【物流業界M&A】中小企業経営者が知っておくべきM&Aのポイント

2024年問題を控え、事業承継や成長戦略としてM&Aを検討する企業が増えています。 本稿では、物流業界の経営者様に知っておいて欲しいM&Aのポイントについて解説します。

物流業界のM&Aの種類

物流業界のM&Aは、企業の規模拡大、経営効率化、事業承継など、様々な目的で行われます。 M&Aの種類によって、期待できる効果やリスクが異なるため、自社の経営戦略に合わせて適切な種類を選択することが重要です。大きく分けて、以下の3つの種類があります。

水平型M&A

同業種・同業態の企業同士がM&Aを行うこと。
例:運送会社A社が運送会社B社を買収

メリット:規模の経済によるコスト削減、営業エリアの拡大、サービスの拡充などが期待できる。水平型M&Aは、物流業界で最も多く見られるM&Aの種類です。同業他社を買収することで、市場シェアを拡大し、競争力を強化することができます。

垂直型M&A

川上・川下の企業同士がM&Aを行うこと。
例:運送会社が倉庫会社を買収

メリット:サプライチェーン全体の効率化、物流コストの削減、顧客へのサービス向上などが期待できる。垂直型M&Aは、物流業界のバリューチェーンを統合することで、効率化やコスト削減を図ることができます。

コングロマリット型M&A

異業種の企業同士がM&Aを行うこと。
例:運送会社がIT企業を買収
メリット:新たな事業領域への進出、シナジー効果による競争力強化などが期待できる。コングロマリット型M&Aは、異業種との連携によって、新たなビジネスモデルを構築することができます。

②物流業界のM&Aで譲渡側が気を付けておくべきこと

M&Aを成功させるためには、譲渡側(売り手)は以下の点に注意する必要があります。

  • 労務管理の徹底 未払残業代や適切な労働時間管理など、労務管理の状況はM&Aにおいて厳しくチェックされます。 日頃から労務管理を徹底し、問題があれば事前に改善しておくことが重要です。 具体的には、労働時間の記録を正確に行い、残業代を適切に支給すること、有給休暇の取得を促進すること、ハラスメント防止対策を講じることなどが挙げられます。
  • 車両のメンテナンス 車両の老朽化は、事業の継続性や収益性に影響を与えるため、適切なメンテナンスが必要です。 車両の状態をよく把握し、必要があれば修理や買い替えを行う必要があります。 また、燃費の良い車両を導入したり、エコドライブを推進したりすることで、環境負荷を低減することも重要です。
  • 財務状況の健全化 M&Aでは、会社の財務状況が厳しくチェックされます。 不必要な支出を削減し、収益性を高めることで、企業価値を高めることができます。 具体的には、コスト削減や売上増加のための施策を講じること、債務を圧縮すること、資金繰りを安定させることなどが挙げられます。
  • 事業計画の明確化 M&A後も事業を継続・発展させていくためには、明確な事業計画が必要です。 将来的なビジョンや戦略を明確に示すことで、買い手企業からの評価を高めることができます。 具体的には、市場分析や競合分析を行い、自社の強みと弱みを把握すること、ターゲットとする顧客層や市場を明確にすること、具体的な事業目標を設定することなどが挙げられます。
  • 情報開示 買い手企業は、M&Aを行う前に、譲渡企業の情報を詳しく調査します。 正確な情報を開示することで、買い手企業との信頼関係を築くことができます。 また、情報開示をスムーズに行うために、必要な資料を事前に準備しておくことも重要です。
  • 従業員への配慮 M&Aは、従業員に大きな不安を与える可能性があります。 M&Aの目的やメリットを丁寧に説明し、従業員の理解と協力を得ることが重要です。 また、M&A後の雇用条件や処遇について、事前に従業員に説明しておくことも重要です。
  • 専門家への相談 M&Aは、複雑な手続きや交渉を伴います。 弁護士や会計士などの専門家に相談することで、M&Aをスムーズに進めることができます。 専門家は、M&Aに関する法律や税務、会計などの専門知識を持っています。 また、M&Aの経験も豊富であるため、的確なアドバイスを受けることができます。

③物流・トラック運送業界のM&A相場

M&Aにおける企業価値の評価方法は、主に以下の2つがあります。

時価純資産法(年買法)

会社の資産から負債を差し引いた 純資産 をベースに評価する方法です。 物流業界では、車両や土地などの資産価値が評価に大きく影響します。 特に、保有車両の台数や種類、整備状況などが評価のポイントとなります。 また、土地や建物の立地条件や面積、築年数なども考慮されます。

類似企業比較法(マルチプル法)

類似の上場企業の 収益力 を参考に評価する方法です。 物流業界では、売上高や営業利益などの指標が参考にされます。 また、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などの指標も参考にされます。
これらの評価方法に加えて、会社の将来性や成長性、競争力なども考慮されます。 M&Aの相場は、会社の規模や業績、市場環境などによって大きく異なります。

具体的な相場感としては、以下の通りです。

  • 小規模な運送会社:年買法で1~3倍、マルチプル法で3~5倍
  • 中規模な運送会社:年買法で3~5倍、マルチプル法で5~7倍
  • 大規模な運送会社:年買法で5~10倍、マルチプル法で7~10倍

ただし、これはあくまでも目安であり、実際の相場はケースバイケースです。

④M&A交渉における株価算定の重要性

株価算定はM&Aの交渉において最も重要なプロセスの一つです。 物流業界では、特有の資産構造があるため、注意深く算定する必要があります。 特に、車両や不動産の評価は、企業価値に大きく影響します。

車両の時価評価

物流企業が保有するトラックや配送車両は、長期間使用され、帳簿上は価値が低く見積もられていることが多いです。 しかし、実際の市場価値や使用価値が高いこともあります。 そのため、市場価格に基づいた適切な評価を行うことが重要です。 また、車両の更新タイミングが近い場合は、そのコストも株価に影響を与えます。

不動産資産の評価

物流企業が所有する倉庫や物流拠点の時価評価も、企業価値に大きく影響します。 土地や建物の市場価値を正確に見積もることが必要です。 自社保有物件と賃貸物件では評価方法が異なるため、それぞれに応じた評価を行うことが求められます。

⑤譲受候補企業リストアップのポイント

譲受候補企業をリストアップする初期段階のリストを「ロングリスト」といいます。 このリストを作成する際に最も重要なのは、シナジー効果 です。 譲渡企業と譲受企業が統合することで、事業拡大や効率化が見込めるかを確認します。
例えば、長距離輸送に強みを持つ企業と、地場配送に特化した企業が統合すれば、輸送範囲が広がり、業務の効率化が図れるでしょう。 また、近年の「2024年問題」に対応するために、長距離輸送を辞め、地場配送に注力する企業も増えており、エリア別での候補先をリストアップすることも大切です。
その他にも、以下の点を考慮して譲受候補企業をリストアップします。

  • 経営理念やビジョンの一致 譲渡企業と譲受企業の経営理念やビジョンが一致していることが重要です。 M&A後、スムーズに統合を進めるためには、両社の目指す方向性が同じである必要があります。
  • 財務状況 譲受候補企業の財務状況が健全であることを確認する必要があります。 財務状況が悪化している企業とのM&Aは、M&A後に経営不振に陥る可能性があります。
  • 企業文化 譲渡企業と譲受企業の企業文化が近い方が、M&A後の統合がスムーズに進みます。 企業文化の違いが大きい場合は、従業員の反発やモチベーションの低下に繋がる可能性があります。
  • 人的資源 譲受候補企業の人的資源も重要な要素です。 優秀な人材を抱えている企業とのM&Aは、M&A後の事業成長に大きく貢献します。
  • 技術力 譲受候補企業の技術力も重要な要素です。 高い技術力を持つ企業とのM&Aは、自社の技術力向上や新製品開発に繋がる可能性があります。

⑥物流業界のM&Aにおけるアピールポイント

物流業界のM&Aにおいて、自社の魅力をアピールするためには、以下の点に注意する必要があります。

2024年問題への対応力

働き方改革関連法への対応状況をアピールすることで、買い手企業の安心感を得ることができます。 例えば、ドライバーの労働時間管理システムを導入していること、ドライバーの労働時間削減に取り組んでいること、賃金体系を見直して待遇改善を図っていることなどを具体的に示しましょう。 「ホワイト物流」推進運動への参加や、グリーン経営認証の取得なども有効です。

特定分野への強み

特定の分野に特化したサービスやノウハウを持っている場合は、それを積極的にアピールしましょう。 例えば、以下のような強みをアピールポイントとして挙げることができます。

  • 特殊な貨物への対応力:精密機器、危険物、医薬品など、特殊な貨物の輸送に対応できることは大きな強みとなります。
  • 温度管理輸送への対応力:冷凍・冷蔵輸送など、温度管理が必要な貨物の輸送に対応できることは、食品や医薬品などを扱う荷主にとって魅力的です。
  • 国際物流への対応力:海外との取引がある荷主にとって、国際物流に対応できることは大きなメリットとなります。
  • 3PL(サードパーティロジスティクス)への対応力:荷主の物流業務全般を請け負う3PLに対応できることは、物流業務の効率化を図りたい荷主にとって魅力的です。
  • ITシステムの導入:WMS(倉庫管理システム)やTMS(輸送管理システム)などのITシステムを導入していることは、物流業務の効率化や可視化を図りたい荷主にとって魅力的です。
  • 環境への配慮:環境負荷低減への取り組みをアピールすることも重要です。 例えば、低公害車の導入、エコドライブの推進、モーダルシフトの推進などに取り組んでいることをアピールしましょう。

顧客基盤

安定した顧客基盤を持っていることは、企業の収益力や将来性を示す重要な指標となります。 主要な取引先や顧客との長期的な取引実績をアピールしましょう。 また、顧客満足度が高いこともアピールポイントとなります。

地域密着型サービス

特定の地域に密着したサービスを提供している場合は、その地域におけるネットワークやノウハウをアピールしましょう。 地域密着型のサービスは、地域経済への貢献度が高く、買い手企業にとっても魅力的です。

優秀な人材

優秀なドライバーや物流管理者を確保していることは、企業の競争力を維持するために不可欠です。 従業員の定着率の高さや、人材育成への取り組みをアピールしましょう。

安全管理体制

安全管理体制が充実していることは、荷主からの信頼を得るために重要です。 事故防止のための取り組みや、安全教育の実施状況などをアピールしましょう。

コンプライアンス体制

コンプライアンス体制が整備されていることは、M&Aにおいて重要な要素となります。 法令遵守はもちろんのこと、倫理的な行動規範を定めていることなどをアピールしましょう。

財務状況の健全性

財務状況が健全であることは、企業の安定性を示す重要な指標となります。 最新の財務諸表を基に、収益性、安全性、成長性をアピールしましょう。

事業計画の明確さ

M&A後も事業を継続・発展させていくためには、明確な事業計画が必要です。 将来的なビジョンや戦略を明確に示すことで、買い手企業からの評価を高めることができます。

最後に

M&Aは、物流業界の中小企業にとって、成長戦略や事業承継を実現する上で、もはや無視できない選択肢の一つとなっています。 しかし、M&Aは企業の未来を左右する重大な決断です。 リスクを最小限に抑え、成功を掴むためには、綿密な準備と戦略的な行動が不可欠となります。

船井総研グループでは、物流業界に精通したコンサルタント「船井総研ロジ」とM&A専門のコンサルタントがタッグを組み、M&Aを成功へと導きます。まずはお気軽にご相談ください。

コンサルタントに無料相談する

物流・倉庫業界のM&Aに関する詳細な情報は、こちらをご参照ください。

1.物流・倉庫業界M&AのTOPページへ
2.物流・倉庫業界M&A;2024年以降の時流・今後・動向・ポイントを解説
3.物流・倉庫業界のM&Aのメリット・デメリット
4.物流・倉庫業界の中小企業経営者が知っておくべきM&Aのポイント
5.物流・倉庫業界の最近のM&A事例を解説

亀田 剛

(株)船井総研あがたFAS ディレクター

2003年 船井総研ロジ株式会社に入社。3PL事業部門で荷主企業に向けた物流アウトソーシングをテーマに実効性の高いコンサルティング提案をおこなう。現在は、物流事業者の持続的成長の観点で経営者と伴走しながら、成長戦略や事業承継等のM&A業務に従事。

亀田 剛

(株)船井総研あがたFAS ディレクター

2003年 船井総研ロジ株式会社に入社。3PL事業部門で荷主企業に向けた物流アウトソーシングをテーマに実効性の高いコンサルティング提案をおこなう。現在は、物流事業者の持続的成長の観点で経営者と伴走しながら、成長戦略や事業承継等のM&A業務に従事。