にとって、M&Aは事業の成長や課題解決を図るための重要な戦略です。燃料費や運賃の上昇、2024年問題への対応といった課題が今後も続く中で、効率的な事業運営を実現するためには、積極的な戦略が不可欠です。

M&Aは、物流業界全体の競争力を高め、持続可能な成長を実現するための有効な手段です。物流業界の変化に対応し、未来を見据えた行動を取ることで、企業は今後も発展していくことができるでしょう。

株式会社船井総研あがたFAS

船井総研あがたFASでは、50年以上にわたる業種別コンサルティングの経験を活かした、M&A 成立後の業績向上・企業の発展にコミットする事業承継・M&A支援を目指しております。業種専門の経営コンサルタントと事業承継・M&A専門のコンサルタントがタッグを組み、最適な成長戦略・出口戦略を描きます。