ラーメン店ののれん代は、営業利益の2年分から4年分が目安です。これを時価純資産に加えた金額が、譲渡価格の水準になります。
厨房設備と内装の残存簿価を足しただけでは、実際の譲渡額には届きません。
その差額を埋めているのがのれん代で、ラーメン店の譲渡交渉で金額が動くのは、ほとんどがこの部分です。
のれん代がどう計算され、譲渡後に譲受企業側でどう処理されるのか、そして税務上の扱いが手取り額にどう影響するのかを、飲食業のM&Aを扱う立場から整理します。
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1. ラーメン店ののれん代とは何を指すのか
言葉の定義から確認します。
帳簿に載らない稼ぐ力に対する対価
のれんは、その会社が平均的な同業他社を上回って稼げる力に対して支払われる金額です。
会計の世界では超過収益力と呼ばれます。
たとえば時価純資産が1,000万円の会社が3,000万円で譲渡されたとすると、差額の2,000万円がのれんです。
譲受企業は、この2,000万円を将来の利益で回収できると判断したことになります。
ラーメン店の場合、その判断材料になるのがブランドの認知度、立地、レシピ、常連の顧客基盤です。
どれも貸借対照表には現れません。
営業権・のれん代・のれんは実務上ほぼ同じものを指す
現場では、のれん代、のれん、営業権という言葉が混在します。
厳密には、営業権は法律上の用語、のれんは会計上の用語、のれん代は交渉の現場で使われる呼び方です。
ただし、ラーメン店の譲渡交渉で使われる場面では、いずれも「帳簿に載らない部分への対価」を指しており、実務上は区別せずに扱って差し支えありません。
税務上は資産調整勘定という別の呼び方が使われますが、これは後述します。
居抜き売却にはのれん代が乗らない
同じ「店を手放す」でも、居抜き売却ではのれん代がつかないことがほとんどです。
居抜きで引き渡すのは厨房設備、内装、什器といった造作だけで、屋号もレシピも顧客基盤も引き継がれません。
稼ぐ力そのものが移らないため、対価は資産の価値にとどまります。
長年積み上げた認知に値段をつけたいのであれば、株式譲渡か事業譲渡を検討してください。
手法ごとの違いについては、こちらのコラムもおすすめです。
『ラーメン屋の株式譲渡と事業譲渡|手法の違いと選び方を解説』

2. のれん代の計算方法
中小規模の譲渡で広く使われている考え方を示します。
ラーメンのM&A|2026年の件数動向と譲渡相場、進め方を解説
年買法|時価純資産に営業利益の数年分を加える
計算式は次の形です。
譲渡価格 = 時価純資産 + 営業利益 × 年数
時価純資産は、資産を現時点の価値に置き直して負債を差し引いた金額です。
厨房設備は簿価より実勢価格が低くなることが多く、逆に長く保有している不動産があれば簿価を上回ります。
これに営業利益の数年分を乗せます。
この上乗せ部分がのれん代で、加算する年数はおおむね2年から4年の範囲に収まることが多いものです。
計算例
時価純資産1,200万円、営業利益500万円のラーメン店を例にします。
加算年数 | のれん代 | 譲渡価格
2年 | 1,000万円 | 2,200万円
3年 | 1,500万円 | 2,700万円
4年 | 2,000万円 | 3,200万円
同じ会社でも、年数が2年になるか4年になるかで譲渡価格は1,000万円変わります。交渉の実体は、この年数をめぐるやり取りです。
年数を動かす要因
加算する年数を押し上げるのは、次のような条件です。
• 相場より低い家賃で賃貸借契約が長期にわたって続いている
• 駅前や商業施設内など、新規では取りにくい立地にある
• 複数店舗を同じ方式で運営できている
• 味を数値で管理する仕組みが整っている
逆に、店主個人への依存が強い場合や、賃貸借契約の残存期間が短い場合は年数が短く見積もられます。
何を整えれば年数が伸びるのかについては、こちらのコラムもおすすめです。
『ラーメン店の評価基準|譲受企業が見る5項目と高値譲渡の条件』

年買法以外の算定方法
規模が大きい案件や、複数店舗を展開している会社では、別の方法が併用されます。
EBITDA倍率法は、営業利益に減価償却費を足した金額に一定の倍率を掛ける方法です。
設備投資の負担が大きいラーメン店では、減価償却費を戻すことで実際のキャッシュを生む力が見えやすくなります。
DCF法は将来のキャッシュフローを現在価値に割り戻す方法で、理論上は最も精緻ですが、将来予測の前提次第で結果が大きく動きます。
中小規模のラーメン店では、年買法を土台に、必要に応じて他の方法で検証する進め方が一般的です。
3. ラーメン店ののれん代を構成するもの
のれん代の中身を分解すると、業態特有の事情が見えてきます。
ブランドの認知と営業年数
短期間で作れないのが、地域での認知です。10年、20年と同じ場所で営業してきた事実は、資金では買えません。
譲受企業がゼロから店を作る場合、認知させるまでに数年かかります。
その時間を省けることが、そのままのれん代として計算されます。
立地と賃貸借契約の条件
10年以上前に結ばれた契約がそのまま続いていれば、現在の相場より低い家賃で営業していることになります。
この差額は譲受後も毎月発生する利益です。
月額10万円の差があれば年間120万円、契約が続く限り積み上がります。契約が承継できる前提であれば、のれん代に明確に反映されます。

レシピと味を再現する仕組み
スープの配合やタレの製法が差別化されていることは価値になりますが、条件がつきます。誰が作っても同じ味が出せる状態になっていることです。
店主の感覚だけで味が決まっている場合、譲受企業は店主が退いた後の味を保証できません。
この状態では、レシピをのれん代として計算しにくくなります。
海外市場での価格差
国内で1,000円から1,500円で提供されているラーメンは、海外では1杯3,000円から4,000円で売られています。
この価格差を前提にのれん代を見積もる譲受企業もあります。
訪日客に支持されている店であれば、そのブランドをそのまま海外に持ち出す構想が描けるためです。
ただしこれも、味を再現する仕組みが整っている店に限られます。
4. のれんの会計処理と税務上の扱い
譲渡の方式によって、譲受企業側での処理が変わります。
ここが譲渡対価の交渉にも影響します。
株式譲渡の場合
株式譲渡では、譲受企業の個別財務諸表にのれんは計上されません。
株式という資産を取得した形になるためです。
譲受企業が連結財務諸表を作成する場合に、連結上ののれんが認識されます。
税務上、このれんは損金にならず、譲受企業に節税の効果は生じません。
譲渡側から見ると、譲渡代金は株主である経営者個人に入り、譲渡益に対して所得税と住民税が課されます。
事業譲渡の場合
事業譲渡では、譲受企業の個別財務諸表にのれんが計上されます。
会計上、のれんは日本基準では20年以内の期間にわたって規則的に償却するものとされています。
実務上は5年から10年に設定される例が多く見られます。
税務上は資産調整勘定として扱われ、原則として60か月にわたって均等に損金算入されるとされています。
この損金算入が認められることが、譲受企業にとって事業譲渡を選ぶ理由の一つです。

損金算入が譲渡対価に影響する理由
譲受企業が事業譲渡でのれんを損金算入できるということは、その分だけ税負担が減るということです。
そのため、同じ事業に対して事業譲渡のほうが高い対価を提示できる余地が生まれる場面があります。
一方、譲渡側は法人税と消費税の負担が発生するため、手取り額では株式譲渡のほうが有利になることもあります。
どちらが有利かは、残っている借入額、繰越欠損金の有無、退職金の支給余地によって変わります。
税務の取り扱いは事案ごとに判断が分かれるため、具体的な試算は税理士に確認してください。
5. 負ののれんと減損というリスク
のれんは必ずプラスになるとは限りません。
負ののれんが生じる場合
譲渡価格が時価純資産を下回ると、差額は負ののれんになります。
ラーメン店で生じやすいのは、簿外債務が見つかった場合です。
未払い残業代、未計上のリース残債、原状回復の義務といった項目が買収監査で明らかになると、その分が差し引かれます。
賃貸借契約の残存期間が短く更新が不透明な場合も、将来の収益が読めないため評価が下がります。
譲受企業にとっての減損リスク
譲受後に計画していた収益が上がらなければ、計上したのれんの価値が失われたと判断され、減損損失を計上することになります。
金額が大きい場合、譲受企業の業績に直接影響します。
このリスクがあるため、譲受企業は事業計画の実現可能性を慎重に確認します。
譲渡側から見れば、なぜその利益が上がるのかを数字で説明できることが、のれん代を認めてもらううえで重要になります。

店主の退任がのれん代に与える影響
店主個人のファンが客の中心を占めている、味の決定が店主の感覚だけに依存している、取引先との関係が店主個人で成り立っているといった状態では、店主の退任後に売上が維持される保証がありません。
この場合、のれん代は圧縮されるか、退任後の業績に応じて対価を後払いする条件が付くことがあります。
反対に、味が数値で管理され、権限が店長やキーマンに移っていれば、店主の退任はのれん代に影響しません。
まとめ|のれん代は年数の交渉で決まる
ラーメン店ののれん代は、営業利益の2年分から4年分が目安です。
同じ会社でも年数が2年か4年かで譲渡価格は倍近く変わり、交渉の実体はこの年数をめぐるやり取りになります。
年数を動かすのは、賃貸借契約の条件、地域での認知、味を再現する仕組み、そして店主への依存度です。
譲渡の方式によって譲受企業側の税務処理が変わり、それが提示できる金額にも影響します。
次に取るべき行動は、直近3期分の決算書から営業利益の平均値を出し、2倍と4倍を計算してみることです。
そこに時価純資産を足した2つの金額が、自店の譲渡価格の上限と下限の目安になります。
その幅のどこに着地するかは準備次第なので、開きが大きいと感じたら、飲食業の案件を扱っている相手に何が足りないかを確認してください。
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よくあるご質問
Q. ラーメン店ののれん代の相場はいくらですか?
営業利益の2年分から4年分が目安です。この金額を時価純資産に加えたものが譲渡価格の水準になります。営業利益が500万円であれば、のれん代は1,000万円から2,000万円の範囲です。加算される年数を左右するのは、地域での認知度、賃貸借契約の条件、味を再現する仕組みの有無、店主への依存度の4点です。相場より低い家賃で長期契約が続いている店は年数が上振れします。
Q. 赤字のラーメン店でものれん代はつきますか?
つく場合があります。譲受企業が見ているのは現在の利益ではなく、引き継いだ後に伸ばせるかどうかです。赤字の理由が価格改定の先送りや設備投資の不足であれば、資本力のある企業が引き継ぐことで収益が改善する見込みが立ちます。地域で長く認知されている、一等地に出店している、相場より低い家賃で契約が続いているといった条件があれば、赤字であってものれん代の対象になります。
Q. 事業譲渡でのれんを償却すると節税になるのはなぜですか?
事業譲渡で生じた差額は税務上の資産調整勘定として扱われ、原則として60か月にわたって均等に損金算入されるとされているためです。損金に算入された分だけ課税所得が減り、譲受企業の税負担が軽くなります。株式譲渡では譲受企業の個別財務諸表にのれんが計上されないため、この効果は生じません。取り扱いは事案ごとに判断が分かれるため、税理士への確認をおすすめします。
Q. のれんの減損とはどのような状態ですか?
譲受後に計画していた収益が上がらず、計上したのれんの価値が失われたと判断された状態です。この場合、譲受企業は減損損失を計上することになり、金額が大きければ業績に直接影響します。このリスクがあるため、譲受企業は事業計画の実現可能性を慎重に確認します。譲渡側としては、なぜその利益が上がるのかを数字で説明できる状態が、のれん代を認めてもらう前提です。
Q. 店主が辞めるとのれん代は下がりますか?
店主への依存度によります。店主個人のファンが客の中心を占めている、味の決定が店主の感覚だけに依存している、取引先との関係が店主個人で成り立っているといった状態では、のれん代が圧縮されるか、退任後の業績に応じて対価を後払いする条件が付くことがあります。反対に、味が数値で管理され、権限が店長やキーマンに移っていれば、店主の退任はのれん代に影響しません。