『ラーメンのM&A事例|松屋・吉野家・トリドールの譲受戦略と身の丈の見極め』

『ラーメンのM&A事例|松屋・吉野家・トリドールの譲受戦略と身の丈の見極め』

ラーメンのM&A事例で直近もっとも規模が大きいのは、2025年12月に松屋フーズホールディングスが「六厘舎」「舎鈴」「ジャンクガレッジ」を展開する松富士食品を91億円で子会社化した案件です。

牛丼チェーンがつけ麺ブランドに91億円を投じたこの取引は、ラーメン業態の評価が変わったことを示しました。

ただし、他社の事例をそのまま自社に当てはめても答えは出ません。

91億円の案件と、年商3億円の3店舗を譲り受ける案件では、見るべき点も失敗の仕方も違います。

公表されている大手の譲受(買収)から何を読み取るべきなのか、そして自社が譲受に動くときはどの規模から始めるべきなのかを、実際に飲食業のM&Aを扱う立場から整理します。

経営の正解は、一つではありません。まずは出口戦略の『選択肢』を可視化する診断ツールを手に取り、次なるステージへの展望を具体化する準備を始めてください。プロの目利きで自社の『真価』を知ること。それが、後悔のない決断への第一歩です。

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1. ラーメンのM&A事例|2016年から2025年に何が起きたか

公表されている案件のうち、譲受側の戦略がはっきり読み取れる3件を取り上げます。

松屋フーズホールディングス×松富士食品(91億円)

2025年12月15日、松屋フーズホールディングスが松富士食品を子会社化すると発表しました。

譲受額は91億円です。松富士食品は「六厘舎」「舎鈴」「ジャンクガレッジ」といったブランドを約120店舗展開しており、つけ麺の分野では確立した地位を持っていました。

注目すべきは、松屋フーズがラーメンを第3の柱と位置づけた点です。

牛丼とトンカツに続く事業として、既に完成しているブランド群をまとめて取りに行きました。

120店舗を自力で作るには10年単位の時間がかかります。その時間を91億円で買った取引と読むことができます。

吉野家ホールディングスは2016年から積み上げてきた

先行していたのは吉野家ホールディングスです。2016年に「せたが屋」を傘下に収めたのを皮切りに、「ばり嗎」「キラメキノトリ」と譲受を重ねてきました。

2030年2月期までにラーメン事業で500店舗・400億円という目標を掲げています。

松屋が1件でまとめて取りに行ったのに対し、吉野家は10年近くかけて複数のブランドを積み上げました。

同じ方向を目指しながら、進め方は対照的です。

どちらの手法にも理屈があります。まとめて取れば一気に規模が立ち上がる代わりに、統合の負荷が一度に来ます。

積み上げていけば1件あたりの負荷は小さい一方、規模が揃うまでに時間が必要です。

自社の資本力と、社内に統合を担える人材がどれだけいるかで、選ぶ道が変わります。

トリドールホールディングス×ZUNDは34店舗を100店舗にした

譲受後の伸ばし方が見える例として、トリドールホールディングスによるZUNDの譲受があります。

2017年11月、トリドールは「ラー麺ずんどう屋」を運営するZUNDの株式80%を取得しました。

当時は国内33店舗と海外1店舗、年商は約36億円です。

姫路発祥の背脂系濃厚とんこつとして味の評価は高かったものの、全国チェーンの規模ではありませんでした。

その後、丸亀製麺で培ったチェーンストア運営のノウハウを持ち込み、2024年11月に100店舗を達成しています。7年で3倍近い店舗数です。

譲渡側が持っていたのはブランドと味、譲受側が持っていたのは店舗展開の仕組みでした。

この組み合わせが噛み合ったために伸びたのであり、ブランドを買っただけで同じ結果が出るわけではありません。

3件に共通する狙いは「時間を買う」こと

3件に共通するのは、新規出店との比較で判断されている点です。

いま新しく店を出そうとすると、採用費が上がり、新規取引のため仕入条件は不利になり、建築費も上昇しています。

加えて、立地の良い物件は既に押さえられています。

実務でよく見るのは、ブランドとしての勢いは落ちているものの一等地を長く確保している老舗、という構図です。

そうした物件が新規募集で出てくることはほとんどありません。

ゼロからブランドを立ち上げて認知を作る時間まで含めると、既にあるものを引き継ぐほうが早く、結果として安く済みます。

ラーメン業界全体でM&Aがどこまで増えているかは、こちらのコラムもおすすめです。

『ラーメンのM&A|2026年の件数動向と譲渡相場、進め方を解説』

 

2. 譲受企業はラーメン店の何を見ているのか

譲受を検討する側に立つと、判断基準は1つに集約されます。

判断の軸は「引き継いだ後に伸ばせるか」

譲受企業が最初に確認するのは、現在の利益額ではありません。

引き継いだ後にレバレッジがかけられるかどうかです。

ラーメン業態がこの観点で評価されるのは、打ち手が残っているケースが多いためです。

伝票での注文を券売機に切り替える、タッチパネルを導入する、仕入をグループでまとめるといった手が、そのまま残っています。

資本力のある企業が引き継いだ直後にこうした投資を実行すると、同じ店舗が別の収益性を持つようになります。

だからこそ、いま赤字の店にも値がつく余地があります。

赤字の理由が立地や商品力ではなく、価格改定の先送りや設備投資の不足であれば、そこは伸びしろとして読まれます。

評価される5つの要素

実務上、ラーメン店の評価で重く見られるのは次の点です。

• ブランドの認知度と、それが築かれた年数

• 出店している立地と、賃貸借契約の条件

• 多店舗展開やフランチャイズ化の余地があるか

• セントラルキッチンを持っているか、持てる余地があるか

• スープやタレのレシピが差別化されているか

このうち、短期間で作れないのはブランドの認知度です。

地域で長く名前が通っている店は、その一点で評価されます。設備やレシピの整備は譲受後にも進められますが、認知の蓄積だけは時間でしか作れません。

社長が広告塔になっている店は評価が下がる

譲受企業が必ず確認するのが、社長への依存度です。

社長がいるから売上が立っているのであれば、その社長が退いた後に売上が維持される保証がありません。

メディアに頻繁に登場する店主ほど、この点は厳しく見られます。

店主のファンが客の中心を占めている店は、譲渡後に客数が落ちるリスクを抱えているためです。

評価の対象になるのは、社長個人ではなくブランドに価値が蓄積している状態です。

店主が変わっても味と接客が変わらない、という説明が数字で成り立つ会社が高く評価されます。

1店舗あたりの収益は最後に確認する

1店舗あたりの売上と利益も当然見ますが、実務上は最後に確認する項目です。

先にブランドと立地と仕組みを見て、伸ばせる見込みが立った後に、現状の数字がどこにあるかを確かめる順序です。

数字が良くても伸びしろがなければ、支払える金額は限られます。

逆に数字が悪くても打ち手が残っていれば、譲受企業は前向きに検討します。

 

3. ラーメン店の譲受で得られるもの

譲受を決める理由は、単純な売上の積み上げだけではありません。

当社でフードビジネスのM&Aを担当するコンサルタントは、狙いを6つに整理しています。

1つ目は業態の拡大です。既存業態が原材料価格の変動に弱い場合、隣接する業態を持つことで業績の振れ幅を抑えられます。

牛丼2社がラーメンに向かったのは、この理由が大きいものです。

2つ目は地域の拡大、3つ目は出店の加速です。自社が手薄なエリアで既に認知されているブランドを引き継げば、その地域への参入が一足飛びに進みます。

物件を探して契約し、内装を入れて人を集めるという工程が丸ごと省けます。

4つ目は人材の獲得です。

店長クラスの人材は採用市場で取り合いになっており、育成にも時間がかかります。

組織ごと引き継ぐことで、この課題に手が届きます。

5つ目はコストの削減です。

仕入をまとめることでスケールメリットが効き、原材料費の条件が改善します。

6つ目は海外展開です。国内で1,000円から1,500円のラーメンは海外では1杯3,000円から4,000円で提供されており、味を再現する仕組みが整っているブランドであれば、この価格差を取りに行くことができます。

 

4. 身の丈を超えた譲受が本業を潰す

ここが、他社の事例を読むときに最も注意が必要な部分です。

譲渡企業の規模が大きいからと飛びつかない

M&Aで失敗する企業には共通した型があります。

譲渡企業の売上規模が大きいことに引かれて、自社の身の丈に合わない案件に手を出すケースです。

失敗したときの影響は、譲り受けた事業だけにとどまりません。

資金と人員が新しい事業に吸い上げられ、本業まで傾きます。実際に、M&Aの失敗が本業の経営を圧迫し、会社全体が立ち行かなくなった例があります。

91億円の案件が成立するのは、その規模を吸収できる体力があるからです。

自社規模の3分の1以下から始める

当社が推奨しているのは、自社の規模に対して3分の1以下の案件から入ることです。

10店舗を運営している企業であれば、まずは1店舗か2店舗の譲受から始めます。

小さく見えるかもしれませんが、この規模でも、実際に引き継いでみると想定していなかった論点が必ず出てきます。

従業員の反応、取引先との関係、店舗ごとのオペレーションの差といったものです。

こうした経験を積んだうえで次に進むほうが、結果として早く規模が作れます。

先に触れた吉野家ホールディングスが2016年から10年かけて積み上げてきたのも、同じ考え方の延長線上にあります。

横展開かドミナントかを先に決める

規模の次に決めるべきなのは、広げ方の型です。

1つのブランドを全国に横展開していくのか、特定エリアに複数ブランドを集中させるドミナント型で進めるのか、この2つでは必要な体制がまったく違います。

横展開なら本部機能とマニュアルの整備が要になり、ドミナントならエリア単位での人材配置と物流が要になります。

自社の既存事業がどちらの型に近いかによって、選ぶべき案件も変わります。

案件が出てから考えるのではなく、先に自社のM&A戦略を決めておくことで、検討すべき案件とそうでない案件の線が引けます。

5. 譲り受けた後の100日で決まること

契約が終わった時点では、まだ何も実現していません。

最初の100日は現場に入る期間にあてる

譲渡後の従業員が抱えるのは、待遇が下がるのではないか、自分たちのやり方が否定されるのではないか、という不安です。

この不安が解消されないまま数か月が過ぎると、中心にいる人材から順に離職が始まります。

実務で有効なのは、譲受側の担当者が現場に入ることです。

厨房に立ち、同じまかないを食べ、オペレーションの理由を聞きます。

この期間を省いて本部主導で仕組みだけを変えると、現場の協力が得られません。

ラーメン業態は師弟関係が残る職場も多く、中心にいる職人が辞めると周囲がまとめて抜ける事態も起こります。

待遇の改善という説明と、これまでのやり方を尊重する姿勢の両方が必要になります。

仕組みの変更は順序を守る

譲受後に打てる手は、券売機やタッチパネルの導入、セントラルキッチンへの集約、仕入先の切り替えといくつもあります。

ただし同時に着手すると現場が混乱します。

実務上は、従業員の待遇や雇用条件に関わる部分を先に固め、オペレーションの変更はその後に回す順序が取られます。

安心が先、効率化が後という順番です。

味に関わる部分の変更は最も慎重に扱う必要があります。

原材料の切り替えでコストは下がっても、常連が離れれば売上が落ちます。

数値で味を管理する仕組みが整っていない段階での変更は避けるのが賢明です。

譲渡側の立場で、どの項目がどう評価されるのかを確認したい方は、こちらのコラムもおすすめです。

『ラーメン店の評価基準|譲受企業が見る5項目と高値譲渡の条件』

 

まとめ|事例から読むのは金額ではなく順序

松屋フーズホールディングスは91億円を一度に投じ、吉野家ホールディングスは10年をかけて積み上げ、トリドールホールディングスは34店舗を100店舗に伸ばしました。

公表されている3件から読み取るべきなのは金額の大きさではなく、それぞれが自社の体力に合わせて進め方を選んでいるという点です。

譲受を検討する場合、次に取るべき行動は、自社の年商または店舗数を3で割った数字を出すことです。

その規模に収まる案件から検討を始めれば、失敗しても本業が揺らぎません。

そのうえで、1ブランドの横展開とエリア集中型のどちらが自社に向いているかを整理しておくと、案件が出てきたときに判断が速くなります。

案件情報を集める前に、この2点を飲食業のM&Aを扱っている相手と詰めておくことをおすすめします。

知識を得るだけでは、未来は変わりません。激変する環境下で、貴社の選択肢が狭まってしまう前に『攻めの出口戦略』を。

独自のノウハウを凝縮した出口戦略診断ツールをダウンロードし、その上で、プロの目利きで『自社の真価』を直接確かめる。

経営者としての集大成を、最も価値ある形で次へ繋ぐ準備は、今、ここから始まります。

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あるご質問

Q. 松屋はラーメン店を譲り受けたのですか?

松屋フーズホールディングスは2025年12月15日、つけ麺「六厘舎」を手がける松富士食品を91億円で子会社化すると発表しました。松富士食品は「六厘舎」「舎鈴」「ジャンクガレッジ」などのブランドを約120店舗展開しています。松屋フーズは牛丼とトンカツに続く第3の柱としてラーメン事業を位置づけており、単一の原材料に業績が左右される構造から抜け出す狙いがあります。

Q. 吉野家が譲り受けたラーメンブランドはどこですか?

吉野家ホールディングスは2016年に「せたが屋」を傘下に収めたのを皮切りに、「ばり嗎」「キラメキノトリ」と譲受を重ねてきました。2030年2月期までにラーメン事業で500店舗・400億円という目標を掲げています。1件でまとめて規模を取るのではなく、10年近くかけて複数ブランドを積み上げる進め方を選んでいる点が特徴です。

Q. ラーメン店を譲り受けるとき、どのくらいの規模から始めるべきですか?

自社の規模に対して3分の1以下の案件から始めることをおすすめします。10店舗を運営している企業であれば、まずは1店舗から2店舗の譲受が適切な水準です。譲渡企業の売上規模が大きいことに引かれて身の丈を超えた案件に手を出すと、資金と人員が吸い上げられて本業まで傾きます。小さく始めて統合の経験を積むほうが、結果として早く規模が作れます。

Q. 譲り受けた後、どのくらいで収益は改善しますか?

券売機やタッチパネルの導入、仕入条件の見直しといった打ち手は、着手から半年程度で数字に表れ始めます。ただし従業員の離職が起きると効果が相殺されるため、最初の100日は待遇や雇用条件を固めることに充て、オペレーションの変更はその後に回す順序が有効です。味に関わる原材料の切り替えは、数値で味を管理する仕組みが整うまで待つのが賢明です。

Q. 赤字のラーメン店を譲り受ける意味はありますか?

赤字の理由によります。立地が悪い、商品力が落ちているといった構造的な理由であれば、譲受後も改善は難しいものです。一方で、価格改定を先送りしている、券売機を導入していない、仕入条件が不利といった打ち手の不足が原因であれば、資本力のある企業が引き継ぐことで収益が改善する見込みが立ちます。地域で長く認知されている店ほど、この評価を受けやすくなります。

山本瑛

(株)船井総研あがたFAS マネージングディレクター

上場企業の上席執行役員営業本部長として、グループ企業全体のM&A戦略による経営支援や資本提携、グループ再編に携わると共に営業部門を統括。船井総合研究所に入社後は、毎年、年間約10件のM&Aを成約に導く。過去最短でマネージングディレクターに昇格。プレイヤーとして第一線で活躍しながら、複数業種のチームメンバーを統括している。

山本瑛

(株)船井総研あがたFAS マネージングディレクター

上場企業の上席執行役員営業本部長として、グループ企業全体のM&A戦略による経営支援や資本提携、グループ再編に携わると共に営業部門を統括。船井総合研究所に入社後は、毎年、年間約10件のM&Aを成約に導く。過去最短でマネージングディレクターに昇格。プレイヤーとして第一線で活躍しながら、複数業種のチームメンバーを統括している。