ラーメン屋のM&Aで使われる手法は、株式譲渡と事業譲渡の2つです。加えて、営業権を含まない居抜き売却という選択肢もあります。
どれを選ぶかで、手元に残る金額も、引き継がれる契約も、税金の計算方法も変わります。
法人で運営しているのか個人事業なのか、全店舗を手放すのか一部だけかによって、取れる手法は絞られます。
3つの違いと、自店がどれに当てはまるかの見分け方を、飲食業のM&Aを扱う立場から整理します。
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1. ラーメン屋のM&Aで使われる3つの手法
まず全体像を押さえます。
株式譲渡|会社そのものを引き継いでもらう
株式会社としてラーメン店を運営している場合に取れる手法です。
株主である経営者が保有株式を譲受企業に渡し、会社ごと引き継いでもらいます。
会社の中身は変わらないため、店舗の賃貸借契約、従業員の雇用契約、飲食店営業許可、取引先との契約は原則としてそのまま残ります。
看板も法人格も継続するので、外から見て何が変わったか分かりにくいのが特徴です。
譲渡代金は株主である経営者個人に入ります。
事業譲渡|店舗と資産を個別に引き継いでもらう
会社ではなく、事業を構成する資産を個別に譲り渡す手法です。
個人事業としてラーメン店を営んでいる場合、株式が存在しないため、取れるのはこちらになります。
法人であっても、複数店舗のうち一部だけを手放したい場合や、ラーメン事業だけを切り離して他の事業は残したい場合には、事業譲渡を選びます。
契約は個別に結び直すことになります。
賃貸借契約は貸主の承諾を得て巻き直し、従業員とは新たに雇用契約を結び、飲食店営業許可も譲受側が取り直す必要があります。
譲渡代金の受取先は、経営者個人ではなく会社です。

居抜き売却|造作設備だけを引き渡す
厨房設備、内装、什器といった造作を次の借主に引き渡す方法です。
店舗物件の売買に近い取引で、M&Aとは性質が異なります。
引き渡すのは物理的な設備だけで、屋号、レシピ、常連の顧客基盤、従業員は引き継がれません。
そのため、のれん代にあたる営業権が価格に乗らないことがほとんどです。
手続きは早く、1か月から2か月で完了する例もあります。
「早く閉めたい」場合の選択肢としては現実的ですが、長年積み上げた認知やレシピに値段をつけたいのであれば、株式譲渡か事業譲渡を検討してください。
2. 株式譲渡と事業譲渡はどこが違うか
実務で差が出るのは、契約の引き継ぎ、負債の扱い、税金の3点です。
3つの手法の比較
項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 | 居抜き売却
取れる事業形態 | 法人のみ | 法人・個人事業 | 法人・個人事業
賃貸借契約 | そのまま継続 | 貸主の承諾を得て巻き直し | 次の借主が新規契約
従業員の雇用 | そのまま継続 | 個別に再契約 | 引き継がれない
飲食店営業許可 | そのまま継続 | 譲受側が取り直し | 譲受側が取り直し
負債・借入 | 会社ごと引き継がれる | 原則として残る | 残る
屋号・レシピ | 引き継がれる | 契約で定めれば引き継がれる | 引き継がれない
代金の受取先 | 株主である経営者個人 | 会社 | 資産の所有者
一部店舗だけの譲渡 | できない | できる | できる

負債と個人保証の扱いが最も大きな違い
ラーメン店は設備投資の借入が残っているケースが多く、ここが選択を左右します。
株式譲渡では、借入も会社に付いたまま引き継がれます。
金融機関の同意が得られれば、経営者個人の連帯保証を外せる可能性があります。
事業譲渡では、借入は原則として譲渡する会社に残ります。
譲渡代金で返済することになり、代金が残債に届かなければ個人保証の問題は解消されません。
借入が重い場合、株式譲渡のほうが経営者にとって有利になる場面が多くなります。
税金の計算方法が変わる
株式譲渡では、譲渡益に対して所得税と住民税が課され、上場していない株式であっても分離課税として扱われるのが一般的です。
代金は経営者個人に入るため、会社を経由せずに手元に残ります。
事業譲渡では、譲渡益は会社の利益として法人税の対象です。
経営者個人が資金を受け取るには、役員退職金や配当といった形で会社から引き出す必要があり、その段階でさらに課税されます。
加えて、譲渡する資産のうち建物や設備には消費税がかかります。
どちらが有利かは、残っている借入額、繰越欠損金の有無、退職金の支給余地によって変わります。
具体的な試算は税理士に確認してください。

3. 自店はどちらを選ぶことになるか
手法は自由に選べるわけではなく、事業形態と目的でほぼ決まります。
ラーメン店の後継者問題|親族・従業員・第三者の承継先を比べて選ぶ
法人で全店舗を手放すなら株式譲渡
株式会社として運営していて、ラーメン事業がその会社の全部または大部分を占めるのであれば、株式譲渡が基本です。
手続きが簡潔で、許認可の取り直しも不要です。
従業員の雇用条件が変わらないため、譲渡後の離職も抑えられます。
譲受企業にとっても、そのまま営業を続けられる点で扱いやすい形です。
個人事業か、一部店舗だけなら事業譲渡
個人でラーメン店を営んでいる場合、株式が存在しないため事業譲渡になります。
法人であっても、3店舗のうち1店舗だけを譲りたい、あるいはラーメン事業を切り離して別事業に集中したいという場合は事業譲渡を選びます。
注意すべきは手続きの重さです。
賃貸借契約の巻き直し、従業員との再契約、営業許可の取得が必要で、どれか一つでも整わないと取引が止まります。
特に賃貸借契約は、貸主が代表者の変更を理由に賃料の引き上げや礼金を求めてくることがあり、破談の原因になりやすいところです。
法人化していないチェーン店は注意が必要
複数店舗を展開していても法人化していない場合、株式譲渡は選べません。
この点は見落とされやすく、譲渡を意識してから慌てて法人化を検討する例があります。
法人成りには時間と費用がかかり、直前に行うと譲受企業から不自然に見られる場合もあります。
数年先に譲渡の可能性があるのであれば、早い段階で顧問税理士と形態を相談しておいてください。

4. 手法を決めた後に確認すること
スキームが決まったら、実務の論点に移ります。
賃貸借契約の承諾を先に確認する
事業譲渡では賃借権の譲渡に貸主の承諾が必要で、株式譲渡であっても、契約に経営権の移動を制限する条項が入っていることがあります。
契約書を開いて、譲渡や経営権移動に関する条項の有無を確認してください。承諾が得られる見込みを早い段階で把握しておくと、交渉が途中で止まる事態を避けられます。
許認可の引き継ぎ可否を確認する
飲食店営業許可は、事業譲渡では譲受側が取り直しになります。深夜に酒類を提供している場合は深夜酒類提供飲食店営業の届出も必要です。
取り直しには保健所での手続きと時間がかかるため、引き渡し日から逆算して段取りを組んでください。
従業員への説明の順序を決める
株式譲渡であれば雇用契約は継続しますが、それでも従業員の不安は残ります。事業譲渡では個別に再契約が必要なため、説明の順序がそのまま離職率に響きます。
基本合意までは経営者と一部の役員だけで進め、全従業員への開示は最終契約の前後に行う形が一般的です。厨房の中心にいる従業員には、公表前に個別に話す場を用意してください。
譲渡価格がどう決まるのかについては、こちらのコラムもおすすめです。
『ラーメンのM&A|2026年の件数動向と譲渡相場、進め方を解説』

まとめ|手法は事業形態と借入で決まる
ラーメン屋のM&Aで使われるのは、株式譲渡、事業譲渡、居抜き売却の3つです。
法人で全店舗を手放すなら株式譲渡、個人事業か一部店舗だけなら事業譲渡になります。
居抜きは早く閉められる一方、屋号もレシピも顧客基盤も価格に乗りません。
判断を分けるのは借入です。
設備投資の借入が残っているのであれば、会社ごと引き継がれる株式譲渡のほうが、個人保証を外せる可能性がある分だけ有利になります。
次に取るべき行動は、自社の登記事項証明書と賃貸借契約書、そして借入残高の一覧を並べて確認することです。
法人かどうかで手法が決まり、賃貸借契約の条項で手続きの重さが決まり、借入残高で有利な手法が決まります。
この3点がそろえば、どちらを選ぶことになるかはほぼ判断できます。
そのうえで、税額の試算を顧問税理士に依頼してください。
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よくある質問
Q. ラーメン屋の株式譲渡と事業譲渡はどちらが良いですか?
法人で全店舗を手放すのであれば株式譲渡が基本です。賃貸借契約も雇用契約も飲食店営業許可もそのまま継続し、手続きが簡潔に済みます。譲渡代金は経営者個人に入り、分離課税として扱われるのが一般的です。個人事業の場合や、複数店舗のうち一部だけを譲りたい場合は事業譲渡になります。設備投資の借入が残っている場合は、会社ごと引き継がれる株式譲渡のほうが個人保証を外せる可能性があります。
【H3】Q. 個人経営のラーメン屋でも株式譲渡はできますか?
できません。株式譲渡は株式会社の株式を譲り渡す手法のため、法人化していない個人事業では株式が存在せず、取れるのは事業譲渡になります。複数店舗を展開していても法人化していなければ同じです。数年先に譲渡の可能性があるのであれば、早い段階で顧問税理士に形態を相談してください。譲渡の直前に法人成りすると、時間も費用もかかるうえ、譲受企業から不自然に見られる場合があります。
【H3】Q. 事業譲渡だと従業員の雇用はどうなりますか?
事業譲渡では雇用契約が自動的には引き継がれないため、譲受企業と従業員が個別に契約を結び直すことになります。従業員には同意しない自由があり、条件次第では退職を選ぶ人が出ます。株式譲渡であれば会社そのものが継続するので、雇用契約はそのままです。厨房の中心にいる従業員が抜けると営業に直結するため、事業譲渡を選ぶ場合は説明の順序と待遇の提示を慎重に設計してください。
【H3】Q. 居抜き売却とM&Aは何が違いますか?
居抜き売却で引き渡すのは厨房設備、内装、什器といった造作だけです。屋号、レシピ、常連の顧客基盤、従業員は引き継がれないため、のれん代にあたる営業権が価格に乗らないことがほとんどです。手続きは早く1か月から2か月で完了する例もあります。長年積み上げた認知やレシピに値段をつけたいのであれば、株式譲渡か事業譲渡を検討してください。
【H3】Q. 事業譲渡では税金はどうなりますか?
譲渡益は会社の利益として法人税の対象です。経営者個人が資金を受け取るには役員退職金や配当といった形で会社から引き出す必要があり、その段階でさらに課税されます。加えて、譲渡する資産のうち建物や設備には消費税がかかります。株式譲渡では譲渡益に所得税と住民税が課され、代金は経営者個人に直接入る形です。繰越欠損金の有無や退職金の支給余地で結論が変わるため、税理士への確認をおすすめします。