パチンコ業界における2023年のM&A動向振り返り

1.2023年は約50件のM&Aが成立。ただ、大型M&Aの成立はどれくらい?

私が調べた限りでは、2023年は53件のM&A(同業他社へのM&A)が成立。ただ、そのうち、約9割は近隣店舗同士のM&Aでした。買い手目線で表現すると、いわゆるディフェンス目的の要素もあるM&Aです。加えて、近隣店舗のM&Aにおいては、「地域性が把握できている」「同一県の場合、遊技機のチェーン店移動が可能(特にジャグラーなどの活用において有利)」といったメリットもあります。要するに、引き継いだ後の業績の伸びしろを試算し易い店舗でもあります。古今東西になるのですが、M&Aの成立には「業績の伸びしろ」というのが以前にも増して非常に重要な要素になっていると感じます。

また、大型店のM&Aにおいては、いわゆる国替え的な成約事例も目立ちました。例えばですが、過去、遠隔地に出店した法人が、運営効率等を踏まえて好稼働の大型店を譲渡。自社の重点エリアに経営資源を集約していくというM&Aです。買い手視点になりますが、大型店のM&Aを狙う法人は、このような国替えニーズを意識して情報収集することも有効と思います。

そして、見逃せないのが、パチンコ→他業種への譲渡事例です。件数が把握できないのですが、2023年は弊社においても数件成約に関わらせていただきました。パチンコ店の建物を再活用いただける他業種への転用事例(小売店、カラオケ、中古車販売店等)は比較的好条件での成約とお見受けします。パチンコ店は他業種への転用が比較的検討し易い事業です。売り手様としては、同業他社への譲渡だけでなく、他業種転用も含めて、より好条件での成立を模索されることをお勧めします。

2.店舗譲渡から法人譲渡が「時流」に

加えて、2023年は、いわゆる部分撤退ではなく、パチンコ事業からの撤退を決断された法人も目立ってきました。この傾向は、ライフサイクルが進んだ業種に共通するM&Aの時流で、パチンコ業界においても今後のM&A成立においては法人全体の譲渡事例が増えていくと考えられます。ただ、法人売却を目指す売り手様は、低収益店や不採算店を自社で整理することが重要です。買い手様に押し付けるような抱き合わせM&Aは成立しないので、そのあたりをご留意いただければと思います。

また、法人譲渡が増える背景としては、設備投資の高騰傾向という時流があります。いわゆる装置産業でライフサイクルが進み、ゲーム業界が分かりやすい先行事例ですが、法人数が淘汰されてくると設備投資の単価が高騰していく傾向が出てくる。投資能力のある法人が勝ち易い図式になるのは自明で、パチンコ事業を続ける法人は受容しなければならない時流なのです。

また、視点が売り手⇔買い手と、ころころ変わってしまい大変恐縮なのですが、買い手視点としては、事業譲渡(1店舗の譲渡)での成立を目指すのは難しい時流となります。法人譲渡を基本線としてM&A成立を画策するのが肝要です。

3.某大手法人の民事再生申請後、「資金調達」が最重要要素に

また、2023年は、某大手法人の民事再生申請が大きな業界トピックとなりました。この事象で対応が変わったのが特に地方銀行を中心とした金融機関です。「パチンコ法人への融資は慎重に考えるべき」という消極姿勢の金融機関が増え、その方針変更に苦慮されているパチンコ法人様も多いと思います。ただ、この解消にはパチンコ法人の説明責任もあります。メイン銀行をはじめとした金融機関には、パチンコ業界の時流や動向を丁寧に説明し、理解を得ることで資金調達に成功しているパチンコ法人も複数社あります。「金融機関との交渉は、断られてからが本番」という格言めいたことをおっしゃる経営者もいらっしゃいますが、設備投資の高単価傾向が時流となっているパチンコ業界において、パチンコ事業を続けるには資金調達は必要不可欠の経営努力です。パチンコ業界で起こっている時流を把握できていない金融機関も多いので、正しい理解を得るためにも、根気強く説明をつづけていただければと思います。

また、M&Aの成立において、特に売り手は「融資特約」がつくことは許容しなければならない条件です。「融資特約」を応諾して基本合意を締結。ただ、必ず手付金を入れてもらった方がいいと思います。そして、買い手が資金調達に成功したのち、本契約を締結するという進め方です。また、資金調達に失敗した場合の白紙撤回条件も詳細に決めるべきで、例えば、資金調達額が満額に満たなかった場合はどのように協議していくのか?などを基本合意締結前に整理するのが重要です。特に店舗譲渡ではなく法人譲渡になると譲渡対価も高額になります。資金調達が難航するのは当然です。ただ、売り手は、買い手の資金調達失敗後に後戻りできるよう事前に整理をすることも大事なことと思います。

4.パチンコ業界M&Aの今後の時流とは?

M&Aが先行して成立している他業界と比較すると、パチンコ業界のM&Aはまだまだこれからと思います。「店舗譲渡から法人譲渡」という時流に加えて、今回は触れることができませんでしたが「資本と経営の分離(運営法人がどんどん変わっていく)」という時流も台頭するでしょう。ただ、いずれにしても、引き受けた事業の業績を伸ばせる法人。資金調達の努力をし続ける法人が有力買い手として活躍するというのも時流です。譲渡の成立を目指す売り手としては、有力買い手とはいえない法人からの見送り回答に凹まず、有力買い手目線とご縁を大切にされることを強くお勧めできればとも思います。

奥野 倫充

ディレクター

1996年に船井総合研究所に入社。1998年よりパチンコ業界のコンサルティングに従事している。2019年にパチンコ法人のM&A仲介案件を経験。その後、レジャー産業事業者向けM&Aコンサルティングに従事している。