1.住宅工務店の2024年市場動向
住宅工務店業界は成熟期を超え、衰退期にあると言えます。令和5年度の新築住宅着工戸数は815千戸となり、前年の854千戸より減少しています(住宅着工統計:国土交通省)。今後も少子高齢化に伴う人口減少により、市場の縮小ないし停滞の状況は続いていくものと考えられます。
一方、数年前にコロナ禍の影響を受け、テレワークの普及やZoom等のITツールを活用した新しい働き方に注目が集まっており、都市部に居住する必要性に疑問を持った層が、一定数存在すると考えられています。彼らの一部には、既に郊外に住宅を購入したケースも散見され、住宅工務店業界においては、コロナ禍はマイナスな側面だけではなかったと考えられます。郊外住宅の場合には、新築住宅にこだわることもなく、空き家を活用したリフォームやリノベーションをして住むケースも見受けられるため、今後もリフォーム・リノベーションの需要は継続していくと考えられます。
また国土交通省、経済産業省、環境省の3省連携による「住宅の省エネリフォーム支援」や、国土交通省による「ZEH住宅の取得への支援」が始まっています。上記政策には、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて家庭部門の省エネを強力に推進するため、住宅の断熱性の向上に改修や高効率給湯器の導入などの住宅省エネ化への支援を強化する目的があり、年間のエネルギー消費量0を目指したZEH住宅の支援からも、政府は環境に配慮した持続的な住宅への支援を進めていることがわかります。
以上を踏まえると、今後の住宅建設業界としては、最先端技術を導入しつつ、持続可能的に対応した住宅を、いかに提供できるかが課題となると言えます。
一方、住宅工務店業界は以下の問題を抱えていることは2024年以降も顕著であると言えます。
・廃業・倒産の増加
・人材不足による問題
・住宅着工率の減少
2023年の建設業の倒産件数は1,693件(前年1,194件)となっています(東京商工リサーチ)。増加率40%超は32年ぶりであり、建築業界全体の衰退が垣間見える結果となりました。また帝国データバンクによると、2023年の物価高倒産(=法的整理企業のうち、原油や燃料、原材料等の「仕入れ価格上昇」、取引先からの値下げ圧力等で価格転嫁できなかった「値上げ難」等により、収益が維持できずに倒産した企業)の件数は、全業種で684件(前年比1.7倍)となり、建設業はそのうちの138件を占めています。円安の影響により資材・原材料・エネルギーが高騰し、依然高止まりの状況が続いています。価格転嫁が十分に進まない状況が続く中、今後も「物価高倒産」は引き続き増加傾向で推移すると考えられます。
また、住宅工務店業界には資格が求められる業務が多く、人材難も大きな課題となっています。採用力、教育力に長けているいわゆる大企業であっても有資格者の確保は経営活動にとって重要な課題であり、中小企業であればその課題はより顕著に現れています。社長を除けば従業員1人だけが業務に必要な資格を保有しているケースも少なくありません。仮に有資格者従業員が退職されたことを考えると、やはり廃業という選択を検討せざるを得ません。
2.住宅工務店の2023年M&A件数
公表されているデータでは、2023年において「注文住宅」に関するM&Aは4件あります。中でも同業種もしくは近隣業種による買収が目立っています。大手グループの戦略として地方の会社を買収するケースが散見されます。
また、売り手側の特徴としては、従業員を多数確保していることが前提ではありますが、仕入れ力や住宅のデザインに強みがあることが見られます。
3.住宅工務店の2023年M&Aのピックアップ事例2選
①ヤマダホームズ-セキホーム
ヤマダホールディングスの孫会社であり、群馬県に本社を置くヤマダホームズが、富山県のセキホームを買収しました。ヤマダホールディングスでは、「暮らしまるごと」という戦略のもと、各都道府県で次世代向けスマートハウスを強化していくためのパートナーを探していたところ、セキホームと提携するにいたりました。セキホームは大手グループインにより、経営基盤をより強固なものとしました。
②ヒノキヤグループ-イゼッチハウス北海道
上記と同様、ヤマダホールディングスの参加であるヒノキヤグループが、イゼッチハウス北海道を買収しました。イゼッチハウス北海道は、道央圏を中心に注文住宅事業を展開し、高気密・高断熱性能に強みを持った、省エネ・創エネに特化した会社です。またZEH 住宅の施工棟数において道内トップクラスの実績があり、ヤマダホールディングスの戦略の1つとしてM&Aが実行されたと考えられます。