まずは医療法人ハピネス ヒロデンタルクリニックについて教えてください。
奥様:平成14年に愛宕山で開業しました。田んぼもある住宅地でしたね。最初は私と故理事長と二人でチェア3台で開業し、その後徐々に患者さんも増えてチェアを5台に増設、それに伴いスタッフさんも増えていった形です。
平成30年に今の場所に移転して、チェア6台でスタートしました。好立地であったこともあり順調に新しい患者さんも増え、また前の病院の患者さんの多くが継続してきてくださったので、良い形で運営できていたと思います。
創業から約20年。地域から、従業員さんから愛されているクリニックを事業承継されるということで、大きな決断だったと思います。譲渡に至る背景をお伺いできますか?
奥様:故理事長の病気が、2024年3月に判明したこと、これが、事業承継を決断するきっかけになりました。告知の中で余命10か月と言われ、クリニックをどうするかと話し合いました。廃業も検討しましたが、想いのあるクリニックや患者さんがバラバラになるのは望まない、特にスタッフの雇用を守りたい、ということで事業承継を決断しました。
黒瀬先生にお聞きします。医療法人ハピネス ヒロデンタルクリニック様の事業承継を決断された理由をお伺いできますか?
黒瀬先生:元々、故理事長のことを勉強会等で存じ上げていました。歯科の臨床においてご著名な先生で、よくお名前も伺っていましたので、事業承継のお話をご提案いただいたときは驚きましたね。事業承継の背景をお聞きして、なんとか力になりたいと思い、お話をいただいた時から殆ど心は決まっていました。
ただ、故理事長のお病気のタイミングで、常勤の先生が非常勤になられていたので、実際に承継した後の運営面では不安はありました。
それでも、今勤務されているスタッフの皆さんがとても熱心に医院を守っておられる姿を見て、このメンバーとなら間違いなく乗り越えられるなと感じ、最終的な決断に至りました。
法人を、今までにない成長軌道に乗せていきたいと思っていたこともあり、タイミングもピッタリだったのもありますね。
今回の事業承継で、西日本に初めて進出された形となりましたが、慣れない土地でのマネジメントリスクについてはどのようにお考えでしたでしょうか。
黒瀬先生:既に、中部地方や関東地方で広域展開していたこと、医科も運営したこともあり、マネジメントリスクについてはそこまで不安視していませんでした。故理事長の想いやスタッフの皆さんが大事にされていることを汲み取りながらコミュニケーションをしていくこと、そしてお相手が大事にしていることを一緒に大事にすれば、マネジメント面で大きなトラブルになることは殆どありません。
それでも、最初はスタッフの皆さんもいきなり違う理事長がやってくることに不安感が大きく、多少のハレーションはありました。そこに関しては、これからの未来や、法人の理念、私自身の想い、皆さんと一緒に乗り越えていきたい気持ちを丁寧に伝えていくことで落ち着いたと思います。
今回の件で私自身も大きな学びをいただきました。
故理事長の診療に触れることで、うちの法人にも取り入れていきたい様々な発見がありました。違う文化に入っていくことで客観的にうちの法人を眺めることもでき、伸びしろを見つけることもできました。私自身も今回の件で、経営者としての成長実感があります。
また、ヒロデンタルクリニック様も、我々の積み重ねてきた知見を素直に受け入れてくださったことで、新患数も倍になりました。故理事長も大変素晴らしい方でしたが、二つの異なる文化を上手く混ざり合わせることで、非線形の結果につながることは証明できたと思っています。
今話していることとしては、スタッフの皆さんに当法人の基幹院に見学に来てもらい、相互に意見交換を行うことを計画しています。これからの展開が楽しみで仕方ないですね。
お話を進める中で、M&Aに対する不安な点などはありましたか?
奥様:自分自身としては、関わり合いの少ない先生、法人さんでしたので、故理事長が大事にしていたものを大事にしてくれるかどうかが不安でした。特に、スタッフを大事にしてくれるかどうかを気にしましたね。今まで積み上げてきた雰囲気や文化が壊れないか、うまく融合できるのかは最初から最後まで不安でした。故理事長の健康不安もあり、時間が少なく検討期間が限られていたのも怖かったですね。
黒瀬先生:うちには心から信頼しているCFOがいます。その方と本件について条件面含め確認しあい、進めていこうと合意形成して本件に臨んでいたので、最初から安心して進められました。私自身も、お金を払ってM&Aの勉強もしており、ベースの知識がある状態でしたので、お話をいただいた時から無茶なお話ではないと見えておりました。
CFOは当法人に長く勤めてくれていることもあり、歯科業界にも明るく、譲受後の成長可能性についても高いレベルで協議できるので、そこは本当に有難いことだなと感じております。
M&Aを進めていくにあたり、大変だったと思ったところがあればお教え下さい
奥様:従業員さん筆頭に、関係者への説明が大変でしたね。故理事長の急逝に伴い、葬儀の手配、事業承継の段取り、医院運営を継続するための調整なども、慣れないことばかりでしたので大変でした。毎日がバタバタでしたが、多くの方に支えていただいて、なんとか話を進めることができました。今でも感謝しております。
黒瀬先生:前にも述べましたが、常勤ドクターが非常勤ドクターに変わっていて、ドクター採用を急ぐ必要があったことですね。あとは、状況も状況だったため、一部の患者さんが離れてしまっており、もう一度当院にお越しいただくことが困難でした。
今は譲受して約2か月ですが、新しい患者さんも増えてきており、それを受け入れるドクター体制も整ってきているため、少しほっとしているところです。
船井総研がM&Aのご支援をさせて頂きましたが、どのような印象をお持ちでしょうか?
奥様:とても頼りになりました。専門的な話が多く、トラブルケースにも真摯に対応してくれました。何より事業承継を実現してくださったことでスタッフの雇用を守れたので、大変感謝しております。
黒瀬先生:誠心誠意対応してくれたと素直に思います。
故理事長にも、我々にも、どちらにも誠実に対応してくれました。有難うございます。
最後に、改めて、今回のM&Aのご感想をお聞かせください。また、歯科経営者で今後の出口戦略に悩まれている経営者様も多いと思います。M&Aで事業承継を実現されたご経験からアドバイスができることがあればお教え下さい。
奥様:故理事長が決断してくれていた方向性に身を任せてよかったと思います。黒瀬先生もCFOの方も本当に良くしてくださっていて、さくら会様に事業承継出来て幸運でした。
出口戦略に関しては、皆様御状況がバラバラですので安易に語ることはできないですが、信頼できる方が近くにいるということが大事だと思います。将来を考えてご不安があるのであれば、まずは信頼できる人から相談し始めるのが良いと思います。
黒瀬先生:今回、承継を決断して良かったと感じています。スタッフの皆さんにも喜んでもらえているそうです。最初はスタッフさんも不安で顔が引きつっていましたが、今は私のことを理事長と呼んでくれて、受け入れてくれました。奥様にも、当法人に任せて良かった、と言っていただけて嬉しく思います。
故理事長の築き上げてこられた歴史、患者さん、スタッフの皆さんを大切にすることこそが、故理事長の想いに報いることだと思っています。故理事長に恥ずかしくない医院づくりを、引き続き皆さんと進めていきます。
担当アドバイザーコメント
2024年の4月にご相談をいただき、そこから約5か月をかけて事業承継の伴走支援をさせていただきました。さくら会様という素晴らしいパートナーを得て、地域医療、および従業員様の雇用を守れたことは何よりもの誇りです。ただ、本件に関しては個人的に大きな後悔が残っています。それは故理事長がご存命の内に、事業承継を実現させられなかったことです。この気持ちは忘れず、健康不安や、後継者不在で廃業を選択せざるを得ないと考えている先生方の事業承継の力になることで、故理事長との約束を果たしていく決意です。