① 不動産仲介業界(売買)の2024年市場動向
国土交通省「令和6年地価公示」では全国全用途平均で地価が2.3%のプラスと3年連続で上昇し、全体的に昨年よりも高い上昇率となりました。地域や用途により差がありますが、大都市圏・地方圏ともに上昇が継続するとともに、三大都市圏では上昇率が拡大し、地方圏でも上昇率が拡大傾向となるなど、上昇基調を強めています。住宅地については、都市中心部や、利便性・住環境に優れた地域では住宅需要は地価上昇が継続しており、また東京圏・大阪圏・名古屋圏の三大都市圏や地方四市の中心部における地価上昇に伴い、周辺部においても上昇の範囲が拡大している傾向にあります。その他にも、鉄道新路線等の開業による交通利便性の向上などを受け、上昇率が拡大した地域や、外国人人気のリゾート地では、別荘やコンドミニアムなどの需要が増大し、高い上昇となった地点が見られます。商業地においても都市部の人流回復に伴う需要やオフィス需要から、地価が回復しており、インバウンドを含む観光客が回復した観光地等の地価も回復傾向にある。
財務省「年次別法人企業統計調査(令和5年度)」を見ると、2019年では45兆3,835億円、2020年では44兆3,182億円だった売上高が、2021年以降は上昇傾向にあり、2023年では56兆4,539億円となり、前年比+22%の成長が確認できます。コロナ禍で低迷していた不動産業界も、ここ数年で回復傾向にあるといえるでしょう。
視点を不動産取引に絞ると、国土交通省「不動産取引件数・面積」によれば、全国の不動産取引件数は、2024年1月~2024年6月で243,469件(前年同期間比+6.6%)と増加傾向にあります。またその内訳として、戸建住宅104,208件(+6.3%)、マンション(区分所有)111,170件(+6.7%)、店舗4,064(+8.8%)、オフィス3,350件(+5.2%)、倉庫1,556件(-1.6%)、工場1,149(+10.8%)、マンション・アパート(一棟)17,972件(+7.4%)となっており、倉庫以外で増加となっています。前述した地価上昇傾向と併せ、取引件数も増加しているため、不動産仲介(売買)市場全体では好調といえる要素が見受けられます。
一方、不動産業界には課題も多くあり、このまま好調な市場動向が続くとは考えられません。国土交通省も、不動産業に携わるすべてのプレーヤーが不動産業の持続的な発展を確保するための官民共通の指針として2019年に、およそ四半世紀ぶりに「不動産業ビジョン2030~令和時代の『不動産最適活用』に向けて~」を発表しています。ビジョン作成にあたっての考え方として、「不動産業は、我が国の豊かな国民生活、経済成長等を支える重要な基幹産業であり、人口減少、AI・IoT等の進展など 社会経済情勢の急速な変化が見込まれる次の10年においても、引き続き、成長産業としての発展が期待されます。」と成長産業であるとしつつも、2030年頃までの間に想定される社会経済情勢の変化をいくつか挙げており、企業が対応すべき課題を示唆しています。少子高齢化・人口減少の進展、インフラ整備の進展による国土構造の変化、地球環境問題の制約、自然災害の脅威等の一企業が対応でき得る範囲に限りがある課題だけでなく、新技術の活用・浸透、働き方改革の進展等の一企業の努力で対応でき得る範囲が広い課題もピックアップされています。
上記のような課題に対応・適応できる会社であれば、地域にもよりますが、不動産業ビジョンにいう「成長産業」に乗っかり、成長・拡大していくことができると考えられます。反対に、どれか一つでも課題に対応できない会社は、淘汰されていくことになるでしょう。不動産売買業を展開する会社が、賃貸業(賃貸管理、賃貸仲介)、マンション管理業等の不動産業全域に事業を広げたり、あるいはガスや清掃、工事業等を展開したりすることも、生き残っていく上での戦略といえます。とはいえ、現実、上記のような課題すべてに完全に対応でき得る会社の数は限られています。いわゆる大企業であれば豊富な資源(人材・モノ・資金・ノウハウ)を活用し、対応でき得るかもしれません。しかし、中小企業、もしくは中堅企業であっても、一会社では社会情勢の変化に対応することが難しい場合、どう生き残るかを検討しなければなりません。会社を残すため、従業員・家族を守るため、顧客を守るため、どのような選択をすべきか、決断を迫られる時、第三者の力・資源(人材・モノ・資金・ノウハウ)を活用することも選択肢に入れるべきです。例えば、大手グループに株式譲渡をすれば、会社が残り、従業員の雇用も安定します。さらに大手グループの資源を活用し、成長・拡大もできるでしょう。会社・従業員・家族・顧客を守るためには、一会社だけで生き残る必要はありません。第三者の力を借りることも、生存戦略の1つとして検討をしておくべきです。
②不動産仲介業界(売買)の2024年M&A件数
不動産業界における、M&A件数は、レコフM&Aデータベースによると2024年1月~2024年9月は171件(データ種別をM&A、検索期間を2024年1月1日~2024年9月30日と設定し、「不動産業」を設定した際の件数データ)となっています。
業界では、後継者問題など、譲渡する企業の件数が増えていく中で、譲受企業も増えて、M&A件数が増加傾向にあると思われます。
③不動産仲介業界(売買)の2022年ピックアップ事例3選
【事例 1】
譲渡:消防用設備点検・工事会社
譲受:不動産売買・販売会社
大分県を中心に九州地方で不動産売買・販売業、管理業を展開する別大興産(大分県)は、大分県で消防用設備点検・工事を営む大幸防災商事(大分県)の全株式を取得しました。別大興産が管理する物件に対するサービスの提供により、シナジーを得つつ、グループ全体のサービス向上を目的とするものと考えられます。
【事例 2】
譲渡:不動産売買・管理会社
譲受:不動産管理・開発会社
大阪に本社を構え、関西圏・関東圏・中部にて不動産業を展開するTAKUTO(大阪府)は、東京を中心に不動産売買・管理業を展開するワールドウィン・プロパティ(東京都)の全株式を取得しました。 TAKUTOは以前より関東圏で事業展開をしてきましたが、本件M&Aを通して、より強固なものとすると考えられます。
【事例 3】
譲渡:注文・建売住宅、不動産売買会社
譲受:不動産リフォーム会社
不動産リフォーム会社であるニッソウ(東京都)は、注文・建売住宅、不動産売買を行う平成ハウジング(栃木県)を子会社化しました。建設・不動産事業の拡大を図りつつ、グループ全体のシナジーにより事業拡大していくものと考えられます。
不動産仲介業を営む企業にとって、さらなる商圏・シェア拡大を狙うため、同業を買収するケースは依然としてありますが、近年では異業種・近隣業種による買収が目立ちます。不動産仲介業が、より生産性を出せる企業体へ成長するために、自社の足りない事業として、建築業、リフォーム業などの、関連業種企業の買収するケースが考えられます。また、不動産×ITに関するM&Aも増加しており、業務効率化への動きも散見されます。
今回の事例には入っているように、建築業、不動産開発業の企業が、自社の直接販売網を確立する為、不動産仲介業(店舗展開)を買収するケースも出てきています。いずれにせよ、成熟した業界事情の中で、買い手側、売り手側ともに、より成長・シナジー効果を目指したM&A戦略が基本となっていくでしょう。
船井総合研究所では、長年の不動産会社に対するコンサルティング経験を活かし、M&Aを成長戦略の1つとして捉え、譲渡を検討している方、譲受を検討している会社様にご提案をさせていただきます。