ラーメン店を閉める前に|廃業と譲渡を比べて決めるための判断材料

ラーメン店を閉める前に|廃業と譲渡を比べて決めるための判断材料

ラーメン店を閉めると決める前に、確認しておきたいことが1つあります。

その店に値段がつくかどうかです。

廃業には費用がかかります。原状回復、設備の処分、従業員への対応に、手元から資金が出ていきます。

一方、第三者に引き継いでもらえれば、同じ店から対価が入ってくる形です。

同じ「やめる」でも、資金の向きが逆になります。

赤字だから買い手はつかない、と考えている方は少なくありません。

実際には、赤字の理由によって評価は分かれます。何が判断を分けるのかを、飲食業のM&Aを扱う立場から整理します。

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1. ラーメン店の倒産・廃業はいま何件起きているのか

まず、実際の数字を確認します。

2025年の倒産は59件、前年から25.3%減

帝国データバンクの調査によると、2025年のラーメン店の倒産は59件でした。過去最多だった2024年の79件から20件、25.3%減り、4年ぶりに前年を下回っています(「『ラーメン店』の倒産動向(2025年)」2026年1月10日公表)。

数字だけを見れば、状況は落ち着いたように見えます。

減ったのは経営環境が良くなったからではない

同じ調査には、もう一つの数字が示されています。

豚骨ベースのラーメン原価指数が、2020年を100として2025年に141まで上昇したことです。

5年で4割を超える原価上昇が起きています。

原価が上がり続けている環境で倒産が減ったという事実は、経営が楽になったことを意味しません。

実務の感覚では、法的な倒産手続きを取る前に、自主的に店を閉じる、あるいは他社に引き継いでもらうという判断が前倒しで行われるようになっています。

統計に出てこない閉店のほうが多い

同調査でも、個人店の閉業などを含めると実際にはより多くのラーメン店が市場から退出したとみられる、と指摘されています。

倒産は債権者がいて法的手続きに至った案件だけが数えられます。

借入がなく、賃貸借契約を解約して静かに閉じた個人店は、この59件には含まれません。

街の感覚として「よく閉まっている」と感じるのは、この差によるものです。

ラーメン業界全体でM&Aがどこまで増えているかについては、こちらのコラムもおすすめです。

『ラーメンのM&A|2026年の件数動向と譲渡相場、進め方を解説』

2. ラーメン店が続かなくなる理由

閉店に至る事情は店ごとに違いますが、数字の面では共通した圧力がかかっています。

原価が5年で4割上がった

先に触れた原価指数141という数字は、豚骨、小麦、食用油といった主要な原材料の値上がりを反映したものです。

仕入価格が4割上がったとき、1杯あたりの利益を維持するには価格改定が必要になります。

ところが、ラーメンは1杯の価格に心理的な上限が意識されやすい商品です。

近隣店との比較が働きやすく、単独で価格を上げると客数が落ちるという判断から、値上げを先送りしてきた店が多くあります。

その結果、原価率だけが上がり続ける構造になります。

人が採れず、人件費も上がっている

厨房の仕事は早朝の下ごしらえから始まり、ピーク時は体力を使います。

募集をかけても応募が集まらず、店主自身が入る時間が増えていきます。

採用できたとしても、最低賃金の引き上げが続いており、人件費の総額は下がりません。

原価と人件費の両方が上昇する局面では、売上が横ばいであれば利益は確実に減ります。

店主の体力と年齢という制約

数字以外の要因として大きいのが、店主自身の体力です。

早朝からの下ごしらえと長時間の立ち仕事を、60代、70代になっても同じ水準で続けるのは簡単ではありません。

体調を崩して営業日数を減らすと、売上が落ち、さらに人を雇う余裕がなくなります。

この循環に入ってから相談に来られる方が実際に多く、その段階では打てる手が限られます。

3. 廃業を選んだ場合に何が起きるか

廃業は、店を閉めて終わりではありません。手続きと費用が発生します。

原状回復と設備の処分に費用がかかる

賃借している店舗を返す際は、原状回復が必要になります。

契約内容によっては、内装をすべて撤去してスケルトンの状態に戻すよう求められます。厨房設備、ダクト、給排水の設備は撤去費用の対象です。

解約の予告期間も確認が必要です。

飲食店舗の賃貸借契約では、3か月から6か月前の予告が求められることが多く、その間の賃料は営業をやめても発生します。

居抜きで次の借主が見つかれば原状回復が不要になる場合もありますが、これは物件の条件と貸主の意向によります。

従業員への対応と取引先の整理

従業員がいる場合、解雇予告手当や未消化の有給休暇の精算が必要になります。

長く勤めてきた従業員ほど、次の職場が決まるまでの配慮が求められます。

取引先との関係も残ります。卸や仕入先への未払いを清算し、リース契約があれば残債の扱いを決めることになります。

負債と個人保証は消えない

最も重いのが、借入の扱いです。

店を閉めても、金融機関からの借入は残ります。多くの場合、店主個人が連帯保証人になっているため、返済義務は個人に及びます。

店舗という収益の源がなくなった状態で返済を続けることになり、自宅を処分せざるを得なくなった例もありました。

廃業を選ぶ場合は、この点を先に確認してください。

手元資金で負債を清算できるかどうかが、廃業という選択肢が現実的かどうかの分かれ目になります。

4. 廃業と譲渡を比べる

同じ「店をやめる」でも、結果は大きく変わります。

資金の向きが逆になる

廃業では、原状回復費、設備処分費、解約予告期間の賃料、従業員への精算金が出ていきます。加えて借入が残ります。

第三者に譲渡すれば、譲渡対価が入ります。

株式譲渡の形であれば、借入も含めて会社ごと引き継がれるため、個人保証から外れられる可能性があります。

原状回復も不要です。設備はそのまま使われ、従業員の雇用も引き継がれます。

廃業と譲渡の比較

項目 | 廃業 | 第三者への譲渡

資金の動き | 原状回復費・処分費・精算金が出ていく | 譲渡対価が入る

借入と個人保証 | 残る(個人に返済義務) | 引き継がれる場合がある

従業員 | 解雇・再就職先の確保が必要 | 雇用が継続される

屋号と味 | なくなる | 引き継がれる可能性がある

取引先 | 取引終了 | 継続される

必要な期間 | 3か月から6か月 | 半年から1年

順序は「まず譲渡を検討し、決まらなければ廃業」

実務でおすすめしているのは、この順序です。

まず譲渡の可能性を確認し、譲受候補が見つからなかった場合に廃業へ進みます。

逆の順序は取れません。原状回復を終えて設備を処分してしまえば、譲渡という選択肢は消えます。

譲渡の検討には半年から1年かかります。廃業の手続きにも3か月から6か月が必要です。

両方を視野に入れるなら、閉めたい時期の1年以上前から動き出すことになります。

5. 引き継ぎ手がつく店とつかない店

赤字であっても譲受候補が現れる店があります。何が違うのかを整理します。

引き継ぎ手がつきやすい条件

譲受企業が関心を示すのは、次のような店です。

• その地域で長く営業しており、名前が知られている

• 相場より低い家賃で賃貸借契約が続いている

• 駅前や商業施設内など、新規では取りにくい立地にある

• 赤字の理由が価格改定の先送りや設備投資の不足にある

このうち特に大きいのが、認知の蓄積です。

10年、20年と同じ場所で営業してきた事実は、資金では買えません。譲受企業がゼロから店を作る場合、ブランドを認知させるまでに数年かかります。

その時間を省けることが、評価につながります。

赤字であっても値がつくのは、譲受企業が見ているのが現在の利益ではなく、引き継いだ後に伸ばせるかどうかだからです。

券売機を導入していない、価格を据え置いている、仕入条件が不利といった状態は、資本力のある企業から見れば打ち手が残っている状態です。

引き継ぎ手がつきにくい条件

反対に、評価が難しくなるのは次のような場合です。

賃貸借契約の残存期間が短く、更新の可否が不透明な店は、物件と一体で価値を測れません。

店主個人のファンが客の中心を占めている店も、店主が退いた後の売上が読めないため慎重に見られます。

設備が老朽化し、譲受後すぐに大きな投資が必要になる場合も、その分が価格から差し引かれます。

手遅れになるライン

最も判断が難しいのが、時間切れです。

資金繰りが厳しくなってから相談を受けた案件では、候補先を複数並べて比較する余裕がありません。条件も相手の言い値に近づきます。

支払いが滞り始めた段階では、譲受企業側が引き継ぎたくない負債を抱えることになり、交渉自体が成立しなくなります。

目安として、あと1年は営業を続けられる資金があるうちに動き出せば、選択肢を残した状態で検討できます。

承継先として親族や従業員も含めて比べたい方は、こちらのコラムもおすすめです。

『ラーメン店の後継者問題|親族・従業員・第三者の承継先を比べて選ぶ』


まとめ|閉める前に値段を確認する

ラーメン店の倒産は2025年に59件と前年から25.3%減りましたが、原価指数は5年で141まで上昇しており、経営環境が好転したわけではありません。

統計に表れない閉店のほうが多いのが実情です。

廃業を選べば、原状回復費と設備処分費が出ていき、借入と個人保証は残ります。第三者に引き継いでもらえれば、対価が入り、従業員の雇用も続きます。

ただし、設備を処分した後では譲渡という選択肢は使えません。

次に取るべき行動は、賃貸借契約書を開いて、残存期間と解約予告期間を確認することです。

この2つの数字が、廃業にかかる費用と、譲渡に使える時間の両方を決めます。

そのうえで、自分の店に値段がつくのかどうかを、飲食業の案件を扱っている相手に一度確認しておいてください。閉めると決めてからでは、確認する意味がなくなります。

この分野における実務的なトラブル回避や、適正な価値算定については、税理士に相談することを推奨します。

法的・税務的な観点から最適な座組みを検討し、貴殿が大切にしてきた店舗の未来を共に守ります。

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よくあるご質問

Q. ラーメン店の倒産は増えているのですか?

2025年のラーメン店の倒産は59件で、過去最多だった2024年の79件から25.3%減り、4年ぶりに前年を下回りました(帝国データバンク、2026年1月10日公表)。ただし経営環境が改善したわけではなく、同じ調査で豚骨ベースのラーメン原価指数は2020年を100として2025年に141まで上昇しています。倒産に至る前に自主的に閉店や譲渡を選ぶ店が増えていることの裏返しでもあります。

Q. ラーメン店の廃業にはいくらかかりますか?

主な費用は、原状回復費、厨房設備やダクトの撤去費、解約予告期間中の賃料、従業員への解雇予告手当と有給の精算です。契約でスケルトン返しが求められる場合は撤去費が大きくなります。解約予告は3か月から6か月前が一般的で、その間の賃料は営業をやめても発生する点に注意が必要です。加えて金融機関からの借入は残り、個人保証があれば返済義務は店主個人に及びます。

Q. 赤字のラーメン店でも引き継ぎ手は見つかりますか?

赤字の理由によります。価格改定の先送り、券売機の未導入、仕入条件の不利といった打ち手の不足が原因であれば、資本力のある企業が引き継ぐことで収益が改善する見込みが立つため、譲受候補は現れます。地域で長く認知されている店や、相場より低い家賃で契約が続いている店ほど評価は高くなるでしょう。一方、立地や商品力に構造的な問題がある場合は難しくなります。

Q. 廃業と譲渡のどちらを先に検討すべきですか?

譲渡を先に検討してください。原状回復を終えて設備を処分した後では、譲渡という選択肢は使えません。逆に、譲受候補が見つからなかった場合は廃業へ進むという順序が取れます。譲渡の検討には半年から1年、廃業の手続きには3か月から6か月かかるため、店を閉めたい時期の1年以上前から動き出すと、両方を比べたうえで決められます。

Q. 店を閉めた後、借入はどうなりますか?

廃業しても借入は消えません。多くの場合、店主個人が連帯保証人になっているため、返済義務は個人に残ります。店舗という収益の源がなくなった状態で返済を続けることになる点が、廃業の最も重い部分です。一方、株式譲渡の形で会社ごと引き継いでもらう場合は、借入も引き継がれ、金融機関の同意が得られれば個人保証から外れられる可能性があります。廃業を検討する際は、手元資金で負債を清算できるかを先に確認してください。

山本瑛

(株)船井総研あがたFAS マネージングディレクター

上場企業の上席執行役員営業本部長として、グループ企業全体のM&A戦略による経営支援や資本提携、グループ再編に携わると共に営業部門を統括。船井総合研究所に入社後は、毎年、年間約10件のM&Aを成約に導く。過去最短でマネージングディレクターに昇格。プレイヤーとして第一線で活躍しながら、複数業種のチームメンバーを統括している。

山本瑛

(株)船井総研あがたFAS マネージングディレクター

上場企業の上席執行役員営業本部長として、グループ企業全体のM&A戦略による経営支援や資本提携、グループ再編に携わると共に営業部門を統括。船井総合研究所に入社後は、毎年、年間約10件のM&Aを成約に導く。過去最短でマネージングディレクターに昇格。プレイヤーとして第一線で活躍しながら、複数業種のチームメンバーを統括している。