魚(ウオ)の目でみるM&Aと事業承継
- 事業承継
業界と企業のライフサイクル(流れ)を考慮したM&A戦略について考えてみます。
M&Aの活用方法は、業界のライフサイクルによって変動します。
業界の成熟度や業界内の競争状態によって、M&Aが発生しやすい時期があります。
ライフサイクルを、導入期、成長期、成熟期、衰退期と分ると、M&Aが発生しやすい時期は、いつでしょうか。
業界の成熟期にM&Aの売却を検討される方が多いと実感しています。
業界が成熟していると、成功事例も多く、業界への参入者が増加します。すると、商圏内のシェアの拡大が困難となり、業績拡大や利益の確保が困難となります。
業界自体が成長しない時期である為、競争優位の位置にない企業は将来の事業承継を検討する際、戦略的に事業の売却の検討に至る場合があるようです。
後継者がその企業に就職していたとしても、業界の先行きの不安感や従業員の幸せの為には「売却」が望ましいケースがあります。
成熟期の企業は成長率が鈍化するものの、一定の売上や利益水準の確保ができている企業が多く、高値で会社や事業を「売却」できる確率が上がります。
一方、衰退期になると売却を検討されても、企業価値を上げての売却は困難となります。
競合は既に撤退した後であり、中堅や大手が更なるシェアアップを図るケースが多くなります。
従いまして、一定以上の市場シェアを確保している企業は業績が安定しています。
次に、業界と企業のライフサイクル(流れ)を考慮した事業承継を検討してみます。
事業承継について、社長の選択肢は2つしかありません。
1.後継者が「継ぐ」
2.経営者が「売る」
では、企業のライフサイクル別に検証してみます。
導入期や成長期は、後継者が「継ぐ」選択肢をとっても市場自体が成長している為、業績をUPさせることは、比較的容易と考えます。
成熟期に、後継者が「継ぐ」という選択肢をとるとどうなるでしょうか。
市場自体の成長率は鈍っていますが、一定の売上や利益の確保はできる状況にある為、目先の問題はありません。しかし、10年、20年先を見据えた場合はどうしょうか。その業界が成熟期のままといえるでしょうか。衰退期に突入する可能性はないでしょうか。
この場合、「売る」選択肢をとった場合のほうが、経営者一族、そして従業員とその家族にとって、よい判断となる場合があります。成熟期の会社は衰退期に比べ企業価値が高く、高値で売却できる可能性が高いからです。
衰退期に、後継者が「継ぐ」選択肢をとると、シェアUPは非常に難しくなります。
後継者や従業員にとっては試練となるでしょう。
以上まとめてみると、時代の変化に気付かされます。
私達の父親の世代である、30年前(1985年あたり)は、人口が増加していました。多くの成長期の企業が存在し、子が「継ぐ」ことが当たり前であった時代です。
しかし、今後日本国内の人口は減少傾向にあり、65歳以上の割合が増加傾向にあります。
多くの業界が30年前は成長期にあった場合が多く、今は安定期、衰退期に入っています。
従って、30年前は親の事業を子が引継ぎ業績をさらに上げることが現在に比べ容易でしたが、今は子に引継いでよいかどうかを躊躇される方が多いかと思います。
10年、20年先を見据え、自社の従業員の幸せを考えた場合、どちらの選択肢が賢明でしょうか。残酷な選択肢かもしれませんが、冷静に時代の流れをよみ判断していかなければならないと思います。
夜の風がすこし涼しくなってきた気がします。夏から秋への季節の変化を感じます。
魚の目で、時代の変化と流れをよみ、自社の「旬」を見極め次の一手をどうするか。
今後の中長期計画策定におきまして、参考にして頂ければ幸いです。
税務監査・財務コンサルティングの業務経験に加え、事業承継・事業再生コンサルティングの成功経験を多く持つ。2017年10月に船井総研中途入社後、M&Aコンサルティングにより22件の案件成約を担当。 現在、船井総研における事業承継・M&Aコンサルティングの中核的な役割を担う。
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