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M&Aのメリット・デメリット~譲渡側・譲受側ごとに解説~

  • 事業承継

M&Aは両者にとって、成長スピードを上げる機会になる等のメリットがある一方で、デメリットも存在します。これらを理解したうえで、M&Aを実行することで両者納得のいくM&Aを行うことができるようになりますので、是非、ポイントをおさえておいてください。

譲渡側(売却側)のM&Aのメリット

①後継者問題を解決できる

日本の中小企業の127万社が後継者不在と言われております。日本は歴史的に先祖代々続くオーナー経営者が多いのが特徴ですが、その中で後継者不在という問題が現実的に起こっております。M&Aで会社の株を売却することで、必要があれば譲り受け企業より経営者を送りこんでくれるようになるため、後継者を心配する必要がなくなるというメリットがあります。

②経営者を継続することもできる

一方で、オーナー経営者が株を譲ったからと言って、すぐに経営者を退任しなければならないわけではありません。株を譲渡した後も、社長として長年在籍することもできます。つまり、株式譲渡益を手にしたうえで、今まで通り経営者として仕事を継続することができるというメリットもあります。

※M&A時の交渉条件による部分が多く100%ではありません。

③創業者一族メリットとしての資産を得ることができる

創業者メリットとして、株を売却することで現金で対価を得ることができます。親族内で代々継いでいく場合には、贈与税や相続税などの税金を支払うのみで、中々、株を現金対価として受け取ることはできません。※ホールディングス化などを行い買い取る場合は別

第三者に買い取ってもらうことで資金を得ることができるのもM&Aで売却するメリットの一つと言えます。

④個人保証などが外れる

オーナー経営者であれば、個人保証が入っていたり、連帯保証人になっていたりするケースがほとんどです。M&Aで株式を売却すると、これらの保証が外れることとなり「肩の荷が下りた」とおっしゃられるオーナー経営者も多くいらっしゃいます。

⑤従業員の雇用を守ることができる

後継者がいない場合は廃業という選択肢を選ばなければならない時もあります。M&Aで株式譲渡を行うことで、後継者不在という事態を乗り越えることができるので、従業員の雇用を守ることができるようになります。

⑥事業の選択と集中ができる

M&Aでは事業譲渡などのスキームを使って、事業の一部を売却することも可能です。事業譲渡の場合は、会社に売却対価が入ってくるため、より伸ばしたい事業に投資を加速させることもできます。また、株式譲渡でも分社型分割スキームを使うことで同様に会社に譲渡対価を入れることもできます。

※新設分割型分割スキームを使うとオーナーに譲渡対価が入ってきます。

譲渡側(売却側)のM&Aのデメリット

①経営権が少なくなる

M&Aで譲渡した場合、経営者と残っても今までのようにすべての判断を自分で行えるわけではなくなります。決まりごとの元、一定以上の投資になると親会社への稟議が必要になったり、経費等に関しても定められた予算の中でやりくりしなければならないというケースもあります。(特に大手企業が譲り受け企業の場合は予算策定が厳格になるケースが多い)

また、売上や収益の成長率に関してもコミットメントラインがひかれる場合もあるので、オーナー経営者が売却後も経営者として残る場合は窮屈に感じることも多くあるようです。

②買い手が見つからないケース・譲渡対価が想定より少なくなるケースも

譲渡対価に関しては相場観やオーナーの希望対価額が基準で交渉が始まります。しかし、買い手が交渉のテーブルにのってこないケースもあります。その場合は、譲渡対価を下げて交渉を行うか、もしくは、売却をしないという判断を下さなければなりません。一方で買い手候補は存在するものの、デューデリジェンス(買収監査)を行う上で、想定外の簿外債務などが見つかったりすると価格が引き下げざるえない場合もあります。真っ当で誠実に経営を行っていても、会計処理の問題や先代から引き継ぐ以前の過去の資料が存在しない等が見つかった場合、譲渡対価の引き下げの要求をされる場合があります。

③取引先との関係性がこじれる場合がある

買い手が現在の納入先の競合企業である場合、現在の納入企業から取引を断られるケースなども想定されます。また、仕入れ先においても取引を断られるケースも稀にあります。一方で、買い手主導で現在の仕入れ先から別の仕入れ先へ切り替える、等の話も出てくるこることもあり、その際に今までの関係性がこじれるケースもあります。

④従業員が退職するケースもある

従業員が、オーナーが変わることによって不安を覚え退職をしてしまう、というケースもあります。誰もが突然の変化には驚きや不安を覚えることになりますので、丁寧に説明し従業員一人一人のメリットを伝えていくことで退職を防ぐこともできます。

⑤シナジーを生むことができる

M&Aで譲渡することで、販路拡大により売上を上げることのできる「販売シナジー」、仕入れ量が増えバイイングパワーが増すことで得られる「原価改善シナジー」、技術やノウハウを共有することで得られる「研究開発シナジー」、デジタル技術などを駆使して生産性の向上が生まれる「マネジメントシナジー」、大手にグループインすること資金調達が容易になる「財務シナジー」など様々なシナジーを得ることができます。

譲渡側(売却側)のM&Aを検討するタイミング

①年齢を考えるきっかけに検討

年齢を重ね45、50、55、60、65と5の倍数でM&Aの検討を考えるきっかけを持つオーナー経営者が多くいらっしゃいます。

②健康問題をきっかけに検討

中小企業の一番のリスクは、オーナー経営者の体調を崩すことでありますので、健康管理には細心の注意を払っていらっしゃる経営者が多いのも事実です。しかし、今まで一度も病気にかかったことはなかったものの、突然、病気をした、入院をした、ということがあった場合に検討される方も多くいらっしゃいます。

③市場環境の変化をきっかけに検討

競合状況や市場環境等の外部環境が変化していく時に、自社単体での経営で今後成長していくことができるのか、ということを考え、より成長していくためにM&Aで大手にグループインすることを検討される経営者様も多くいらっしゃいます。

譲受側(買収側)のM&Aのメリット

①時間を買うことができる

買い手のメリットの一番は、時間を買うことができる点です。M&Aで買収を行うということは、出店スピードや展開スピードが速まることと同じ効果を見込むことができます。自社での展開なら5年かかっていたことが、M&Aをすることですぐに達成をすることができる、というケースなら、5年分の時間を買ったことになります。

②様々なシナジーを生むことができる

M&Aで買収することで、販路拡大により既存ビジネスも含め売上を上げることのできる「販売シナジー」、仕入れ量が増えバイイングパワーが増すことで得られる「原価改善シナジー」、技術やノウハウを共有することで得られる「研究開発シナジー」など様々なシナジーを得ることができます。

③事業の多角化

自社が現状行っていない事業を買収する場合、多角化を進めることができます。自社内で新規事業を立ち上げて多角化をする場合と、すでに事業を行っている会社を買収する場合とでは、成功確率が2倍以上M&Aの方が高いという研究データもあります。事業の多角化を行っていくうえでは、M&Aを検討することは得策だと言えます。

④節税効果

スキーム次第にはなりますが、赤字の企業をM&Aで取り込むことによって自社の税金を抑えることができる場合もあります。ただし、スキームを間違えば逆に税金が多くのしかかる場合もありますので気を付ける必要があります。

譲受側(買収側)のM&Aのデメリット

①期待していた業績が出ない

M&A後に予想していた業績よりも下振れをしてしまう可能性はどのような企業においても存在します。外部環境の変化などで予想以上に収益力が下がってしまうと投資回収期間が伸びてしまうというデメリットもあります。また上場企業などにおいてはのれん代を減損しなければならないというリスクも伴います。

②見込んでいたシナジー効果がでない

M&A後、見込んでいたシナジー効果が出ない場合もあります。M&Aにおいてシナジー効果は買い手側としては見込んでおく必要がありますが、譲渡価格に関しては、シナジー効果は見込まず算定することが重要です。評価は現在の業績をもとにした評価、市場の相場観での評価、そして、その企業が独自で企業努力をした際に将来生み出す利益予測に対しての評価、といった点で評価額を算定する必要があります。仮にシナジー効果が生まれない場合でも、それが買収企業側のリスクにはならないようにヘッジしてM&A価格の妥当なラインを見極める必要があります。

③買収後に簿外債務や粉飾が見つかることがある

M&Aの講習期間中にデューデリジェンスを通して企業内部の調査を行うのですが、その際には見つからない簿外債務や粉飾が潜んでいることも中にはあります。その場合は訴訟などに巻き込まれてしまうリスクもあります。デューデリジェンスではしっかりとそのようなことがないかのチェックを行っていく必要があります。

④許認可を引き継げないケースがある

許認可制のビジネスを展開している企業を買収する際にはM&A後にその許認可が引き継ぐことができるのか、という点をあらかじめ確認しておく必要があります。また、譲渡のスキーム一つ間違えると許認可を一から取り直さなければならない、といったケースも出てきますので、M&Aのスキームにおいても適切なスキームで行うことを心がけましょう。

⑤従業員・取引先が離散してしまう場合がある

譲り受け手に不安や不満を持つ従業員も少なからず出てくるケースがあります。売却側の従業員の給与や福利厚生等の評価面で折り合いが合わない場合などが特に不満を抱く従業員が出てくるケースとなります。また、取引先も価格交渉に応じることができない、親会社が既存取引先のバッティング先になってしまう等の理由から、取引が継続できないというケースもあります。

譲受側(買収側)のM&Aを検討するタイミング

①新たな成長戦略・中期経営計画を策定するタイミング

M&Aを検討するタイミングでは投資資金に余裕がある状態、つまり手元資金にも余裕があり、資金調達も十分に可能な状態であることが大前提となります。本業が厳しいのにM&Aで買収を検討するといった状況にはなかなかなりにくいのも事実です。その中で、今後の事業展開をどのようにしていくか、中期経営計画などを策定するタイミングでM&Aを成長戦略の一つに盛り込む企業が多くあります。

現在と同じ業種を買収することによるスケールメリットを期待するケースと、新規事業展開を行うことを成長戦略に盛り込むケースと企業によって様々あります。

②同業の囲い込み(ロールアップ)により大きく成長が見込めるタイミング

M&Aの用語でロールアップという用語が良く使われます。ロールアップとは、同業他社を囲い込むことを表します。ファンド等で言えば、追加買収のことを表す言葉となります。ロールアップすることで、スケールメリットや先述したシナジーを見込むことができるタイミングであると判断した際にはM&Aを検討するタイミングと言えます。

③現状の業種とシナジーを生むことのできる異業種

よく垂直統合などの表現で現れるケースも多いですが、ビジネスの商流の中で川上にあるビジネス、川下にあるビジネス、もしくは、同じ顧客に別の商材を販売することのできるビジネスなどを積極的にM&Aにて買収している企業もあります。このような現状の業種とシナジーを見込むことのできる異業種が候補先と上がってきた際にM&Aを検討するというケースも多くあります。

ステークホルダーのM&Aのメリット・デメリット

①従業員のメリット・デメリット

従業員のメリットとしては、現在よりも大きな会社のグループ社員となることによって、待遇面の改善や福利厚生の充実などが行われるケースもあります。また、銀行からのローンが組みやすくなるといった副次的なメリットもあります。デメリットとしては今まで慣習で行っていたことを変化させなければならない、今までと違った企業文化に変わっていく、等があげられます。特に経営者が交代するケースなどは従業員にとっては転職したのと同じような感覚で捉えられることもあります。

②取引先のメリット・デメリット

取引先のメリットとしては未収リスクが少なくなる、取引規模が大きくなる可能性がある、等があげられます。一方でデメリットとしては、取引がなくなってしまう、という可能性もあります。

③金融機関のメリット・デメリット

金融機関も取引先同様、企業が成長することによって貸出金額が増えるケースもあるので、こちらはメリットとも言えます。また、貸し倒れリスクが下がることもメリットの一つです。一方でデメリットとしては、他行に借り換えをされてしまう可能性もありますので、メリットばかりとも言えません。

④行政や地域のメリット・デメリット

メリットとしては地元雇用の促進や業績向上による税収入の増加などがあげられます。一方で、合併などによる本社移転により税収入が減ってしまう可能性もあるので、その点はデメリットと言えます。

まとめ

M&Aに関しては、売り手・買い手ともにメリット・デメリットが存在します。また、当事者同士だけでなく、自社を取り巻くステークホルダーにもメリット・デメリットがあります。ただし、大局的な見方をすると、健全に企業が成長し永続的に存在し続けることがステークホルダーにとってのメリットであるとも言えます。

M&Aを行う際は、譲渡対価を含め大切なポイントがありますが、M&A後も企業経営は継続して行われていきますので、最終的にはお互いの企業が成長していけるパートナーであるかどうかを見極めることが重要となります。

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